神様がくれた時間―余命半年のボクと記憶喪失のキミの話―

コハラ

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7話

告白<4>

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 廊下の突き当りにドアがあり、ドアを開けるとキッチンスペースと、ベッドか置かれた六帖くらいの広さの部屋があった。

 家具は必要最低限のものしかなく、何だか寂しい印象だ。
 希美をベッドまで連れて行き、寝かせる。

「何もない部屋でしょ」

 ベッドに横になった希美が口にした。

「風邪薬もなくて」
「風邪薬、買って来ようか?」
「大丈夫です。隣の井上さんに買って来てもらいましたから」
「何かして欲しいことはある?」

 希美が手を伸ばす。

「側にいて欲しい」

 希美の体温の高い手をぎゅっと握った。

「わかった。側にいるよ。お腹はすいてる?」
「ちょっとだけ」
「今、リゾット用意するから」

 凪でテイクアウトしたリゾットを希美の前に置いた。

「うわぁ、いい匂い」

 希美が起き上がる。

「今、作ってもらったばかりだから」

 コンビニの袋からスポーツドリンクを取り出し、蓋を開けて、希美に渡す。希美がマスクを顎の下にずらし、スポーツドリンクを口にする。それから、備え付けのプラスチックのスプーンを持ち、「いただきます」と言ってから、リゾットを口に運んだ。

「美穂さんの優しい味がする! 私、美穂さんの料理が好きなんです」
「オーナーシェフの美穂さんだっけ?」
「はい。とってもいい人なんですよ。いつも相談に乗ってもらっています。私がここに来る切っ掛けをくれた人で」

 希美は美穂さんに誘われて、凪で働き始めた経緯を話してくれた。
 僕の知らなかった希美の物語を知り、落ち込んだ。まさか江戸川区のマンションを出たいと思うほど、希美を傷つけていたとは思わなかった。

「自分でも思い切ったことしたなって思って。でも、来て良かった」

 希美が僕を見る。美しい栗色の瞳に僕が映る。
 先日、希美とキスしたことを思い出し、胸が高鳴った。

「あーもう、お腹いっぱい」

 希美がおどけたように言った。そんな希美を抱きしめたくなるが、昂った気持ちを静める為、ベッドサイドの棚を見た。市販の風邪薬の瓶が目に入る。

「風邪薬飲む?」

 希美がコクリと頷き、「大人は三錠」と口にした。
 その言葉を聞いて、希美とのやり取りを思い出す。

 ――涼くん、大人は三錠ね。
 ――じゃあ、希美は二錠だな。子供だから。
 ――またそういう意地悪いう。
 ――風邪をひくと子どもに戻るじゃないか。僕が添い寝しないと安心できないんだろ?
 ――だってなんか心細くなるんだもん。

 僕に甘える希美が愛しかった。

「添い寝してくれますか?」

 風邪薬を飲むと、希美が言った。

「なんだか心細くて」

 変わらない希美に泣きそうになる。

「僕でいいの?」
「あなたがいいの」

 甘えるように希美が僕の腕を掴んだ。

「しょうがないな」

 そう言いながら、僕は希美と一緒にベッドに横になる。
 僕たちは向かい合う体勢になり、希美の顔は僕の胸の辺りにあった。

「心臓の音が安心する」

 僕の胸に顔を寄せたまま希美が言った。

「ちゃんと寝るんだよ」

 ぽんぽんと希美の頭を撫でると、「うん」って返事がした。

「こうしていると、昔に戻ったみたいだね。涼くん」

 涼くんと呼ばれてハッとする。

「希美……」

 起き上がろうとしたら、強い力で希美に抱きしめられる。

「涼くん、どこにもいかないで。涼くんの抱えている問題については聞かないから。今だけ私だけの涼くんでいて」

 涙交じりの声に胸が締め付けられる。

 希美は僕の正体に気づいていたんだ。
 野島崎灯台近くのベンチで『涼くん』と希美に呼ばれてから、もしかしてという気持ちはあった。

 でも、希美はいつから気づいていたんだろう……。
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