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幸せを守りたい✦side秋人✦3
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次の日。榊さんに頼んで、予定より少し早めに到着できるように調整してもらった。
蓮はいつも早い。スタジオ入りの前に一人のところを捕まえられればと、着いて早々に蓮の楽屋に向かった。
「あれ秋さん、今日はまたずいぶん早いね。カメラが見たくてダダこねたの?」
蓮は驚いた顔でクスクス笑って出迎えてくれた。
「蓮、マネージャーは?」
「美月さん? どこ行ったかな? たぶんスタジオで合流になると思うけど、何か用事だった?」
「いや、いないならいいんだ。…………あのさ、蓮」
「うん?」
「…………また心臓の音、聞きたい。…………だめ?」
「えっ……う、うん。いいよ、もちろん」
はにかんだように微笑んで両手を広げてくれた蓮に、心の中でごめんとつぶやいて、ゆっくりと近寄ると胸に顔をうずめた。
蓮は優しくぎゅっと抱きしめてくれた。どうしてもやっぱり嬉しくて離れ難くなる。
最後のわがままだから許して。ごめん、蓮。
離れたくない気持ちに必死で蓋をする。意志とは反対にしがみつこうとする身体を無理やりはがすように離れて、笑顔の仮面をかぶった。
「……ありがと。今日も癒やされた」
「癒……やし効果は無い……と思うけど」
蓮は照れたように赤くなって、首の後ろに手を当てた。
俺にはお前以上に癒やされる存在はないよ。
「……あのさ、蓮。台風の日ことだけど」
「え、う、うん」
「蒸し返してわりぃけど、あれ、本当に忘れろよな」
「……う、ん? あらたまって、なに?」
「お前さ、……好きな人いる?」
「……っ、えっ?」
蓮が、ギクッと肩を震わせたのを見逃さなかった。やっぱり……と気持ちが沈む。
蓮の顔を見てるだけで胸が痛くて、今にも泣きそうになった。
「だからさ、あの日は俺ら酔っ払いすぎてただけだし、あんなのただオナッただけだからな」
「お、オナ……」
「あ、自慰のほうがよかった? どっちでもいいけど。もう本当に忘れろよな」
「……う……ん。でもなんで急に、そんなこと」
「だからさ。ただ二人で抜いただけなんだし、好きな人に罪悪感とか持つ必要ねぇぞってこと。お前、気にしそうだからさ」
蓮はものすごく怪訝そうな顔をしていたが、分かったとうなずいた。
「うん。あんなの本当に全然気にしなくていいことだかんな」
蓮の背中を叩いて、すぐに出口に向かう。
「カメラまた見せてもらうんだろ? またあとでな」
「あ、秋さん」
「ん?」
「……あ、ううん。なんでもない。あとでね」
「おう」
振り向かずに手を軽く上げるだけで、俺は部屋をあとにした。
すぐに正面の自分の楽屋に入ってドアを閉める。ドアを背にズルズルとしゃがみ込んだ。
あれでなんとかなればいいけど……。
あとは俺が、今までみたいにベタベタしないよう気をつければいい。マネージャーにこれ以上疑われないように。
お願いだから、俺なんかのせいで駄目にならないでほしい。
早く二人の仲が戻るようにと願う。これは嘘じゃなく本心だ。
蓮が幸せになってくれれば、俺はそれで幸せだから。つらいけど幸せ。うまく説明のできないこの気持ち。
蓮が俺のせいで辛い思いをするなんて、自分が許せない。
だったら俺は蓮を幸せにする。自分よりも蓮の笑顔を守る。それが俺の幸せだから。
悲しいけどつらいけど、幸せのほうが絶対に勝つから。
涙で視界が滲んでくる。撮影前に泣くわけにはいかないと天井を仰いで必死でこらえた。
蓮はいつも早い。スタジオ入りの前に一人のところを捕まえられればと、着いて早々に蓮の楽屋に向かった。
「あれ秋さん、今日はまたずいぶん早いね。カメラが見たくてダダこねたの?」
蓮は驚いた顔でクスクス笑って出迎えてくれた。
「蓮、マネージャーは?」
「美月さん? どこ行ったかな? たぶんスタジオで合流になると思うけど、何か用事だった?」
「いや、いないならいいんだ。…………あのさ、蓮」
「うん?」
「…………また心臓の音、聞きたい。…………だめ?」
「えっ……う、うん。いいよ、もちろん」
はにかんだように微笑んで両手を広げてくれた蓮に、心の中でごめんとつぶやいて、ゆっくりと近寄ると胸に顔をうずめた。
蓮は優しくぎゅっと抱きしめてくれた。どうしてもやっぱり嬉しくて離れ難くなる。
最後のわがままだから許して。ごめん、蓮。
離れたくない気持ちに必死で蓋をする。意志とは反対にしがみつこうとする身体を無理やりはがすように離れて、笑顔の仮面をかぶった。
「……ありがと。今日も癒やされた」
「癒……やし効果は無い……と思うけど」
蓮は照れたように赤くなって、首の後ろに手を当てた。
俺にはお前以上に癒やされる存在はないよ。
「……あのさ、蓮。台風の日ことだけど」
「え、う、うん」
「蒸し返してわりぃけど、あれ、本当に忘れろよな」
「……う、ん? あらたまって、なに?」
「お前さ、……好きな人いる?」
「……っ、えっ?」
蓮が、ギクッと肩を震わせたのを見逃さなかった。やっぱり……と気持ちが沈む。
蓮の顔を見てるだけで胸が痛くて、今にも泣きそうになった。
「だからさ、あの日は俺ら酔っ払いすぎてただけだし、あんなのただオナッただけだからな」
「お、オナ……」
「あ、自慰のほうがよかった? どっちでもいいけど。もう本当に忘れろよな」
「……う……ん。でもなんで急に、そんなこと」
「だからさ。ただ二人で抜いただけなんだし、好きな人に罪悪感とか持つ必要ねぇぞってこと。お前、気にしそうだからさ」
蓮はものすごく怪訝そうな顔をしていたが、分かったとうなずいた。
「うん。あんなの本当に全然気にしなくていいことだかんな」
蓮の背中を叩いて、すぐに出口に向かう。
「カメラまた見せてもらうんだろ? またあとでな」
「あ、秋さん」
「ん?」
「……あ、ううん。なんでもない。あとでね」
「おう」
振り向かずに手を軽く上げるだけで、俺は部屋をあとにした。
すぐに正面の自分の楽屋に入ってドアを閉める。ドアを背にズルズルとしゃがみ込んだ。
あれでなんとかなればいいけど……。
あとは俺が、今までみたいにベタベタしないよう気をつければいい。マネージャーにこれ以上疑われないように。
お願いだから、俺なんかのせいで駄目にならないでほしい。
早く二人の仲が戻るようにと願う。これは嘘じゃなく本心だ。
蓮が幸せになってくれれば、俺はそれで幸せだから。つらいけど幸せ。うまく説明のできないこの気持ち。
蓮が俺のせいで辛い思いをするなんて、自分が許せない。
だったら俺は蓮を幸せにする。自分よりも蓮の笑顔を守る。それが俺の幸せだから。
悲しいけどつらいけど、幸せのほうが絶対に勝つから。
涙で視界が滲んでくる。撮影前に泣くわけにはいかないと天井を仰いで必死でこらえた。
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