最低最悪のクズ伯爵

kae

文字の大きさ
21 / 48
最低最悪のクズ伯爵に嫁がされそうになったので、全力で教育して回避します!

第21話 離れがたいな

しおりを挟む
「おはようアメリヤ!」
「おはようございます、ステファン。」



 少し間が空いて、4日ぶりにパン屋さんへ行くと、またステファンに会うことができた。
 朝だけ会って、気持ちよく挨拶をして、お互いの職場に出勤する。
 アメリヤはこの関係を気に入っていた。



「あれ、今日はいつもの一口パンじゃないの?」
「毎回同じだと飽きますからね。今日はちょっと奮発して、こちらの干しフルーツ入りのパンにします」
「わお、美味しそう。」



 今日も先に店を出たステファンが、アメリヤのことを待っていてくれた。
 アメリヤがチリンチリンという鈴の音と共にドアを開けて店の外へと出ると、ステファンが片手を上げて合図をしてくる。


「それじゃあ、またね。ステファン。」
「あ、ちょっと待って、アメリヤ。」
「・・・・?」



 いつものようにあっさりと帰ろうとしたアメリヤを、ステファンが呼び止める。


「今度さ、一緒に出掛けないかい?」
「一緒に?」
「うん。朝はいつも時間がないからね。一度ゆっくりと、時間を気にせず話してみたいんだ、君と。」

 好青年のステファンに見つめられて、ちょっとドキリとしてしまう。
 爽やかだし、誘い方も強引ではなくて好感が持てる。こうされて悪い気がする女性はいないだろう。

「えー・・・っと。」
「今度の金曜日なんて、どう?お茶だけでも。仕事があって無理かな。」
「大丈夫だと、思いますが。」



 確かその日は、お客様との約束もないはずだ。
 毎日のようにプラテル屋敷に通っているアメリヤは、ケヴィンにいつでも遠慮せず休んでくれと言われていた。


「上司に確認してみないと。」
「じゃあ今度の金曜日、仕事を早く抜けられたら、15時にあそこのカフェで待ち合わせよう。もしも仕事が抜けられなかったら無理しないで。30分ほど一人でお茶を飲んだら、帰ることにするから。」


 ステファンが指さしたのは、パン屋から見える数軒先のカフェだった。いつも通りかかって、オシャレで入ってみたいと思いながらも、1度も入ったことのないカフェだ。


「ОKよ。」
「よし、決まりだ。じゃあまたねアメリヤ。」








*****



―――どういうつもりなのかしら。


 アメリヤだってもうすぐ28歳だ。
 これまで一度も恋愛をしてこなかったわけじゃない。ステファンがアメリヤに好意を抱いてくれているのは分かる。


―――もしかして、30歳になる前に、恋人ができるかもしれない?


 そこまで考えて、アメリヤは頭を勢いよく振って現実に戻る。


―――そんなに都合良い話があるはずがないか。好意っていったって、あくまで友達として。朝は時間がないから、もう少しゆっくり話したいだけ。場所もパン屋さんから、ちょっとその先のカフェに移動するだけ。それだけのことよ。


―――でももしかしたら、何度か会って話していくうちに、もっと親しくなってということだってあるかも・・・・。



「アメリヤ?どうしたんだい、さっきから。」
「ケヴィン様!すみません、なんでもありません。」



 今日は朝からずっと、ぼんやりしたり、頭を振ったりと集中できない様子のアメリヤのことを心配して、ケヴィンが声を掛ける。


「あ!そうだケヴィン様。今度の金曜日、14時半に帰らせていただいていいでしょうか。お友達とカフェに行く約束をしたんです。」
「・・・・もちろん、構わないよ。」
「ありがとうございます!」



―――さあ、余計な事を考えずに、仕事に集中よ!






*****






金曜日




「おまたせ、ステファン。」
「アメリヤ!来てくれて嬉しいよ。」

 15時ちょうどにカフェに到着したアメリヤは、既に窓際の明るく気持ちの良い席で本を読むステファンを見つけた。
 テーブルには飲みかけのお茶がある。


「やだ、本当にお待たせしたかしら。」
「仕事が思ったより早く終わったから、早めに来て本を読んでいたんだ。今日のことが楽しみで、張り切りすぎたよ。」



 張り切りすぎたと言いながらも、ステファンは緊張する様子もなく、自然な笑顔だ。


―――やっぱり、こんなに格好いい人だもの。女の人と出かけるのも慣れているわよね。どうしてこんな人が、私なんかを誘ってくれたのかしら。



 今日の服装はさんざん迷った結果、お出かけ用のワンピースにすることにした。
 自分の稼いだお給料で、最近買ったばかりのものだ。









 ステファンとの会話はとても楽しかった。
 彼はどうやら、町の図書館で働いているらしい。
 アメリヤも普段なんの仕事をしているのか聞かれたので、孤児院の仕事と、今はプラテル屋敷に期間限定で通っていることを話した。
 孤児出身であることも話した。もしも長く付き合うのなら、いずれは分かる事だからだ。

 アメリヤが孤児出身だと聞いたステファンの反応は、アメリヤの予想に反していた。
 同情するわけでもなく、バカにするわけでもない。
 ただ「へえ、そうなんだ」と言って、次の話に移っただけだった。
 それがアメリヤには、とても嬉しかった。





 楽しい時間はあっという間だ。気が付けば外が薄暗くなっていた。そろそろ帰らなければ。
 プラテル屋敷まで歩いて移動して、着替えて、預けたままの馬で孤児院まで帰るのだ。
 孤児院に着くのは大分遅くなっていまいそうだ。


「それじゃあね。楽しかったわ、ステファン。」
「・・・・離れがたいな。よかったらこのまま、夕食も一緒にどうだろう。」
「ごめんなさい。帰りが遅くなったら皆を心配させてしまうわ。」
「そっか。・・・・じゃあプラテル屋敷まで送らせて。」


 そう言うとステファンは、アメリヤの手を握って歩き出した。



―――これは!どういう意味かしら。



 了承も得ずに女性の手を握るなんて。よほど手馴れているのか、それとも最近はこういうのが普通なのだろうか。


―――ステファンは私のことを好きなの?・・・・私はステファンのことをどう思っている?まだ恋愛という意味では好きではないわ。でもこんなに良い人だし、それにとっても紳士よ。




 先ほどのカフェでは話題がつきることなく話し続けていたのに、今はステファンは何も言わずに、無言で歩いていた。
 手をしっかりと握り締め、アメリヤの歩く速度に合わせて歩いてくれる。

 途中、誰かにぶつかりそうになったアメリヤの手を一度離し、肩に手を置いて、グッと引き寄せて守る。


「・・・あ、ありがとう、ステファン。」
「どういたしまして。」

 ニコリと微笑んで、囁くステファン。
 肩に手を回しているので、顔が近い。
 肩に回された手は、そのまま離されることはない。



「・・・・アメリヤ。やっぱり君をこのまま帰したくない。」


 ステファンが、至近距離で目を見つめて言ってくる。

「帰したく、ないって・・・・。」
「ダメ?」



2人が立ち止まったところには、ちょうど横道があった。
ステファンが、チラリと横道の奥に視線を走らせた気がする。
釣られてアメリヤもそちらのほうを見てみると、横道の奥まったところには宿があった。



―――あれって、いわゆるそういう宿よね。どうしよう。


 とっさに断れず、一瞬迷ってしまうアメリヤ。


―――こんなチャンス、もう二度とないかもしれない。そうしたら、一生結婚なんてできなくて・・・・。ステファンは良い人だし。ううん、やっぱり駄目だわ。



「きゃ!」


 一瞬だけ迷っていたら、また誰かが2人にぶつかりそうになった。
 大通りで2人して立ち止まっているのだから、もちろんこちらのほうが悪い。


 そのぶつかりそうになった誰かを避けるため、アメリヤたちは横道に1歩、入り込んでしまった。

 2歩、3歩。


ステファンがそのまま、奥に向かって歩みを進める。




―――嫌だ!!!



 急に我に返って、アメリヤは恐怖に襲われた。

―――こんな、会ったばかりの人と、流されてなんて嫌!!



「ステファン、ごめんなさい。あの、今日は帰るから。」
「・・・・。」


 ステファンは止まってくれなかった。

 4歩、5歩と進んでいく。

 大通りが遠のいていく。


「ステファン、あなたは素敵な人だと思うの。だけどもう少し時間が欲しくて。」
「明日の朝には、君もきっと、僕から離れたくないと言っているよ。」



―――絶対に嫌だ!!!!



「誰か・・・モガッ。」


 ついにステファンの説得を諦めて、大声を出して助けを求めようとしたアメリヤだったが、それを察したステファンに口を塞がれてしまう。



―――バカバカバカバカ!なんでもっと早くに叫ばなかったの私!!


 体をよじって逃れようとするけれど、ガッチリと肩を押さえこまれていて動けない。
 大通りならば、嫌がる女性の口を塞いでいる男がいれば、誰かが不審に思って助けてくれる可能性もあるだろう。


 だけど手を握り合って歩いていた男女が、2人で横道に歩いて入っていったのを、誰が助けると言うのだろう。

「ヴーーーー!!」

 諦めずに声を出そうとする。
 必死に足を突っ張って、全身の力で抵抗するけれど、ズルズル1歩1歩、宿へと近づいていく。


―――嫌だ!!イヤ、助けて!助けて!誰か!――――――ケヴィン様!!!























「おい、アメリヤを放せクソ野郎。」
「はあ?」




幻聴だろうか。幻覚だろうか。こんなところにいるはずがない。

ステファンがアメリヤごと声を掛けられた方向に向いたおかげで、その人物がアメリヤにも見えた。


―――ケヴィン様!どうしてここに。



 そこに立っていたのは、まだ屋敷で仕事をしているはずの、ケヴィン・プラテルだった。








しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

行き遅れ令嬢の再婚相手は、ダンディな騎士団長 ~息子イケメンの禁断の守護愛~

柴田はつみ
恋愛
貧乏貴族の行き遅れ令嬢リアナは、28歳で社交を苦手とする大人しい性格ゆえに、結婚を諦めかけていた。 そんな彼女に王宮から政略結婚の命令が下る。再婚相手は、妻を亡くしたダンディな騎士団長ギルバート。 クールで頼れる40代のイケメンだが、リアナは「便利な道具として選ばれただけ」と誤解し、切ない想いを抱く。 さらに、ギルバートの息子で爽やかイケメンのエリオット(21歳)が義理の息子となる。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

処理中です...