心が聞こえる二人の恋の物語

たっこ

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 黒木の顔が見たくて離れようとしたけど、さらにぎゅっと強く抱きしめられた。

「ちょっと待て。……見るな」
「……く、黒木……。さっきの……キツイっていうのは……」
「……月曜までずっと……精神統一なんて無理だろ」

 抱くのを我慢できないから……キツイってこと?
 俺の存在がキツイんじゃなくて良かった……。
 すごいホッとして涙がにじんできた。

「なんで……抱けばいいじゃん。昨日だけのつもりじゃなかったんだろ……? そう言ったの黒木じゃん。だから俺……そのつもりで来た」

 黒木がはぁぁと深い息を吐いた。
 
「俺はお前を月曜までずっと離せなくなりそうだって……そう言ってるんだぞ?」
「うん。いいよ、抱けよ」
「……俺は嫌だ。お前を壊してしまいそうで……怖い」

 黒木の優しさが心にしみる。また胸がわーっとなった。これ……本当になんなんだろう。わーってなると、なんかすげぇ幸せになる。俺もっと……わーってなりたい。
 
「俺、そんな簡単に壊れねぇよ? それに俺……黒木に抱かれると……幸せなんだ。なんか……すげぇ幸せになるんだ。だから……今日も、明日も、明後日も……俺、黒木に抱かれてぇよ……」
「…………野間」

 黒木の腕の力がゆるんで、俺はそっと身体を離して黒木を見上げた。
 黒木は眉を寄せて困った顔をしてた。

『……どうしてお前は……そうやってすぐ俺を煽るんだ……』
「煽る? 別に煽ってねぇけど……」

 黒木はまた深いため息をついて、じっと俺を見つめた。

「野間は……俺を好きとかじゃないって昨日言ってたよな……」
「んーと、ちょっと違うかな? 俺は黒木が大好きだけど、恋愛の好きとかじゃないって意味だぞ?」
「……やっぱり……そうだよな……」
「うん?」

 また黒木がなにを言いたいのかわからない。
 黒木も同じだろ? だって黒木が俺を好きだって聞こえて来ねぇし、俺と同じなんだよな?
 
「……そうだな。同じだな」

 と黒木は俺の頭にポンと手を乗せた。
 俺、この黒木の手……ほんと好きだ……。

「野間。昨日は俺……昨日だけのつもりじゃなかったけど……」
「……けど……なに?」

 なにを言われるのか不安でビクッとなった。
 黒木が俺から離れていったらどうしよう……。

「もしこの先好きな人ができたとき、お前……後悔しないか……?」
「好きな人……」
「いつか、本当に好きな人ができたら、絶対後悔するだろ……」

 好きな人なんてできる気がしない。
 だって俺はこの力のせいで、誰かを好きになんてなったこともなかった。
 みんな、心の中では平気で人を傷つける。嘘をつく。全部聞こえるから、好きになんてなれるわけない。
 俺が本当に好きだと思ったのは黒木が初めてだ。
 それがたとえ恋愛としてじゃなくても、俺は黒木が大好きだし、これからも黒木以上に好きな人なんか現れる気がしない。
 でもそれは俺だけの話だ。黒木は……違うかもしれない。
 黒木はいつか……本当に好きな人が現れるかもしれない。
 そのときは黒木が後悔するのか……。

「俺のことはどうでもいいんだよ。俺は野間の心配をしてるだけだ」
「……でも……」
「俺も、野間と同じだ。俺だって……お前以上に好きになれるヤツが現れるとは思えない」
「……この力のせいでか?」
「そうだ」
「……なら…………なら俺たちこのままでいいじゃん。俺も黒木も同じ気持ちなら、このままでいいじゃん」

 俺たちはこの力のせいで恋愛はできない。
 それなら俺は、親友の黒木にずっと……抱かれていたい。
 ずっと黒木のそばにいたい。離れたくない。
 だからこのままでいいじゃん……。
 いま、ものすごく黒木に抱きつきたかった。
 最中でもないときにおかしいよな……。
 でもさっきは黒木がぎゅってしてくれたから、俺もやっていいかな……。
 俺はそっと黒木の胸に顔をうずめて、ぎゅっと抱きついた。
 すると黒木の腕がまた優しく俺を包んでくれた。
 うわ……っ。やばいやばいっ。心臓うるさい……っ。
 でも黒木の腕の中……やっぱすげぇ幸せ……。
 あったかい……嬉しい……。こんなに幸せな気持ち……初めてだからちょっと戸惑う……。

「俺……黒木に抱かれて、もっと幸せになりてぇよ……」

 昨日の幸せを知っちゃったから、もうただの親友になんて戻りたくない。
 
「野間……。頼むから……それ以上煽らないでくれ……」

 頭上から黒木の弱り果てた声が落ちてくる。

「煽る……ってよくわかんねぇけど、抱いてくれんならもう言わねぇよ?」
『…………ほんっと、全然わかってないな……』

 黒木の心の声が、なんか困ってるように聞こえる。
 俺なんか変なこと言ったかな。

「なぁ黒木。俺……明日帰った方がいい?」

 ぎゅっと黒木にしがみついて答えを待った。
 怖い。答えが怖い。
 どんどん近づいた黒木との距離。このままでいたい。離れていく想像すらしたくない……。

「…………帰るな。ここにいろ」
『俺のそばに……ずっといろ』

 黒木の言葉に安心して、胸がわーを通り越してぶわっとなって、すごくすごく幸せになった。

「……うん。そばにいる」

 これが普通の親友とは違うってわかってる。でも俺たちの親友のかたちはこれでいい。俺たちはもともと普通じゃないから、だからこれでいい。
 抱きつく腕にさらにぎゅうっと力を込めた。
 ……キス……したいな……。
 でもいまはそういう最中じゃないし……違うかな……。

「野間、ちょっと腕ゆるめろ」
「あ、ご、ごめん」

 抱きつく力をゆるめると、あごに黒木の指がふれてクイッと持ち上げられた。

「野間。お前、可愛いのも大概にしろ……」
「へ? ……んぅ、……ふ……」

 黒木に唇をふさがれた。
 自然とお互いの舌が絡み合う。胸がぎゅうっとなった。
 黒木のキス……やっぱすげぇ好き。嬉しい……幸せ……。もっとほしい。
 黒木の手が両頬を包み込むようにして、さらに深いキスになった。

「……はふ、……んっ……」

 思わずぎゅっと黒木の服を握りしめる。
 頭の芯が痺れてぼうっとする。気持ちいい……。

『黒木……俺ずっと黒木とキスしてたい……』
『…………っとに……。お前のそれは……どうせ俺には聞かれるからっていう、開き直りからきてるのか……?』
『……ん? ……え、どういう意味……?』
『…………ただの無自覚か……』
  
 キスをしながら、黒木はため息混じりにクッと笑った。
 なんだよ、どういう意味?
 
 
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