最低最悪のクズ伯爵

kae

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空白の5年間

未亡人の恋①

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 幼い頃から大切に見守ってきた初恋の女の子が、美しい令嬢に育ったと思ったら、あっという間に甘いマスクの甘ったれ男に恋をして、かっさらわれて結婚したのを涙をのんで祝福して。
 なかなか諦めきれなくて、伯爵家を継ぐための勉強が忙しいからとか言いながら自分の結婚話を断ったり、みじめったらしく、その子の嫁いだ領が栄えるように、その子が幸せになるように陰ながら事業とか応援していたら。
 最低クズ夫が、1年も経たずに赤ちゃん連れのその子を追い出して、ついにその子の目が覚めて、離縁して戻ってきたから小躍りして喜んでいたら「誰でも良いので、家の為になるような再婚相手を探してくださいね」って言われた男の話、もうしたっけ?


「5回くらい聞いたかな、セドリック」
 ということは、友人のライオネルに相談という名の愚痴をこぼすのは、これでもう5回目ということか。


 俺はハウケ伯爵の弟、フランケ子爵の次男セドリックだ。
フランケ子爵家の跡取りである兄上と違って、将来の行く先がなかった俺は、一人娘しかいないハウケ伯爵に、いつか君がハウケ家を守ってくれ言われて育ってきた。
 ハウケ伯爵家を継ぐために色んな事を教わりながら、一人娘ユリアも当然一生守っていくものだと思い込んでいたら、あっという間に他の男にかっさらわれた。

 ユリアは別の男と結婚してしまったものの、ハウケ伯爵は俺を養子にして、将来のハウケ伯爵にするべく、仕事を徐々に引き継いでくれた。
 幼い頃からの約束通りだな!

ユリアがプラテル伯爵と離縁してハウケ家に戻ってきた時は、今度こそ俺と結婚するものだと思い込んでいたら(2度目)、「家の為になるような再婚相手を探してください」ときた。
こんな可哀そうな男を、俺はちょっと他に知らない。


ハウケ家に戻ってきたレオハルトの子育ては、主に自然溢れるハウケの領地で行われた。
 それに伴って、ユリアのご両親であるハウケ伯爵夫妻も、孫と娘の世話を思う存分するために、嬉々として領地に引っ込んでしまった。

 俺だって一緒にハウケの領地に引っ込んで、ユリアやその息子、ぷくぷくほっぺのレオと一緒に、毎日散歩をしたり、お昼寝したりして過ごしたい。
 しかし議会が王都で開かれる社交シーズンや、どうしても王都に出向く用事がある時、ハウケ伯爵から、「勉強の為に行ってきなさい」とかなんとか言われて、代理で王都に送られてしまうのだ。
 ハウケ伯爵夫妻、絶対可愛い一人娘と孫と一緒に、のんびり領地で暮らしたいだけだと思う。
 絶対そうだ、自信がある。


 ハウケの領地までは、王都から往復するだけで1週間かかる。
 どんなに速く用事を片づけても、1週間以上もユリアとレオに会えないのだから辛すぎる。
 議会シーズンは、更に数か月の間会えないことすらある。
 久しぶりに領地に戻ったら、レオがそれまでできなかったことができるようになっていたり、ビックリするぐらい身長が伸びていたりするのが嬉しい、けど辛い。
 自分自身の目で、レオの成長を見守りたい。


「セドリック、お前真面目すぎるだろう。一人で王都に来ている時くらい、羽目を外したらどうだ?結構カッコいいんだし」
 今日はハウケ伯爵の代理で出席した夜会会場の隅で、友人のライオネルを見つけられてまだ良かった。
 せめて愚痴を言える相手がいるだけましだ。
 愚痴を言う友人もいないような夜会やダンスパーティーでは、顔に「伯爵夫人になりたいです」と書いた女性たちが群がってきて大変なんだ。
 以前あからさまに「出戻りのユリアさんは、まだお相手が見つかりませんの?」などと言ってくる女もいた。
 その時は「万が一ユリアが再婚して、ハウケの家から出て行ったとしても、こんなクソ性格の悪い発言をするあなたとは、死んでも結婚することはありませんね」と言わないでいるのに、大変苦労したものだ。

「もう十年以上一途に想っていても、報われないんだろう?そろそろ諦めて、他の女性に目を向けるのも、いいんじゃないか。ほら、あそこにいるルガー夫人。まだ若いのにルガー子爵に先立たれて、亡き夫の領地の経営を任せられる男を探しているって話だぜ。変な男に目を付けられる前に、守ってあげれば?」

 ライオネルが、ワインの入っているグラスをとある方向に指し向ける。
 その先には、小柄で少し気弱そうな印象の女性が、心細げに一人で佇んでいた。
 本当に若い。
 まだ10代ではないのかと思うほどだ。
 ライオネルの話が本当であれば、あの女性はなんでこんな夜会で一人でいるのか。
 招待状がないと入れない夜会だから、今のところバカな真似をする者はいない様子だが、あんな風に一人でウロウロしていたら、悪い男に連れ去られかねない。

「……あの夫人、まさか一人で夜会に参加しているのか?」
 俺の様に仕事で王都に滞在していて、仕事の付き合いもかねて一人で夜会に参加する男は珍しくもないが、女性はお茶会や趣味の集まり以外は、パートナーを連れているか、父親や保護者と一緒に参加するのがほとんどだ。

 社交界シーズンの夜会は、男女の出会いの場でもある。
 愛人を探しに来ているような悪い男に騙されることもあるので、若い令嬢には大抵保護者が付いて、しっかりと目を光らせているのだ。
 子爵家の若い未亡人なんて、少しでも目を離したら、狼にパクっとやられてしまうだろう。

「確か夜会が始まったばかりの時は実兄といたようだな。その実兄は、さっきあっちのバルコニーの暗がりで、可愛らしいご令嬢とよろしくやっているのを見た」
「……おい」

 なにをやっているんだ、その兄とやら。

 よく見れば、所在なさげに佇んでいるルガー夫人を、品定めしているような視線がいくつもある。
 仕事は出来るが遊び人だと評判の男や、夫人がいるのに放置していて、いつも愛人を侍らしている、威圧的ないけ好かない男。

「ライオネル、お前だって独身だ。しかも次男で家を出なきゃいけないんだろう?ルガー子爵夫人、守ってあげたらどうなんだ」
「男爵家の次男に、子爵家の未亡人へ突撃しろだって?冗談言わないでくれ。それに夫人を狙っているあそこの男は子爵家の令息、あそこの愛人何人も囲っているオヤジにいたっては伯爵だぞ。守るどころか、フォックス男爵家ごと吹き飛ばされるよ」
「俺だって、ただの伯爵の代理でしかないんだぞ……」


愛人の腰に手を回していた腹の出た伯爵が、その愛人から手を離してルガー夫人のほうへと歩き始める。
それを見た遊び人の子爵次男が、取られたなーと肩を竦めている。

 ……おいおいおい。10代かと思うような若いルガー夫人が、老獪で威圧的な伯爵に声を掛けられたら、もうその時点で、詰みじゃないのか?


 最初は冗談で守ってやればなどと言っていたライオネルも、本気で伯爵が動いたことに焦ったのか、冷や汗をかいて、俺に必死で目配せをしてくる。

 どう考えても、厄介事だ。
 もしあの伯爵の機嫌を損ねたら、ハウケ伯爵にもご迷惑をお掛けするかもしれない。
 だが仕方ない。
下手をすれば、あの少女の様な夫人の人生が、台無しになってもおかしくない状況なのだから。

 自分が飲んでいたワインのグラスをライオネルに押し付けると、速足でルガー夫人に近づく。
 腹の出た伯爵の方が、ルガー夫人まで若干距離が近かったが、足の長さが違う。
 俺はおデブ伯爵(失礼)よりも一足早く、ルガー夫人の元にたどり着くことができたのだった。




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