最低最悪のクズ伯爵

kae

文字の大きさ
17 / 48
最低最悪のクズ伯爵に嫁がされそうになったので、全力で教育して回避します!

第17話 頑張れよ

しおりを挟む
 お祭りの当日は、青空が心地良いお天気だった。
 もしも雨だったら、延期しなくてはならなかったので助かった。



 プラテル孤児院の子ども達と、プラテル伯爵家の使用人たちで、朝早くから忙しく働いて準備をすすめる。
 アニータ様のご実家のポルツァー家の使用人も、何人かが手伝いに来てくれているので、いつものお祭りよりも人手がある分楽かもしれない。



「私にも何か手伝わせて。なにをすればいいかしら。」
「あ、はい。ではユフレープのジャムの試食の準備を・・・・。」



 ユフレープの試食の準備をしていたアメリヤは女性の声に振り向いた。大人の声なので、プラテル家かポルツァー家の使用人だろうと思ったが、そこにいたのは・・・。


「アニータ様!?ターニャ国へ帰られたのではないのですか。」
「夫だけ先に帰ったの。私はこのお祭りが楽しみで、見届けてから帰りたくって。私にもなにか手伝わせてもらえるかしら?」


 いつもはおろしている見事な黒髪を、高い位置でまとめているアニータ様。服装も機能的で動きやすそうな、簡素なドレスだ。

 『恐れ多いです。アニータ様はお座りになって、様子をご覧になっていてください。』


 アメリヤはとっさにそう言いかけたけれども、何かが違うと思って、やめた。


 アメリヤの目の端には、汗を流しながら、子ども達と一緒に重い荷物を運んでくれているケヴィンの姿が写る。
 とても楽しそうに、生き生きと働いている。

 貴族だって、同じ人間だ。同じように、ユフレープをこの国に広めようとしている仲間だ。
 アニータ様がアメリヤを対等な商売相手として扱ってくれるように、アメリヤだって、アニータ様を対等に扱わなくてはならない。


「・・・私と一緒に、ユフレープジャムの試食係をお願いできますか。」
「ええ、喜んで。」




 お祭りは朝から大盛況だった。
 いつも大人気なお祭りなので、始まりの時間とともに大勢のお客さんが来てくれるのは予想通りだったけれど、今年は目玉商品の貴重なジャムがあることを、子ども達に街中に宣伝してもらっていたので、いつもよりも盛り上がっている。



「はい!いつもの手作りクッキーです。」
「お、これこれ。安くてプロの店の味!」

「流行の型のワンピース、作りました。」
「これお嬢ちゃんが作ったの?すごい!色違いで2枚ちょうだい。」



 開場の時間と同時に、そんな声が各所から聞こえてくる。


 ケヴィンはこの日に向けて、自分でも小さな本棚やいすなどを沢山作ってくれた。今日はその雑貨売り場のところで、売り子としても手伝ってくれている。


「あったあった。前回買った椅子!前に買ったのが良かったから、同じ形のをまた買おうと思って・・・・。」

 誰かの声が、不自然なところで途中で止まる。


「はい、この椅子ですね。いくつですか?」

 椅子は小さいけれど、とても丈夫に出来ていて安い。すぐに売り切れる人気商品だ。
 ビートがニコニコと対応している。

「ふ、2つ。」
「はいよ!2つで2000ダリルです。」
「あ、ああ。ありがとよ。」



 おいおい、あの後ろの男。プラテル伯爵じゃないか?何年か前に見たことがあるんだ。
 プラテル伯爵?あの奥さんと子供を追い出したって言う、クズ伯爵か?
 若い頃は格好良かったのになぁ。
 たっかい税金取りやがって。イヤんなるよな。




 一応ケヴィンには聞こえないように、離れたところで噂をする人たち。
 だけどケヴィンから離れたはずのそこは、アメリヤのすぐ近くだった。聞きたくなくても聞こえてきてしまう。


 話している内容は、全部本当のことだ。奥さんと子供を屋敷から追い出したのも本当だし、高い税金をとっているのも本当。


 だけど、だけど――――。


 悔しくて、少し泣きそうになってしまったアメリヤだった。






*****





 ユフレープジャムの試食は大盛況だった。

 この日の為に焼いた、一口サイズのクラッカーに、一口だけジャムをのせて次々と渡していく。
 甘酸っぱい匂いに引き寄せられて、我も我もと食べにくる。あっという間に長蛇の列ができあがった。


「良い匂い!美味しい!」
「1瓶7000ダリル?高いけど買っちゃおうかなー。」


 高額のビン詰めも、美味しさと物珍しさから、ポツポツとたまにだけど売れ始める。
 なかなかの好感触だ。



 ジャムの試食は当然1人1回だ。できるだけ多くの人に食べてもらって、宣伝をしてもらわなくてはならない。

「1人1回ですよ!」


 明らかに先ほども食べに来た人に注意をするアメリヤ。
 孤児院から子どもが手伝いに行ったこともある職人さんのところで、見習いをしている人だから間違いない。
 先ほどは隣のアニータ様から受け取って試食していた。今度はアメリヤのところに並べば誤魔化せると思ったのかもしれない。

「いや、まだ食べてないってー。酷いなあ。証拠でもあるの?」
「いいえ、証拠はありません。でもあなたタルボさんのところで働いているかたですよね?見覚えがあるので分かります。」



「だから食べてないってー、おばちゃん!だから証拠見せろって!」


ニヤニヤしながら、威嚇するように大きな声で食い下がる男。
なんとなく、前のめりで近い。腕が届く距離だ。


―――ううう、ちょっと怖い。もう見逃してしまおうか。1人くらいなら、2つ食べてしまっても大丈夫だろう。

だけどもしも、他の人もあいつだけなんで2回食べさせたんだと言ってきたら?



「あら、さっきのお兄さんね。私が差し上げたので覚えているわ。」

その時、隣のアニータが声を掛けてくれた。

「ごめんなさいね、1人1つまでなの。お引き取り下さいな。」


 ニコリと上品に笑うアニータ様。
 明らかに庶民ではない美女に微笑みかけられて、職人見習いの男性はたじろいだようだ。

 試食係は女性だけなので、押せばいけると思ったのだろうが、アニータの笑顔には、譲る気は一歩もないと書かれていた。


 アメリヤはその様子を見てヒヤヒヤする。
 他国の公爵夫人に、もしも平民が怪我などさせたらどうなるのだろう。
 こいつ1人の首でどうこうできるものではない。国家間の問題になってしまう。


―――あれ。でもだとしたら、アニータ様がお一人だけで、こんなところへ来られるはずはないわね。


 冷静に周りを見渡してみると、アニータの背後に、平民風の服を着ているものの、どう見ても訓練して鍛え上げていると思しき、体格の良い人達が控えているではないか。
 鋭い目で見習い男に睨みをきかせている。アニータの護衛だろう。


 見習いの男も護衛に気が付いたようで、急に顔が強張った。
 
「・・・ッチッ。」


 小さく舌打ちをして、今度はまたアメリヤの方を向いて威嚇してきたかと思うと、またビクリと顔をこわばらせる。

 そしてそれ以上は何も言わず、列から離れて逃げて行った。


―――あの人は、もうお祭りには出禁ね。タルボさんに頼んでおかなくちゃ。


 それにしてもアニータ様の護衛を見てたじろいだのは分かるけれど、アメリヤのほうを見た後も、何やら顔が強張っていたような。
 自分の後ろに何かあっただろうかと振り返ってみると、そこにはケヴィン様がいた。 あ、あと子供たちが何人かお世話になっている大工の棟梁さんも。


「ケヴィン様!カールさんも。もしかして助けていただきました?ありがとうございます。」
「いや。僕は通りかかっただけで・・・。」
「はっはっはー!なーに言ってんだ伯爵様よ。慌てて駆け付けてきて、さっきまでおっかねー顔して、あの小僧を睨んでたじゃないか。」


 ケヴィンが否定するので、やっぱり助けてくれたのではなくて、たまたま通りかかっただけだったのかと思ったアメリヤだったが、大工のカールさんの言葉で助けに来てくれたのだと確信した。
 カールさんは笑いながら、バシバシと強めにケヴィンの背中を叩いている。体格が良いのでケヴィンがちょっと痛そうだ。


「気に入ったぜ、伯爵様。なんかここ数年悪い噂ばっかりで、税金も重くなる一方で、心配してたんだけどよ。うちにくる子ども達があんたのこと好きだって褒めるから、一度見てみたかったんだ。」


―――そっか。カールさんのところには、この孤児院から何人かの男の子たちが手伝いに行っている。きっとここ最近のケヴィン様のことも、聞いたことがあるのね。

 バシバシと叩いていた手は、最後にガッシリとケヴィンの肩に置かれる。

「頑張っているじゃねーか。子ども達に混ざって働いてよ。アメリヤちゃんのことも大切にしているようだし。」




「おう!格好良かったぜ伯爵様!」
「アメリヤちゃんを守ってくれてありがとう!」
「でも税金早く下げろー。」




 街の人たちが、次々と声を掛ける。
 よく見れば、声を掛けてくれているのは、子ども達がお世話になっている街の人だ。
 近くまで来て、暖かい笑顔を向けてくれる。


―――だけど笑顔なのは、ごく一部の人だけだわ。


 集まって来て暖かい笑顔を向けてくれているのは、街のごく一部の人たちだけだ。

 よく見れば、他の大半の人が、遠巻きにして、冷めた瞳ででケヴィンを見ていた。



「税金は、もう少しで下げられる。・・・僕が至らないばっかりに今まで苦労を掛けてしまって、すまなかった。」


 その時なんと、ケヴィンが街の人に向けて頭を下げた。
 
「いつも真面目に、堅実に、重い税金にも腐らず、諦めず、働いてくれてありがとう。この領を見捨てず、盛り上げてきてくれてありがとう。絶対に、もうすぐ税金は下げるから。」




 突然の伯爵の謝罪に驚いて、お祭り騒ぎで浮かれていた人たちの中に静寂が広がった。
 戸惑いだろうか。それともケヴィンへの怒りだろうか。




 税率が重くて、プラテル伯爵領の庶民の暮らしが大変だったのは、ケヴィンのせいだ。
 この孤児院のように、補助金が打ち切られたようなところもたくさんあっただろう。
 ちょっと最近頑張ったからといって、ちょっと頭を下げたからといって、そんなにすぐに受け入れられる人ばかりではないだろう。



「・・・おう。頑張れよ。」

 肩に手を置いたままだったカールさんが静かにそう声を掛けて、ニカリと笑って、その場を離れていった。


「頼んだぞー。」
「アメリヤちゃんを、お願いね。」




 ちらほらと、ほんの数人だけど、何人かがケヴィンの目を見て、暖かい言葉を掛けて、そして離れていった。



 ほんの数人。だけど目を見て励ましてくれた。



―――これからだ。




 プラテル伯爵領も。ケヴィンも。






しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

行き遅れ令嬢の再婚相手は、ダンディな騎士団長 ~息子イケメンの禁断の守護愛~

柴田はつみ
恋愛
貧乏貴族の行き遅れ令嬢リアナは、28歳で社交を苦手とする大人しい性格ゆえに、結婚を諦めかけていた。 そんな彼女に王宮から政略結婚の命令が下る。再婚相手は、妻を亡くしたダンディな騎士団長ギルバート。 クールで頼れる40代のイケメンだが、リアナは「便利な道具として選ばれただけ」と誤解し、切ない想いを抱く。 さらに、ギルバートの息子で爽やかイケメンのエリオット(21歳)が義理の息子となる。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

処理中です...