雨宮課長に甘えたい

コハラ

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雨宮課長と温泉旅館

《11》

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「出て行って下さい」

泣き顔を見られたくなくて背を向ける。

「どうぞ。明日はお先にお帰り下さい。私は一人で大丈夫なので。映画のフィルムの事では大変お世話になりました。藤原さんに紹介してもらったし、後は一人で大丈夫ですから」

手の甲にぽたぽたと涙が落ちた。
止めたいのに涙が止まらない。

泣いているのがカッコ悪い。

もう最悪。

こんな姿、雨宮課長に見られたくないのに。

背中で失望したような低いため息が聞こえ、それから雨宮課長が部屋から出て行く気配がした。

六畳間の襖が閉まった瞬間、枕に顔を埋めて泣いた。

雨宮課長、もうハンカチ貸してくれないんだ。

見捨てられたんだ。

そう思ったら胸が張り裂ける程、痛くなった。

気づいたら泣いたまま眠っていた。

喉が物凄く乾いて、のろのろと布団から立ち上がり、隣の八畳間にあるミニバーに飲み物を取りに行く。

ひゃっ。

誰かいる。

襖を開けた瞬間、目に入って来たのはオレンジ色の豆電球の灯りの下に見える人の形。

よく見ると座卓の上に突っ伏した状態で、雨宮課長が眠っている。

何で? 

課長、部屋に帰らなかったの?

デジタル時計を見るとAM5:20と出ていた。

もう朝……。

雨宮課長、一晩中ここにいたの?

私の泣き声を聞いていたの?

どうして?

「中島さん、ごめん」

座卓に突っ伏したままの課長が寝言のように言った。

「悪かった。ごめん」

謝罪の言葉に胸がキュンとする。

「課長、起きているんですか?」
「中島さん……。うーん」

意識はないみたい。

そっか。

課長、謝りたくて、ここにいたのか。
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