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3.くっ、殺せ
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「や、やめ……くっ、うぁっ、やめろ、やめてくれ」
「オルセア様。ちょっと黙ってて欲しいんですけど」
身悶える第二王子を前に、私は心底呆れて、冷たい声を吐き出した。
ここは、彼の寝起きしている寝室だ。
あのとき、彼の脇腹に刺さったナイフを抜き、応急処置で傷を塞いだものの、残念ながら毒が塗られていた。呪いに近い、そこそこ複雑なもので、すぐには解毒できなかった。
彼は全力で抵抗したのだが、手足が痺れてきたらしく、私に逆らえなかった。というか、どうして、私に抵抗しなければならないのか。回復魔法をかけるだけなのに。死にたいのだろうか。
「死にたくなかったら、大人しくしてて下さい」
「くっ……なぜお前ごときに、こんな目に遭わされねばならん」
何やら寝言を言っているようだが、私は彼に浮遊魔法をかけて軽くして、肩に担いで、そのまま家に帰っただけだ。人目につかないように隠蔽魔法も使ったし、ほとんど浮かせていたからろくに触れてもいない。彼の尊厳は保たれたはずだ。
家に辿り着いて、彼を寝台に降ろしたとき、虚ろな目で、「死にたい……」と呟いているのが聞こえたが、本当に意味が分からない。
でも、過去に数々の暴言を浴びてきた身としては、彼の言葉にわざわざ付き合う必要も感じない。
私はただ、義務として治療を行うだけだ。
「毒が広がってしまっているので、末端から少しずつ解毒していきますね」
私は有能な聖女らしく、事務的に説明した。
彼の服を脱がせるべく、ボタンや紐を手探りする。
途端に、ろくに動けないはずの彼の手が跳ね上がって、大きく太い指が私の手首を掴んだ。
「な、何をする」
「解毒しなければならないので。服を脱がそうかと」
「ふ、服を脱がせる、だと……?! お前は何を言っている!」
「王子こそ、何を言ってるんですか。治療ですよ?」
「お、お前のような小娘が、男の服を脱がせるなどと!」
「だから……治療……」
うんざりしてきた。
見捨ててしまおうか、という考えがちらりと脳裏をよぎる。彼だって、私に治療なんかされたくないらしいし。
しかし、こんなに頑なに裸を見せたくないとか、これまでどうやって治療を受けてきたんだろう。
(何か、弱味でもあるのかな?)
恥ずかしい痣でもあるとか。
ちなみに、私は彼の下着まで脱がせるつもりはない。ある程度の肉体的接触が保たれていれば十分なのだ。やましいところはなく、単に治療を行うだけだと、堂々と言えるんだけど、
(うーん、弱味……この人の弱味が掴めたら、気分いいだろうなあ)
ひょっとして、自称従者様を追っ払えるかもしれない。それが無理でも、今より口数少なめでいてくれたら。高慢そうな嫌味とか、聞かないでいられるなら。
そんなことを思ってしまったのだけれど、私は悪くないと思う。いわば、彼の自業自得だ。
(よし、弱味を掴もう!)
心に誓うと、私はもはや問答無用で、彼に拘束呪文をかけて身動きを封じ、せっせと彼の服を剥いでいった。
そして、冒頭に戻る。
「くっ……やめろ、やめろと言っているだろ、あ、あぁっ」
「くっくっく、いい反応じゃないですか。ここが貴方の弱味なんですか?」
「う、あ、やめろ……っ」
「ここですか? じゃあ、ここに沢山魔力を流してあげますね」
「くあぁっ」
しまった。
思わず私もノッてしまった。
そもそも、王子の反応がおかしい。私は彼の脇腹の傷から身体を辿って、毒の広がりを確かめながら、指先で少しずつ解毒魔法を流し込んでいるだけだ。
解毒魔法が快感を引き起こすなど、聞いたこともない。なのに、この王子様ときたら、喘ぐわ、熱い息を吐くわ、身体をびくびくさせるわ、絶賛「どう見ても犯され中」なのである。
そんな彼の様子を見て、これまで受けた暴言、嫌味の数々が脳内を駆け巡り、「もっと酷くしてくれるわぐわっはっは」という心境に至った。
後のことは知らない。とりあえず今は、気分がすっとする。
「脇腹が弱いんですね、王子殿下は」
「う、あぁぁっ……! くっ、このような恥辱……いっそ、殺せ」
「殺しませんって。むしろ生かそうとしてるんですけど」
「……俺は。お前になら、殺されてもいい」
「えっ、嫌ですよ。だから、殺しませんって」
何言っているんだろう、この王子様は。
得体の知れないスイッチが入ってしまったのだろうか。
(明日になって、「責任を取れ」とか言われたらどうしよう。めんどくさいな)
まあ、今後のことは、明日になってから考えよう。
今の私は、全力でこれまでの仕返しをしてやる所存である。
「オルセア様。ちょっと黙ってて欲しいんですけど」
身悶える第二王子を前に、私は心底呆れて、冷たい声を吐き出した。
ここは、彼の寝起きしている寝室だ。
あのとき、彼の脇腹に刺さったナイフを抜き、応急処置で傷を塞いだものの、残念ながら毒が塗られていた。呪いに近い、そこそこ複雑なもので、すぐには解毒できなかった。
彼は全力で抵抗したのだが、手足が痺れてきたらしく、私に逆らえなかった。というか、どうして、私に抵抗しなければならないのか。回復魔法をかけるだけなのに。死にたいのだろうか。
「死にたくなかったら、大人しくしてて下さい」
「くっ……なぜお前ごときに、こんな目に遭わされねばならん」
何やら寝言を言っているようだが、私は彼に浮遊魔法をかけて軽くして、肩に担いで、そのまま家に帰っただけだ。人目につかないように隠蔽魔法も使ったし、ほとんど浮かせていたからろくに触れてもいない。彼の尊厳は保たれたはずだ。
家に辿り着いて、彼を寝台に降ろしたとき、虚ろな目で、「死にたい……」と呟いているのが聞こえたが、本当に意味が分からない。
でも、過去に数々の暴言を浴びてきた身としては、彼の言葉にわざわざ付き合う必要も感じない。
私はただ、義務として治療を行うだけだ。
「毒が広がってしまっているので、末端から少しずつ解毒していきますね」
私は有能な聖女らしく、事務的に説明した。
彼の服を脱がせるべく、ボタンや紐を手探りする。
途端に、ろくに動けないはずの彼の手が跳ね上がって、大きく太い指が私の手首を掴んだ。
「な、何をする」
「解毒しなければならないので。服を脱がそうかと」
「ふ、服を脱がせる、だと……?! お前は何を言っている!」
「王子こそ、何を言ってるんですか。治療ですよ?」
「お、お前のような小娘が、男の服を脱がせるなどと!」
「だから……治療……」
うんざりしてきた。
見捨ててしまおうか、という考えがちらりと脳裏をよぎる。彼だって、私に治療なんかされたくないらしいし。
しかし、こんなに頑なに裸を見せたくないとか、これまでどうやって治療を受けてきたんだろう。
(何か、弱味でもあるのかな?)
恥ずかしい痣でもあるとか。
ちなみに、私は彼の下着まで脱がせるつもりはない。ある程度の肉体的接触が保たれていれば十分なのだ。やましいところはなく、単に治療を行うだけだと、堂々と言えるんだけど、
(うーん、弱味……この人の弱味が掴めたら、気分いいだろうなあ)
ひょっとして、自称従者様を追っ払えるかもしれない。それが無理でも、今より口数少なめでいてくれたら。高慢そうな嫌味とか、聞かないでいられるなら。
そんなことを思ってしまったのだけれど、私は悪くないと思う。いわば、彼の自業自得だ。
(よし、弱味を掴もう!)
心に誓うと、私はもはや問答無用で、彼に拘束呪文をかけて身動きを封じ、せっせと彼の服を剥いでいった。
そして、冒頭に戻る。
「くっ……やめろ、やめろと言っているだろ、あ、あぁっ」
「くっくっく、いい反応じゃないですか。ここが貴方の弱味なんですか?」
「う、あ、やめろ……っ」
「ここですか? じゃあ、ここに沢山魔力を流してあげますね」
「くあぁっ」
しまった。
思わず私もノッてしまった。
そもそも、王子の反応がおかしい。私は彼の脇腹の傷から身体を辿って、毒の広がりを確かめながら、指先で少しずつ解毒魔法を流し込んでいるだけだ。
解毒魔法が快感を引き起こすなど、聞いたこともない。なのに、この王子様ときたら、喘ぐわ、熱い息を吐くわ、身体をびくびくさせるわ、絶賛「どう見ても犯され中」なのである。
そんな彼の様子を見て、これまで受けた暴言、嫌味の数々が脳内を駆け巡り、「もっと酷くしてくれるわぐわっはっは」という心境に至った。
後のことは知らない。とりあえず今は、気分がすっとする。
「脇腹が弱いんですね、王子殿下は」
「う、あぁぁっ……! くっ、このような恥辱……いっそ、殺せ」
「殺しませんって。むしろ生かそうとしてるんですけど」
「……俺は。お前になら、殺されてもいい」
「えっ、嫌ですよ。だから、殺しませんって」
何言っているんだろう、この王子様は。
得体の知れないスイッチが入ってしまったのだろうか。
(明日になって、「責任を取れ」とか言われたらどうしよう。めんどくさいな)
まあ、今後のことは、明日になってから考えよう。
今の私は、全力でこれまでの仕返しをしてやる所存である。
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