クール系幹部が渋滞している〈困惑〉

雪野原よる

文字の大きさ
59 / 69

第四十六話 これはもう最終回じゃな(確信)

しおりを挟む
 総裁パパによる砲撃は、「賢者」をほぼ無力化したようじゃ。

 一方で、あちこち跳ね回る「道化」を射程範囲に収めるのに苦労しているようじゃが……


「トリッキーな敵のお相手、ですか。私も特に得意なわけではありませんが、他の者よりはマシでしょう。お引き受けしますよ」


 響いたのは、「いつも一番最後に登場する男」の声であった。

(え?)

 何がどう、ひっくり返ったのかの?

 差し込む薄明かりに照らされて、包帯で両眼を塞いだ細面の男が歩み寄ってくる。迷いのない足取りに、妾が目を見張ってポカンとしておると、すれ違い様にぽんと肩を叩かれた。そのまま、巻かれた包帯を解きながら、暗い市街地に分け入っていく。

(え? え?)

「無事か、リリス。……大丈夫そうだな」

 続けて、同じ方向から現れたのは、雅仁と守であった。

「セ、セイレスお兄ちゃん? どうしてここに?」
「俺が寝泊まりしている道場からここまで、思い立ったらすぐに国に帰れるよう、専用の直通艇が用意されているんだ。皆を乗せてここまで来た」
「皆、というと……」

 首を伸ばして、雅仁の背後を見ると、

「レジーナちゃん! 私たちも来たよ!」
「こんな、いきなりの呼び出し、私たちでなければ対応できないわよ。感謝なさいな」
「ここが銀河帝国の首都ですか。月が三つあるそうですね。とても興味深いです」

 いつも通り、賑やかな女子組の姿が見えて、一瞬、ほっとしかけた妾であったが……

「リリス」

 その後ろに現れた人物を見て、妾、驚きのあまり、ジョーカーの肩上から転がり落ちそうになった。すぐさまジョーカーの手が支えてくれたのであるが。

 暗がりでも分かる、引き締まった長身。銀色の髪。雅仁と似ているが、より鋭く、威厳と確信に満ちて揺るぎないその姿。

「私も戦おう」
「パパ……!」

 同じパパでも、いや同じパパなどおらんし全て違うパパなのじゃが、実父の方のパパである。

 銀河帝国現皇帝、隼生・アスクム・ジェス・アヴァルティーダ。

 老いの影などどこにもない。そもそも老いるような齢ではないし、銀河帝国は若返り技術に長けておるので当然の話なのじゃが、全盛期の美貌に王としての迫力を加え、間違いなく帝国における至高の人そのものである。皇族として、当然のように魅了スキルを持ち合わせておるのじゃが、その魅了は雅仁のように色香が炸裂する爆弾ではなく、ひれ伏して崇めさせる方じゃ。妾の憧れである──いや、

(こんな場所に現れるお人ではなかろう?!!)

「ど、どうしてここに……? マ、ママは? もしかして、ママも来ているのかの?」

 仰天していることを隠しもせず、問いかけると、やや苦みを含んだ笑みが返ってきた。

「いや、ユディールはまだ眠っている」
「パパだって、まだ万全の体調とは言えなかろう?! 大人しく寝ているべきじゃ!」
「……リリスに心配されてしまったぞ、雅仁。妙に嬉しいものだな」
「それは当然心配するでしょう、父上」
「大丈夫だ。久しぶりに一緒に合体技でも撃ってみるか? お前が子供の頃、よくそうして遊んだだろう」

 うっかり、家族のほのぼの団欒じみた空気が流れ始めてしまったが、

「では、我々は帝城を目指しますので。後のことはお任せいたします」

 ジョーカーが流れをぶった切ってくれた。流石は頼りになる腹心の部下である。

 妾を抱え直し、ジョーカーが申し訳程度に皇帝陛下に頭を下げる。案外軽い仕草で、実父パパと女子組が手を振ってくれた。影のように守を従えて、雅仁は心配そうな顔で見送っておる。その背後に響き渡る砲撃と戦闘の物音。このオールスター感、間違いなく最終回じゃな、と思いながら、妾とジョーカーは再び城を目指して進み始めたのであった。





 記憶が戻った今、妾にとって、皇城は「家」である。

 「家」の記憶は、いつでも沢山の光と、使用人たちと、使役ロボットと、整えられた庭や美味しそうな食べ物の香りに満ちていたものじゃが、今はその全てを失って暗い。見たところ、たいして破壊はされておらんようじゃが、あまりにも空虚で廃墟じみておる。

 ただ空っぽの廃墟。戦争といえば、もっと生々しく悍ましい傷跡を残すものであろうが、この世界における戦は一瞬の栄枯盛衰であり、強者のぶつかり合いで終わる。庶民にはほぼ被害が出ぬのじゃ。かつて皇帝パパが戦った帝国奪還戦でも、死傷者はほぼ無く、破壊された市街も一瞬で建て直されたらしい。これが妾の生きる現実世界である、と受け入れた妾であるが、やっぱり、こういうところはいかにも造り物じみた世界のルールじゃな。違和感が拭えぬ。

 なぜ、このような空虚な世界の王となることを求めたのか。ヴァスラム卿とやらは。

 相応しき者が王となる。

 強い者、美しい者が上に立つ。

 一見、すっきりとしたルールであるが、それこそが不完全なものである。人はそれほど強くも美しくもないし、時が経てば衰える。遺伝子操作は万能ではないし、誤謬も多い。無数の犠牲なくしては表向きの体裁も保たれぬシステムじゃ。あのルシアンにしたところで、どれだけの「失敗」の上に立ち、己の命を削っておることか。

(……怒りの方向を間違えるな)

 緊迫した空気に包まれる玉座の間に入っていく時、妾はひそかに深呼吸した。

(間違えた結果が、ヴァスラム卿じゃ。妾は決して、その過ちに釣られてルシアンが道を踏み外すのを許さぬ)


 玉座の間には、対峙する二人の姿。

 玉座に取り憑いた亡霊のような男と、暗がりでも発光するような綺麗な少年である。

 実際、光っておった。ルシアンは。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

「ご褒美ください」とわんこ系義弟が離れない

橋本彩里(Ayari)
恋愛
六歳の時に伯爵家の養子として引き取られたイーサンは、年頃になっても一つ上の義理の姉のミラが大好きだとじゃれてくる。 そんななか、投資に失敗した父の借金の代わりにとミラに見合いの話が浮上し、義姉が大好きなわんこ系義弟が「ご褒美ください」と迫ってきて……。 1~2万文字の短編予定→中編に変更します。 いつもながらの溺愛執着ものです。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

王弟が愛した娘 —音に響く運命—

Aster22
恋愛
村で薬師として過ごしていたセラは、 ハープの音に宿る才を王弟レオに見初められる。 その出会いは、静かな日々を終わらせ、 彼女を王宮の闇と陰謀に引き寄せていく。

悪役令嬢になりましたので、自分好みのイケメン近衛騎士団を作ることにしました

葉月キツネ
ファンタジー
 目が覚めると昔やり込んだ乙女ゲーム「白銀の騎士物語」の悪役令嬢フランソワになっていた!  本来ならメインヒロインの引き立て役になるはずの私…だけどせっかくこんな乙女ゲームのキャラになれたのなら思うがままにしないと勿体ないわ!  推しを含めたイケメン近衛騎士で私を囲ってもらって第二の人生楽しみます

貧乏貴族の俺が貴族学園随一の麗しき公爵令嬢と偽装婚約したら、なぜか溺愛してくるようになった。

ななよ廻る
恋愛
貴族のみに門戸を開かれた王国きっての学園は、貧乏貴族の俺にとって居心地のいい場所ではなかった。 令息令嬢の社交場。 顔と身分のいい結婚相手を見つけるための場所というのが暗黙の了解とされており、勉強をしに来た俺は肩身が狭い。 それでも通い続けているのは、端的に言えば金のためだ。 王国一の学園卒業という箔を付けて、よりよい仕事に就く。 家族を支えるため、強いては妹に望まない結婚をさせないため、俺には嫌でも学園に通う理由があった。 ただ、どれだけ強い決意があっても、時には1人になりたくなる。 静かな場所を求めて広大な学園の敷地を歩いていたら、薔薇の庭園に辿り着く。 そこで銀髪碧眼の美しい令嬢と出会い、予想もしなかった提案をされる。 「それなら、私と“偽装婚約”をしないかい?」 互いの利益のため偽装婚約を受け入れたが、彼女が学園唯一の公爵令嬢であるユーリアナ・アルローズと知ったのは後になってからだ。 しかも、ユーリアナは偽装婚約という関係を思いの外楽しみ始めて―― 「ふふ、君は私の旦那様なのだから、もっと甘えてもいいんだよ?」 偽装婚約、だよな……? ※この作品は『カクヨム』『小説家になろう』『アルファポリス』に掲載しております※ ※ななよ廻る文庫(個人電子書籍出版)にて第1巻発売中!※

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

処理中です...