0と1の感情

ミズイロアシ

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第一部

03 化けの皮

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 地下研究室に、デヴォート神父がヘロヘロになりながら這うように入ってきた。

「アマレティア様、ネズミはどちらに?」
 息を整え、右目のモノクルに手をやった。
「おや、ロゼくん? どうしてここにいるんだ?」

「デヴォート、早くそのネズミを連れ出して! 人間なんて顔も見たくないわ!」

 そこにはPC台に手をつき項垂れたまま叫ぶ創始者がいた。

「神父様、大変なの。マキナが、マキナが返事をしてくれないの!」

 ロゼは神父にすがるように助けを求めた。

 デヴォートは何も言わず立ちすくんだ。



 異様な時が過ぎた。

 アマレティアは不敵に笑い、勝ち誇ったように言った。

「当然よ。『リセット』したのだから」

「へっ……?」

 ロゼは目を丸くした。聞き返すことも無く固まった。

 アマレティアは、再起動したマキナとその元所有者に近づきながら

「あなたの所有ではなくなった、ただそれだけ」

と言った。
 二人を通り過ぎ壁に手をついた後、そのまま壁を睨みつけたまま動かなくなった。

「え……なんで? マキナは私のものよ!」

 ロゼは声を震わせて怒った。

「ひどい。返してよ!」
 動じない創始者に一歩近づいた。

 アマレティアはくるりとロゼに振り向くとヒステリックに、こう声を荒げた。

「酷いのは人間の本質、愚かさよ! 高慢で、何もかも欲する!」

 顔を真っ赤にして怒り、ボレロを脱ぎ捨てた。

「他者へ直ぐに嫉妬して、空になるまで食い尽くす。愚かな! アハハハ」

 酔うようにセリフを吐いて高笑いした。

「アハハ、愚かな生物よね、デヴォート?」

「は、はい、アマレティア様」

 神父は狂気を振りまく彼女の姿を見ても尚、賛同した。

「そのために、ロボットをお造りになったのですよね」
 アマレティアの機嫌を取ろうと言葉を述べた。

 ロゼは大人二人のやり取りに唖然とした。
「なに、それ……あなただって、私と同じ人間じゃない!」

 そこまで言うと視界に飛び込んだものに驚愕した。

「――え? アマレティア様、その、腕……!?」
 
 アマレティアの露わになった肌を見て恐怖した。

「……継ぎ接ぎだらけで醜いでしょう?」

 アマレティアは己の何度も縫われた痕のある腕を見やって言った。

 冷静さを取り戻したのか、静かな、しかし憎しみの篭った声で語った。

「こうなったのも人類発展のせい。環境汚染で私は病になり、体は腐っていった……」

 遠くを見るように顔を上げた。

「けどね、神様は見放さなかった。この頭脳は……残してくれたのよ?」
 満足げに、少女に向き直った。

「アマレティア様は神の御子です」

 デヴォートは拝んでいる。
 つくづく救世主様に心酔しているらしかった。

 ロゼはアマレティアを覆う人工皮膚を見て、嘆きを聞いて、段々と相手を可哀想に思えた。

「人間を……恨んでるの?」

 少女の問いかけは余りにも純粋で鋭いものだ。

 アマレティアは普段通りの口調で

「ええ。それでも私は、手を下さないわ。暴力は嫌いなの」

と手のひらを翻して言った。

「なんで、人間を助けるロボットを造ったの?」

 ロゼはアマレティアに同情する気持ちが芽生えていた。
 しかし恐怖心もある。

 素朴な疑問をぶつけた。

 しかしそんなロゼの心境も何も無駄で、創造主は再び高揚すると言い放った。

「助ける? ふははは、違うわ。人間を怠惰にするために創ったの。

人間の性質は怠惰よ? より『楽』を求めるの。

働くロボットはそのため……

皆が安全を感じて満足するくらい平等に豊かになれば、争いなんて無意味。第一『楽』じゃないわ」

 そこまで言って一息ついた。

 デヴォートもまた
「お蔭で戦争は無くなりました」と言っておべっかを使っている。

 ロボット創始者は、さながら演説会場のように大手を振るって話し出した。

「楽を手に入れた人間が、次にどうなると思う?」

 アマレティアの演説は続いた。
 ロゼに答えを求めることも無く自身の解答を言った。

「答えは『他者を求めなくなる』」

 ロボット創始者は不敵に笑った。

「私の創ったロボットが何でも満たしてくれるし。人間はそれだけで満足になる。そうして人類は衰退に向かう……」

と無垢な少女に教授した。

「それがあなたの本当の目的ね。でも私に話して良かったの? 私、喋っちゃうよ?」

「ウフフ、誰もあなたを信じないわ。だって、私救世主ですもの」

 人類の救世主は勝ち誇ったように少女を見下した。

 ロゼはデヴォートの元に駆け込んだ。

「神父様! こんな話を聞いても、まだ目を覚まさないの? おかしいよ。人間が滅びるのを助けてたんだ!」

 彼の腕を掴み説得するも

「しかしロゼくん、アマレティア様のお蔭で今の人々は幸せだよ?」

と逆に言い聞かせてこようとする。

 ロゼは絶望した。

「デヴォート、さっさと連れていきなさい」

 やさぐれたアマレティアはぶっきら棒に神父に命令した。
 しかし直ぐに戻ってきて

「ぐずぐずしてるなら私が追い出す!」

と言ってロゼに襲いかかった。
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