175 / 179
一緒に暮らす
《7》
しおりを挟む
新しい年になって、最初に出社した日、疋田さんが書類を持って私のデスクまでやって来た。
「中島さん、引っ越しをされたようですが」
「はい」
引っ越せば住所変更の手続きを総務でしなければいけないので、すぐにバレる。
「住所が雨宮課長と同じようなのですが、どういう事ですか?」
「えっ」
疋田さん、拓海さんの住所まで確認しているなんて怖い。
どうしよう。何て言おう。
「まさかあなた、雨宮課長に迷惑をかけるような事をしているんじゃないでしょうね? 住む所がなくて書類上に書く住所を借りているとか」
住所を借りるって……。
そんな風に考えるんだ。疋田さんの想像力凄いな。一緒に暮らしているとは考えないんだ。
疋田さんの言葉が可笑しくて、つい笑みがこぼれる。
「何、笑っているの? 不愉快なんだけど」
冷たい声で言われた。
笑ってはいけなかったのか。
「すみません。住所を借りている訳ではありませんし、雨宮課長にも迷惑をかけていないので、心配はいりません」
「じゃあ、どういう事なの?」
「どういうって、それは……」
拓海さんに一緒に暮らしている事を言っていいか、確認していなかった。佐伯リカコの件も落ち着いたし、つき合っている事をもう公表しても大丈夫だと思うけど、どうしよう?
まだ隠した方がいいのかな。会社的には部下とつき合っている事で拓海さんの立場が悪くなったりするのかな?
「中島さんと僕が一緒に暮らしているって事ですよ」
疋田さんの後ろから拓海さんの声がした。
驚いて視線を向けると、庶務係の出入り口スペースに拓海さんが立っている。
「雨宮課長……」
疋田さんが首をキョロキョロと動かせて、私と拓海さんの顔を何度も見比べる。
「今、何と?」
疋田さんの視線が拓海さんで止まる。
「ですから、僕と中島さんは同棲しています。疋田さんが仕事熱心なのは知っていますが、これはプライバシーの侵害です」
疋田さんの顔が真っ赤になる。
「す、すみません。書類のミスかと思って」
「ミスではありません。中島さんはきちんと書類を作成して提出しています。確認は僕がしました。既に処理したはずの物を掘り起こすのはどういう意図があってですか? 僕の仕事が信用できませんか?」
拓海さんの表情が厳しい物に変わる。
傍から見ていても怖い上司の顔だ。
「い、いえ」
疋田さんはそれ以上、何も言えなくなってしまった。
拓海さんに叱られたのは初めてなんだろうか。
「雨宮課長、疋田さんは課長の事を心配して下さったので、もうその辺で」
ちょっと疋田さんが可哀そうだったから言ってあげた。
拓海さんは、はあっと息をつき、「僕の事を心配する暇があったら仕事をしっかりして下さい」と疋田さんに注意した。
疋田さん、言われちゃった。
女子トイレで拓海さんの陰口を言っている所が浮かぶ。きっと今日からアンチ雨宮課長になるんだろうな。私もセットで叩かれるのかな。まあ、いいや。
疋田さんが退散すると、栗原さんが「へえー」と呟いた。
今のやり取りで、庶務係にいたみんなに拓海さんと一緒に暮らしている事がバレた。
「やっぱり雨宮課長は中島さんに気があったんですね」
まりえちゃんが言った。
「中島さん、雨宮課長のハートを射止めちゃったんだ」
風見係長まで乗って来た。
「なんか照れくさい空気が漂ってますが」
後藤さんがこの場の雰囲気を総括するように言ってくれた。
拓海さんと目を合わせて、照れ笑い。
「雨宮課長、用がないのならさっさと向こうに行って下さい」
私の言葉に拓海さんが「中島さんを呼びに来たんです」と言った。
私を呼びに? 何だろう?
拓海さんに連れられて会議室に行くと、阿久津と、人事の小宮部長までいた。
嫌な予感……。
「中島さん、引っ越しをされたようですが」
「はい」
引っ越せば住所変更の手続きを総務でしなければいけないので、すぐにバレる。
「住所が雨宮課長と同じようなのですが、どういう事ですか?」
「えっ」
疋田さん、拓海さんの住所まで確認しているなんて怖い。
どうしよう。何て言おう。
「まさかあなた、雨宮課長に迷惑をかけるような事をしているんじゃないでしょうね? 住む所がなくて書類上に書く住所を借りているとか」
住所を借りるって……。
そんな風に考えるんだ。疋田さんの想像力凄いな。一緒に暮らしているとは考えないんだ。
疋田さんの言葉が可笑しくて、つい笑みがこぼれる。
「何、笑っているの? 不愉快なんだけど」
冷たい声で言われた。
笑ってはいけなかったのか。
「すみません。住所を借りている訳ではありませんし、雨宮課長にも迷惑をかけていないので、心配はいりません」
「じゃあ、どういう事なの?」
「どういうって、それは……」
拓海さんに一緒に暮らしている事を言っていいか、確認していなかった。佐伯リカコの件も落ち着いたし、つき合っている事をもう公表しても大丈夫だと思うけど、どうしよう?
まだ隠した方がいいのかな。会社的には部下とつき合っている事で拓海さんの立場が悪くなったりするのかな?
「中島さんと僕が一緒に暮らしているって事ですよ」
疋田さんの後ろから拓海さんの声がした。
驚いて視線を向けると、庶務係の出入り口スペースに拓海さんが立っている。
「雨宮課長……」
疋田さんが首をキョロキョロと動かせて、私と拓海さんの顔を何度も見比べる。
「今、何と?」
疋田さんの視線が拓海さんで止まる。
「ですから、僕と中島さんは同棲しています。疋田さんが仕事熱心なのは知っていますが、これはプライバシーの侵害です」
疋田さんの顔が真っ赤になる。
「す、すみません。書類のミスかと思って」
「ミスではありません。中島さんはきちんと書類を作成して提出しています。確認は僕がしました。既に処理したはずの物を掘り起こすのはどういう意図があってですか? 僕の仕事が信用できませんか?」
拓海さんの表情が厳しい物に変わる。
傍から見ていても怖い上司の顔だ。
「い、いえ」
疋田さんはそれ以上、何も言えなくなってしまった。
拓海さんに叱られたのは初めてなんだろうか。
「雨宮課長、疋田さんは課長の事を心配して下さったので、もうその辺で」
ちょっと疋田さんが可哀そうだったから言ってあげた。
拓海さんは、はあっと息をつき、「僕の事を心配する暇があったら仕事をしっかりして下さい」と疋田さんに注意した。
疋田さん、言われちゃった。
女子トイレで拓海さんの陰口を言っている所が浮かぶ。きっと今日からアンチ雨宮課長になるんだろうな。私もセットで叩かれるのかな。まあ、いいや。
疋田さんが退散すると、栗原さんが「へえー」と呟いた。
今のやり取りで、庶務係にいたみんなに拓海さんと一緒に暮らしている事がバレた。
「やっぱり雨宮課長は中島さんに気があったんですね」
まりえちゃんが言った。
「中島さん、雨宮課長のハートを射止めちゃったんだ」
風見係長まで乗って来た。
「なんか照れくさい空気が漂ってますが」
後藤さんがこの場の雰囲気を総括するように言ってくれた。
拓海さんと目を合わせて、照れ笑い。
「雨宮課長、用がないのならさっさと向こうに行って下さい」
私の言葉に拓海さんが「中島さんを呼びに来たんです」と言った。
私を呼びに? 何だろう?
拓海さんに連れられて会議室に行くと、阿久津と、人事の小宮部長までいた。
嫌な予感……。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
25
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる