黙っている現場から 放課後ディサービス

こさ

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⸻ ふざけた空気の下で、切られた人たち

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切られる瞬間は、いつも静かだ。

怒鳴り声もない。
大きなトラブルもない。
会議で名指しされることもない。

ただ、
少しずつ、舞台から外される。



その人は、最初から問題のある職員ではなかった。
仕事は丁寧で、子どもにも向き合っていた。
記録も出す。
時間も守る。

でも、
社長の冗談に、うまく笑えなかった。

LINEのスタンプに、
即座にリアクションしなかった。
場を和ませる役には、なれなかった。

それだけのことだ。



最初に変わったのは、配置だった。

「今日は別の業務をお願い」
「この子は、他の人が担当するね」

理由は、
いつももっともらしかった。

忙しいから。
人手の関係で。
全体のバランスを見て。

誰も反論できない。
反論するほどのことでもない。



次に変わったのは、
相談されなくなること。

決定事項が、
事後報告になる。

会話に入るタイミングが、
少し遅れる。

気づいたときには、
もう輪の外に立っている。

そして、
決定打は、本人に委ねられる。

「今の体制、合ってますか?」
「無理してませんか?」
「他を考えるのも、一つかもしれませんね」

辞めろとは言わない。
でも、
続ける理由だけが、削られていく。

その人は、
自分から言う。

「少し考えさせてください」

それが、
終わりの合図だ。

数日後、
「今回は辞めることにしました」
というLINEが届く。

社長は、
短いスタンプで返す。

「了解です」
「お疲れさまでした」

それで、終わる。

現場は、驚かない。
ああ、またか、と思うだけだ。

理由を深掘りする人はいない。
「合わなかったんだろうね」
それで、片付く。

ふざけた空気は、
何事もなかったように続く。



私は、その人の名前を覚えている。
支援の仕方も、
子どもにかけていた言葉も。

でも、
この場所では、
残った人のほうが正解になる。

切られた人は、
「向いていなかった人」になる。

それが、
この現場の歴史の書き換え方だ。

冗談が飛び交う場所で、
真面目な人は、
いつも静かに消える。

誰かを責める必要もない。
怒る必要もない。

ただ、
ふざけた空気の下で、
確実に人は、選別されている。

私は、
それを見てきた。

だから、
笑っている空気ほど、
注意深くなる。

次は、
誰の番かわからないから。
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