64 / 179
雨宮課長と温泉旅館
《10》
しおりを挟む
「暴れるな! 大人しくさせろよ!」
成瀬君が血走った目を向けて、手を挙げる。
叩かれると思った時、成瀬君が後ろに倒れた。
倒れた成瀬君の後ろで雨宮課長が仁王立ちになっていた。
私の悲鳴が聞こえたんだ。
「出て行け! さもなければ警察に通報する!」
凄い剣幕で雨宮課長が成瀬君に怒鳴った。
課長の声はお腹に響く程だった。
倒れた成瀬君があわあわとする。
「いや、あの、これはちょっとした冗談で。奈々子、ごめんな」
そう言って成瀬君が部屋から出て行った。
雨宮課長と二人きりになる。
お礼を言おうとしたら、課長はうんざりしたような、疲れたような深いため息をついた。
「君は一体何をやっているんだ? 仕事で来ているんだぞ。上司と一緒に出張に来て部屋に男を連れ込むとは呆れるよ。そんないい加減な気持ちで仕事をしているのか?」
お布団の上に正座になる私に課長が立ったままお説教をする。
ちょっと待って。男を連れ込むって言い方はないんじゃないの? それにいい加減な気持ちで仕事していないし。
「見損なったよ。こんな事して最低だ。中島さんが一生懸命だから協力していたが、俺は明日の朝、先に帰らせてもらう。映画のフィルムは中島さんが一人で取りに行きなさい」
課長、酷い。
本気で私の事を男を連れ込むような女だと思っているの?
だいたい課長が楽しんでおいでとか言ってバーに行かせたんじゃない。
プツンと何かが切れた。
「連れ込んでなんかいません! 成瀬君が勝手に入って来たんです!」
感情的に叫んだ。
悔しさがどんどん込み上がってくる。
「そもそも課長がいけないんですよ! 楽しんでおいでとか言っちゃって。私は十年ぶりに会った元彼となんかバーに行きたくなかったんです。でも、課長が私の事を邪魔そうにするから、行った方がいいと思ったんです。それなのに連れ込んだとかって酷い。私、簡単に男を連れ込むような女じゃありません! 男性経験だって一人しかありません! 尻軽女みたいな言い方しないで下さい! それにいい加減な気持ちの訳ないでしょ! 映画のフィルムを見つけられなかったら、久保田とセットで札幌に飛ばされるって脅されてるんですよ!」
「札幌に飛ばされる?」
雨宮課長が眉を顰めて心配そうな顔をする。
しまった。
つい感情的になって余計な事を口走った。
「なんでそんな大事な事を黙っていたんだ」
「私がどうなろうと課長には関係ないでしょ! そうやって心配するのやめて下さい! 私の事は……もう、ほっといて……」
はらりと涙が零れた。
雨宮課長を目の前にするといつも弱くなる。
映画館で課長にハンカチを借りてから、私のペースは崩れまくっている。
もう、感情に振り回されるのはイヤだ。
こんなの私じゃない。
成瀬君が血走った目を向けて、手を挙げる。
叩かれると思った時、成瀬君が後ろに倒れた。
倒れた成瀬君の後ろで雨宮課長が仁王立ちになっていた。
私の悲鳴が聞こえたんだ。
「出て行け! さもなければ警察に通報する!」
凄い剣幕で雨宮課長が成瀬君に怒鳴った。
課長の声はお腹に響く程だった。
倒れた成瀬君があわあわとする。
「いや、あの、これはちょっとした冗談で。奈々子、ごめんな」
そう言って成瀬君が部屋から出て行った。
雨宮課長と二人きりになる。
お礼を言おうとしたら、課長はうんざりしたような、疲れたような深いため息をついた。
「君は一体何をやっているんだ? 仕事で来ているんだぞ。上司と一緒に出張に来て部屋に男を連れ込むとは呆れるよ。そんないい加減な気持ちで仕事をしているのか?」
お布団の上に正座になる私に課長が立ったままお説教をする。
ちょっと待って。男を連れ込むって言い方はないんじゃないの? それにいい加減な気持ちで仕事していないし。
「見損なったよ。こんな事して最低だ。中島さんが一生懸命だから協力していたが、俺は明日の朝、先に帰らせてもらう。映画のフィルムは中島さんが一人で取りに行きなさい」
課長、酷い。
本気で私の事を男を連れ込むような女だと思っているの?
だいたい課長が楽しんでおいでとか言ってバーに行かせたんじゃない。
プツンと何かが切れた。
「連れ込んでなんかいません! 成瀬君が勝手に入って来たんです!」
感情的に叫んだ。
悔しさがどんどん込み上がってくる。
「そもそも課長がいけないんですよ! 楽しんでおいでとか言っちゃって。私は十年ぶりに会った元彼となんかバーに行きたくなかったんです。でも、課長が私の事を邪魔そうにするから、行った方がいいと思ったんです。それなのに連れ込んだとかって酷い。私、簡単に男を連れ込むような女じゃありません! 男性経験だって一人しかありません! 尻軽女みたいな言い方しないで下さい! それにいい加減な気持ちの訳ないでしょ! 映画のフィルムを見つけられなかったら、久保田とセットで札幌に飛ばされるって脅されてるんですよ!」
「札幌に飛ばされる?」
雨宮課長が眉を顰めて心配そうな顔をする。
しまった。
つい感情的になって余計な事を口走った。
「なんでそんな大事な事を黙っていたんだ」
「私がどうなろうと課長には関係ないでしょ! そうやって心配するのやめて下さい! 私の事は……もう、ほっといて……」
はらりと涙が零れた。
雨宮課長を目の前にするといつも弱くなる。
映画館で課長にハンカチを借りてから、私のペースは崩れまくっている。
もう、感情に振り回されるのはイヤだ。
こんなの私じゃない。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
25
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる