心が聞こえる二人の恋の物語

たっこ

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 月曜そのまま学校に行くから、着替えずに制服のまま家を出た。
 三日も泊まるしもう少し黒木の家に俺の服置いとくかな、と着替えも持つ。
 学校のリュックと着替えとタッパ。重いはずなのに全然重くなかった。
 黒木に会えると思ったら嬉しくて早く会いたくて、俺はめっちゃ早足でバスに乗って電車に乗って、最後は走って黒木の家まで行った。
 息を切らしてマンションの入口に立つ。
 インターホンを押すとすぐに黒木が出た。良かった家にいた、と胸がはずんだ。

「俺、俺、野間っ!」
『野間? どうした? なにかあったのか?』
「へへ、来ちゃった!」
『……とりあえず開ける』
「うんっ」

 ドアが開いて、急ぎ足で中に入ってエレベーターに乗った。
 最上階で降りると、黒木がちょうど家のドアを開けて顔を出す。

「黒木っ」

 俺はかけ足で近づいた。

「野間、なんで……どうした?」
「黒木、もう飯食ったっ?」
「まぁ……適当に」
「どうせまたふりかけご飯とかだろ? おかず持ってきたっ。俺が作ったやつっ! 一緒に食べよっ!」

 タッパを入れた紙袋を渡して、黒木を押し込むように家に入った。
 靴を脱いで「おじゃましまーすっ」と中に入った俺の腕を黒木がつかむ。

「おい、家の人はなんて? 大丈夫なのか?」
「え? うん大丈夫だよ? 姉ちゃんが今日飲み会でさ。おかずあまるから黒木ん家持ってっていいかって聞いたら、ああそうねって。そうしなさいって」

 俺がそう言うとホッとしたように息をついて手を離した。

『良かった……家でなにかあったのかと思った……』
「あ、ごめん、心配した? よな? こんな時間に」
「なにもないなら良かった。急に来るからびっくりしただろ」
「ごめんごめんっ。おかずあまったらもったいねぇしさっ。黒木に会いたくて来ちゃったっ!」

 ニッと笑いかけたら黒木が固まった。
 黒木の心は静かで、あえて読むと本の世界だった。
 また本読んでたのかな。でもなんで固まってんの?
 
「黒木?」
「……あ、いや。……おかず、ありがとな。……嬉しいよ」
「うんっ、早く食べよっ。俺もう腹ぺこー。あ、その前に着替えていい?」
「お前……なんでまだ制服のまま?」
「あー。なんか……なんとなく? 俺ちょっと着替えてくるな」

 持ってきた着替えと一緒に、もう入り慣れた黒木の寝室に行った。
 あんなに脱ぎたくなかったカーディガンは、いまは簡単に脱げた。
 これは明日の洗濯行き、と寝室の脇に置いてある洗濯物カゴに入れる。
 着替え終わってリビングに戻ると、黒木がキッチンでおかずをお皿に盛ってくれていた。

「野間……」
「うん?」
「お前……なんで制服で来た? 明日帰るんだよな?」
「あ、黒木土日なんか用事ある? 俺そのまま泊まって学校行っていいって母さんが」

 黒木がまた固まった。

『月曜まで泊まってくってことか……? ……キツイな……』

 聞こえてきた黒木の心に、驚いてショックを受けた。
 あ……俺……今度こそ間違った……。
 俺が会いたいとか一緒にいたいとか思ってたって、黒木は違うかもしんないじゃん……。
 いくら親友だって、そんなにずっと一緒だったらウザいよな……。

「……あ……ご、ごめん。黒木だって一人になりたいときあるよな。ごめん……俺明日帰るな……」
「野間……違う。勘違いするな、そうじゃない」

 黒木の心がまた静かになった。
 読んでもまだ本の世界で、きっと黒木にはそういう静かな時間が大切なんだ。
 俺の存在がキツイと思われちゃった……。
 喉の奥が熱くなって、いまにも泣きそうだった。
 どうせ聞かれちゃってるだろうけど……せめて涙は見せたくないと必死でこらえた。

「野間……本当に違うんだ」
「……いいよ、キツイって聞こえた。ごめんな、俺……ちょっと黒木に甘えすぎだよな……。なんか……ずっと一緒にいたいとか……思っちゃって、ごめん」
「野間」

 黒木が俺のそばまでやってきて、グイッと腕を引かれて腕の中に閉じ込められた。

「く……黒……」

 ぎゅっと抱きしめられて、ぶわっとなにかわからない感情があふれ出た。
 ……あったかい……嬉しい……幸せ……。
 でもなんで最中でもないのに抱きしめたりすんの……?

「お前……俺の心が今日一日どんなだったか知ってるだろ?」
「……今日一日……? ……ずっと……俺のこと可愛いって言ってた」
「それから?」
「……昨日のこと……思い出してた」
「そういうことだ」
「……え? どういうこと?」

 黒木がなにを言いたいのかわからない。
 心を読んでも本だし、全然わからない。

「だから……。俺はもう……ずっとお前を抱くことばかり考えてるんだよ……」
「……でも黒木……いま本のことしか考えてないじゃん……」
「それは……ちょっと、精神統一をだな……」
「……は? ……なんだ、それ。なんで?」
「だから……そうでもしないと、いますぐお前に手を出しそうだから……」
「…………んぇ……?」

 俺に手を出しそうって……いますぐ俺を抱きたいってこと?
 だから本の世界に入って精神統一してたって……そういうこと?
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