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7.勇者たち
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その勇者は、二人いた。男女の双子だ。兄と妹。決してお互いから離れず、常に一緒に行動していたから、勇者としては一人、と数えられることも多かった。
「闇属性の魔物が強大化していたときに、光の教会が認定した勇者だ。最初はまだ幼さの残る年頃で、私が教練を受け持ち、剣と魔法を一から叩き込んだ。魔物討伐に向かうときは、私も同行したんだが」
彼らは期待を裏切らず、よく戦い、闇の魔物を打ち倒した。だが、その戦いが終わったとき。
彼らは倒したはずの魔物と契約を交わし、魔性に堕ちていたのだ。
「人間だった時より、数倍は強くなっていたが、魔性としては幼生だ。……その場で、二人とも殺した」
淡々と語りながら、殿下は生い茂る草木を払って、前に道を切り拓いて行く。
ここに来るまで、途中までは馬車、その先は馬、そして今は徒歩だった。緑は濃いが、妙に静かな森だ。かつて、闇の魔物が勢力圏にしていた山中で、そこかしこに毒や魔法罠が残り、人も動物も、今はろくに足を踏み入れようとはしないそうだ。
「かつては、国で一番美しいとされた湖があって、景勝地として活気があったんだが。ほら、この辺り、かつての舗装路の礎石が残っている」
勇者について語るのと同じ口調で、殿下は言う。
彼が歩くたび、その背後にふわっと魔力の風が流れ、背後を行く私を守ってくれる。勿論、彼は私が付いてくるのを渋ったのだが、私がなんとか意志を押し通した。
「……なんで勇者は、魔物と契約なんてしたんでしょう?」
「本人たちに訊かねば分からないことだが、勇者のうち、兄の方は身体が弱かった。光の神の司祭が絶えず治療に当たっていたが、討伐に出た頃には、だいぶ病が悪化していたようだ。魔性に堕ちることで、命を繋げるとでも思ったんだろう。私の推測だが」
そこで殿下は言葉を切り、顔を上げてから、
「こうして、存外しぶとく生き延びているのを見ると、私の推測もあながち間違ってはいないようだ」
「そうですね」
「そうよね」
鈴を振るような笑い声。
殿下が立ち止まって、私の周りに守護の魔法陣を発動した。ここにいろということだろう。魔力の渦が柱のように立ち上り、私はその中で足を止める。私を置いて、殿下はゆっくりと彼らに近付いていった。
「久しぶりだな。リオル。エウィリナ」
「お久しぶりです、師匠。以前のように、リオ、エウィ、と呼んでは下さらないですよね」
そう言ったのは、蝋のように白く、造り物めいた美貌の青年だった。丁重な口調なのに、その表情も声にも、ぽっかりと空いた闇のような悪意と侮蔑が貼り付いている。
その腕に腕を絡ませ、よく似た面差しの美しい少女が、冷たい笑い声を響かせた。
「無理を言っては駄目よ、リオ。師匠は私たちを殺しに来たんだから。そんなこと、できっこないのに」
寄り添って立つ二人の勇者の背後には、細く流れ落ちる滝があり、その水はゆるやかに揺れる澄んだ水面に繋がっていた。
木々の葉をそのまま鏡のように映し出す、幻のように美しい湖。その先は暗い木陰を取り巻いて奥に消え、どこまで続いているのか定かではない。
殿下が、無言で剣の柄に手をかけた。真紅の光が洩れる。
「……」
もはや、会話をする気はないようだ。
沈黙。純粋な殺意。人ならざる速度で、殿下が飛び、四方の木々の枝葉が飛んだ。眩い緋色の閃光。時間を縫い縮めたような間隔で剣戟の音が連続し、合間に魔法の光が火花のように散る。
覚悟を決めるまでもなく、心を揺らすこともない。憎悪すら存在しない。
「かつての友や、心を通わせられたかもしれない相手を殺した」と、殿下は言っていた。後になれば、喪失感に苦しむ夜もあるのだろう。だから、彼は私を近付けようとした。私を必要とした。
でも今は、ただ敵を殺すだけ。それ以外のものは、視えてもいない。視る必要がないのだろう。
「くはっ」
「リオ!」
血を吐いて蹲った兄の前に、妹が立ちはだかり、防御の陣を張る。無造作に殿下が剣を払うと、魔力の壁が砕けて弾ける耳障りな音が響いた。
そのまま、妹が吹き飛ばされるのが見えた。死んだかどうかは分からない。私のいる場所からは、何が起きているのかはっきりとは見て取れないのだ。そもそも、動きに視力がついていかない。
殿下の剣が、兄の痩せた身体を貫いた。同時に、乾いた笑い声が上がる。
「はは。やった」
「……何?」
殿下の動きが止まる。
「師匠。黒竜といっても、あんたは竜じゃない。獣だ。だから、あんたの弱点は、ビーストキラーだ。苦労したんですよ、身体に埋め込むの」
リオルの身体がぼやける。黒い瘴気が立ち昇り、彼の身を貫く魔剣アンカラドの輝きを覆っていく。
「そして、あんたのもう一つの弱点が、魔剣アンカラド」
血塗られた手で、リオルがアンカラドの刀身を掴んだ。
殿下は表情を変えない。
だが、宝石が砕けるような音と共に、アンカラドが砕け散ったとき、殿下の顔が大きく歪んだ。
よろめいて、一歩後ろに下がる。その身体が、背中から大きく膨らんだ。光によって影が大きさを変えるように、闇が大きく伸びてその身を包み込む。
ごうごうと渦巻く影の中に、殿下の姿が見え隠れした。私から見ても、その姿は、もはや人型を保っていなかった。
「で、殿下!」
私の声が、悲鳴のように響く。
見えない。殿下を包む闇が、そのまま一帯に満ちる。
強い魔力風に目を開けていられなくて、一瞬目を瞑り、再びなんとかこじ開けたとき。殿下の姿は、その場から掻き消えていた。
残ったのは、痛いほどの沈黙。
「殿下! 殿下?!」
まるで迷子になった子供のように頼りない、甲高い声。私の声だ。
(私、泣いている?)
怖い。何が起きたのか分からない。殿下がいない。
怖い。
守護の魔法陣から飛び出し、よろめく足を踏み締めて、殿下の気配を探った。どこに、どうして? 何が起きて……無事なの? 殿下?
「殿下!」
「……ああ、まじで、酷い目に遭わされた」
ずりずりと草地の上にへたりこんで、勇者の兄のほう、リオルが力なく呟いた。
「リオ、大丈夫?」
「ぎりぎりだ。お前も一回殺されただろ、大丈夫か?」
泣きそうな目で、勇者の妹が寄り添う。二人とも血にまみれ、美しい顔は憔悴しきって、土気色に近い。
「二回よ。息の根が止まったわ。なんとか再生が間に合ったけど」
「勝ったな、俺は三回だ」
軽口を叩きながらも、肩の震えが止まらないようだ。私の視線の先で、双子はお互いにすがりつくように抱き締め合った。
殿下に何かしたのはこの二人なのに、なぜか、彼らの方が辛そうだ。
「……殿下に何をしたんですか?」
「ああ、あんた、何者だ? 師匠の仲間にしては弱い力しか感じないし、師匠が厳重に守っていたから、迂闊に計画を狂わされるのも嫌で、放っておいたんだが……」
「計画?」
「あんたも見ただろ。師匠は人間じゃない。いや、今ごろ、人間じゃなくなってる、はずだ。封印が解けたからな」
「封印?」
「なあ、あんた、本当に知らないのか? それなのに何で、ここまで師匠にくっついて来てたんだ?」
痛いところを突かれて、ぐっと詰まった。
でも、言葉に詰まってる場合じゃない。殿下の行方が知りたい。
だが、私が口を開く前に、
「リオ、あのことは普通、王族か魔族でなくては知らないのよ」
勇者の妹、エウィリナが、たしなめるように言った。
私に視線を移し、
「ごめんなさいね、あなたが何故か必死なのは分かるけど。私たちは、師匠の人間の部分が壊れて、闇の魔獣になってくれたほうが都合がいいの」
闇の魔獣。
似たような言葉を、どこかで聞いたことがある──
「王家の始祖は、世界を覆っていた闇の魔獣を退治し、その血を身に取り込んだと言われている。我々の身体に宿るのは、始原の魔物の力」
そう、イシルディア殿下が言ったのだ。初めて出会ったとき、コロッセウムの舞台の上で。
「闇の魔獣? ……始原の魔物?」
「そうそう、知ってんのか」
疲れたように、リオルが頷く。
「本体は、王族で一番強い器に封印されて、代々、黒竜とか呼ばれて祀り上げられてる。今は師匠だ。でも、俺が封印をぶっ壊したから、じきに本物の魔獣になるだろう」
殿下が? 魔獣に?
ぐるぐると視界が回り始める。ああ、駄目だ、気を失ってる場合じゃない。震える声で確認する。
「そうなったら、人間としての殿下は……?」
「もちろん消滅する」
「でも、あの人、もともと人間らしくないわよね」
「だよな。形が人じゃなくなるぐらい、誤差の範囲だよな」
解釈が不一致すぎる。
でも、彼らが見てきた殿下と、私が見ている殿下は、全く違う存在なのだろう。こだわっている場合ではない。
「殿下の行き先を、教えて」
「師匠が勝手に飛んだんだ。どこかに、強力な結界を張ってる。自分を封じ込めてるつもりなんだろう。俺たちには感知できない」
そんな。
膝ががくがくする。崩れ落ちそうになるのを堪えて、勇者たちから離れて歩き出した。背後から、リオルの声が聞こえる。
「ここで待ってれば、じきに戻ってくるさ。魔獣になって」
「……あなたたちは、怖くないの? 逃げなくていいの?」
振り向かず尋ねた。
「俺たちは闇の眷属だから、魔獣化した師匠とは仲良くできるよ。師匠がこちら側に付けば、いろいろ助かる」
「そう」
もう、興味はなかった。
私は、殿下がなぜ、私を必要としていたか知っている。
人間でいるためだ。
……だから、今こそ、私は殿下と一緒にいなければ駄目だ。
「闇属性の魔物が強大化していたときに、光の教会が認定した勇者だ。最初はまだ幼さの残る年頃で、私が教練を受け持ち、剣と魔法を一から叩き込んだ。魔物討伐に向かうときは、私も同行したんだが」
彼らは期待を裏切らず、よく戦い、闇の魔物を打ち倒した。だが、その戦いが終わったとき。
彼らは倒したはずの魔物と契約を交わし、魔性に堕ちていたのだ。
「人間だった時より、数倍は強くなっていたが、魔性としては幼生だ。……その場で、二人とも殺した」
淡々と語りながら、殿下は生い茂る草木を払って、前に道を切り拓いて行く。
ここに来るまで、途中までは馬車、その先は馬、そして今は徒歩だった。緑は濃いが、妙に静かな森だ。かつて、闇の魔物が勢力圏にしていた山中で、そこかしこに毒や魔法罠が残り、人も動物も、今はろくに足を踏み入れようとはしないそうだ。
「かつては、国で一番美しいとされた湖があって、景勝地として活気があったんだが。ほら、この辺り、かつての舗装路の礎石が残っている」
勇者について語るのと同じ口調で、殿下は言う。
彼が歩くたび、その背後にふわっと魔力の風が流れ、背後を行く私を守ってくれる。勿論、彼は私が付いてくるのを渋ったのだが、私がなんとか意志を押し通した。
「……なんで勇者は、魔物と契約なんてしたんでしょう?」
「本人たちに訊かねば分からないことだが、勇者のうち、兄の方は身体が弱かった。光の神の司祭が絶えず治療に当たっていたが、討伐に出た頃には、だいぶ病が悪化していたようだ。魔性に堕ちることで、命を繋げるとでも思ったんだろう。私の推測だが」
そこで殿下は言葉を切り、顔を上げてから、
「こうして、存外しぶとく生き延びているのを見ると、私の推測もあながち間違ってはいないようだ」
「そうですね」
「そうよね」
鈴を振るような笑い声。
殿下が立ち止まって、私の周りに守護の魔法陣を発動した。ここにいろということだろう。魔力の渦が柱のように立ち上り、私はその中で足を止める。私を置いて、殿下はゆっくりと彼らに近付いていった。
「久しぶりだな。リオル。エウィリナ」
「お久しぶりです、師匠。以前のように、リオ、エウィ、と呼んでは下さらないですよね」
そう言ったのは、蝋のように白く、造り物めいた美貌の青年だった。丁重な口調なのに、その表情も声にも、ぽっかりと空いた闇のような悪意と侮蔑が貼り付いている。
その腕に腕を絡ませ、よく似た面差しの美しい少女が、冷たい笑い声を響かせた。
「無理を言っては駄目よ、リオ。師匠は私たちを殺しに来たんだから。そんなこと、できっこないのに」
寄り添って立つ二人の勇者の背後には、細く流れ落ちる滝があり、その水はゆるやかに揺れる澄んだ水面に繋がっていた。
木々の葉をそのまま鏡のように映し出す、幻のように美しい湖。その先は暗い木陰を取り巻いて奥に消え、どこまで続いているのか定かではない。
殿下が、無言で剣の柄に手をかけた。真紅の光が洩れる。
「……」
もはや、会話をする気はないようだ。
沈黙。純粋な殺意。人ならざる速度で、殿下が飛び、四方の木々の枝葉が飛んだ。眩い緋色の閃光。時間を縫い縮めたような間隔で剣戟の音が連続し、合間に魔法の光が火花のように散る。
覚悟を決めるまでもなく、心を揺らすこともない。憎悪すら存在しない。
「かつての友や、心を通わせられたかもしれない相手を殺した」と、殿下は言っていた。後になれば、喪失感に苦しむ夜もあるのだろう。だから、彼は私を近付けようとした。私を必要とした。
でも今は、ただ敵を殺すだけ。それ以外のものは、視えてもいない。視る必要がないのだろう。
「くはっ」
「リオ!」
血を吐いて蹲った兄の前に、妹が立ちはだかり、防御の陣を張る。無造作に殿下が剣を払うと、魔力の壁が砕けて弾ける耳障りな音が響いた。
そのまま、妹が吹き飛ばされるのが見えた。死んだかどうかは分からない。私のいる場所からは、何が起きているのかはっきりとは見て取れないのだ。そもそも、動きに視力がついていかない。
殿下の剣が、兄の痩せた身体を貫いた。同時に、乾いた笑い声が上がる。
「はは。やった」
「……何?」
殿下の動きが止まる。
「師匠。黒竜といっても、あんたは竜じゃない。獣だ。だから、あんたの弱点は、ビーストキラーだ。苦労したんですよ、身体に埋め込むの」
リオルの身体がぼやける。黒い瘴気が立ち昇り、彼の身を貫く魔剣アンカラドの輝きを覆っていく。
「そして、あんたのもう一つの弱点が、魔剣アンカラド」
血塗られた手で、リオルがアンカラドの刀身を掴んだ。
殿下は表情を変えない。
だが、宝石が砕けるような音と共に、アンカラドが砕け散ったとき、殿下の顔が大きく歪んだ。
よろめいて、一歩後ろに下がる。その身体が、背中から大きく膨らんだ。光によって影が大きさを変えるように、闇が大きく伸びてその身を包み込む。
ごうごうと渦巻く影の中に、殿下の姿が見え隠れした。私から見ても、その姿は、もはや人型を保っていなかった。
「で、殿下!」
私の声が、悲鳴のように響く。
見えない。殿下を包む闇が、そのまま一帯に満ちる。
強い魔力風に目を開けていられなくて、一瞬目を瞑り、再びなんとかこじ開けたとき。殿下の姿は、その場から掻き消えていた。
残ったのは、痛いほどの沈黙。
「殿下! 殿下?!」
まるで迷子になった子供のように頼りない、甲高い声。私の声だ。
(私、泣いている?)
怖い。何が起きたのか分からない。殿下がいない。
怖い。
守護の魔法陣から飛び出し、よろめく足を踏み締めて、殿下の気配を探った。どこに、どうして? 何が起きて……無事なの? 殿下?
「殿下!」
「……ああ、まじで、酷い目に遭わされた」
ずりずりと草地の上にへたりこんで、勇者の兄のほう、リオルが力なく呟いた。
「リオ、大丈夫?」
「ぎりぎりだ。お前も一回殺されただろ、大丈夫か?」
泣きそうな目で、勇者の妹が寄り添う。二人とも血にまみれ、美しい顔は憔悴しきって、土気色に近い。
「二回よ。息の根が止まったわ。なんとか再生が間に合ったけど」
「勝ったな、俺は三回だ」
軽口を叩きながらも、肩の震えが止まらないようだ。私の視線の先で、双子はお互いにすがりつくように抱き締め合った。
殿下に何かしたのはこの二人なのに、なぜか、彼らの方が辛そうだ。
「……殿下に何をしたんですか?」
「ああ、あんた、何者だ? 師匠の仲間にしては弱い力しか感じないし、師匠が厳重に守っていたから、迂闊に計画を狂わされるのも嫌で、放っておいたんだが……」
「計画?」
「あんたも見ただろ。師匠は人間じゃない。いや、今ごろ、人間じゃなくなってる、はずだ。封印が解けたからな」
「封印?」
「なあ、あんた、本当に知らないのか? それなのに何で、ここまで師匠にくっついて来てたんだ?」
痛いところを突かれて、ぐっと詰まった。
でも、言葉に詰まってる場合じゃない。殿下の行方が知りたい。
だが、私が口を開く前に、
「リオ、あのことは普通、王族か魔族でなくては知らないのよ」
勇者の妹、エウィリナが、たしなめるように言った。
私に視線を移し、
「ごめんなさいね、あなたが何故か必死なのは分かるけど。私たちは、師匠の人間の部分が壊れて、闇の魔獣になってくれたほうが都合がいいの」
闇の魔獣。
似たような言葉を、どこかで聞いたことがある──
「王家の始祖は、世界を覆っていた闇の魔獣を退治し、その血を身に取り込んだと言われている。我々の身体に宿るのは、始原の魔物の力」
そう、イシルディア殿下が言ったのだ。初めて出会ったとき、コロッセウムの舞台の上で。
「闇の魔獣? ……始原の魔物?」
「そうそう、知ってんのか」
疲れたように、リオルが頷く。
「本体は、王族で一番強い器に封印されて、代々、黒竜とか呼ばれて祀り上げられてる。今は師匠だ。でも、俺が封印をぶっ壊したから、じきに本物の魔獣になるだろう」
殿下が? 魔獣に?
ぐるぐると視界が回り始める。ああ、駄目だ、気を失ってる場合じゃない。震える声で確認する。
「そうなったら、人間としての殿下は……?」
「もちろん消滅する」
「でも、あの人、もともと人間らしくないわよね」
「だよな。形が人じゃなくなるぐらい、誤差の範囲だよな」
解釈が不一致すぎる。
でも、彼らが見てきた殿下と、私が見ている殿下は、全く違う存在なのだろう。こだわっている場合ではない。
「殿下の行き先を、教えて」
「師匠が勝手に飛んだんだ。どこかに、強力な結界を張ってる。自分を封じ込めてるつもりなんだろう。俺たちには感知できない」
そんな。
膝ががくがくする。崩れ落ちそうになるのを堪えて、勇者たちから離れて歩き出した。背後から、リオルの声が聞こえる。
「ここで待ってれば、じきに戻ってくるさ。魔獣になって」
「……あなたたちは、怖くないの? 逃げなくていいの?」
振り向かず尋ねた。
「俺たちは闇の眷属だから、魔獣化した師匠とは仲良くできるよ。師匠がこちら側に付けば、いろいろ助かる」
「そう」
もう、興味はなかった。
私は、殿下がなぜ、私を必要としていたか知っている。
人間でいるためだ。
……だから、今こそ、私は殿下と一緒にいなければ駄目だ。
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