【完結】元婚約者の聖騎士さまが恐ろしくてたまらないのですが、どうあっても逃げられないようです

雪野原よる

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1.聖騎士さまの笑み(脅迫)

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 最近、何を考えていたとしても、必ず二言目にはこう思っている。

 聖騎士怖い。

「……たかが魔物如き、とはいえ、湧いて出るのを踏み潰すのも、そろそろ飽き飽きしてきましたね。徹底して始末してしまいましょう」

 どんな台詞を言っていたとしても、口許にはごく優しげな笑みが浮かんでいるのが怖い。
 まるで天の御使いの如く、清らかに輝いて見えるのが怖い。

「ディルティーナ? 周りに被害を出さないよう、結界を強化してくれますか」
「は、はいっ」

 彼に視線を向けられた途端、私はびくんと全身を跳ねさせ、木の棒か何かになったかのように真っ直ぐに硬直した。
 だが、固まっている暇はない。口をもごもごと動かし、宙に魔法式を描いて発動させる。一回で済むよう、正確に、そして的確に。

「終わりました」
「よく出来ました」

 サフィード様は薄く微笑む。
 その足元から、白くぼうっと光る粒子が群れなして飛び上がり、神聖文字を重ね合わせた陣を形作る。彼が篭手に包まれた手を挙げると、光は全てその掌に吸い込まれて一層眩く輝いた。

 白く整った横顔が、光を受けて浮かび上がる。

 次の瞬間、ダン! と音を立てて、サフィード様は掌を地面に叩き付けた。四方に光の筋が広がり、滅びの白い光が周囲の大地を覆い尽くす。滅びの光、それは聖騎士たちに言わせれば、浄化の光というらしいのだが。

(怖い。浄化が行き過ぎてて怖い)

 この「浄化」とやらは、彼が指定した範囲の地表上にある全ての生命を殺すのである。魔物だろうが動物だろうが、植物だって、地衣類だって逃げられない。当然だが人も死ぬ。

「人まで殺すのはやり過ぎなのでは……?」

 一度、勇気を奮って意見を述べてみたことがある。

 サフィード様は、それはそれは優しい眼差しで私を見下ろすと、

「善悪を判定するのは神の領域で、一介の聖騎士である私が関わるべきものではありません。生命は平等なのです」

 つまり、「生きてるものは平等に皆殺しだ」と言われた。

 やばい。

(聖騎士って、皆、サフィード様みたいなのかな)

 不幸にして、いや、幸いと言うべきなのか、私はサフィード様以外の聖騎士を知らない。他の聖騎士までこうだったら、今頃魔物は根絶やしにされて、この国は朝晩必ず聖騎士様に感謝の祈りを捧げないと生きていけない聖なる地獄になっているだろう。

「ディルティーナ?」
「……はっ! な、何でしょうか、サフィード様」
「返事が遅いですね。何を考えていたのでしょう?」
「い、いえ、サフィード様の神聖魔法は本当に素晴らしいなと考えておりました」
「それは賢明な返答ですね」

 サフィード様の水色の瞳が、微笑みを湛えながら私を見下ろしている。
 サフィード様はいつも笑っているけれど、その笑みには様々な温度差があり、バリエーションがある。今、私に向けているのは、「脅迫の笑み」だ。

「貴方は一度、間違えてしまいましたからね。経験から学んで、言動に深みが増したようですね。素晴らしいことです」

 意訳:もう一度裏切ったら、全身の骨を砕いて殺しますからね?

「……は、はい」

 寒気が止まらない。
 私の元婚約者は、本当に恐ろしい人だ。
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