記憶喪失から始まる、勘違いLove story

たっこ

文字の大きさ
22 / 42

22 夢なら覚めないで……

しおりを挟む
 信じられないとでも言いたげな月森の表情を見て、ショックを受ける。
 今の俺まで好きだったらそんなにダメなのか。

「仕方ないだろ……っ。俺は俺なんだからさっ。記憶がなくても何度だって月森を好きになるよっ。仕方ないじゃん……っ!」
「え、あ、の……」

 月森は何度も口を開いては閉じ、目を見開いたまま放心している。
 一度振った相手に二度も告白されたら、そりゃかける言葉も見つからないよな。
 でも、それも全部月森のせいだろっ。

「振ったのは月森なのに、なんで俺に構うんだよっ。せっかく忘れようとしてるのにさ……っ。これじゃもっと……もっと好きになっちゃうだろ……っ?!」

 必死に訴える言葉が口からあふれ出る。もう胸の中の感情が爆発しそうだった。

「ま……待って先輩、なに……なにを言ってるのか……わかん、ない……」
「はぁっ? わかんないってなんだよっ! ふざけんなっ!」

 叫んだ瞬間に涙があふれ出た。怒りや悲しみが心を貫く。胸に熱いナイフが突き刺さるような痛みが広がり、ボロボロと涙がこぼれ落ちた。
 本当にふざけんな……っ。

「俺は早く月森への気持ちを忘れたいんだよ……っ。もう毎日つらいんだ……っ!」

 叫びたいのに涙で喉がつぶれてうまく声が出ない。激しく胸を打つ感情を抑えることができなかった。
 月森に会いたい、話したい、そばにいたい。ただそれだけの望みが、毎日俺を苦しめていた。

「頼むから……っ! しばらく俺を放っておいてくれ……っ!」

 出ない声で必死に叫んでから、目の前に広がる無機質な室内を見て、ここがまだ会社だったと一瞬の間に現実が戻ってくる。
 すぐに慌てて会議室を飛び出そうとしたが、手が震えて上手くドアノブを回せない。

「待って先輩!」

 その時、後ろから力強く抱きしめられた。
 まさか月森にそんなことをされるなんて思いもしなくて、心臓が止まりそうになった。

「先輩……っ」

 初めて感じる月森の熱、耳元に響く月森の声に、身体中が熱を帯びて胸が張り裂ける。
 
「な……に……っ、離せ……っ」

「好きです……先輩……っ」
 
 まるで喉の奥から絞り出したような月森の涙声が耳に届いた。

「……は…………なに……」

 ありえない言葉が聞こえた。
 聞き間違いだ……。

「好き……好きです……っ、先輩……」

 痛いくらいにぎゅっと抱きしめられ、諦めていた「好き」の言葉を繰り返される。
 なんだこれ……どういうこと……。
 どうしてこんな状況に陥っているのか頭が混乱する。月森の腕に包まれて身体中が熱くなり、自分の中で何かが壊れそうだった。
 振られたはずの自分が、なぜこんな言葉を聞かされるのか理解できない。

「先輩……振られたのは、俺ですよ……?」
「は……? なに……言って……」

 言われた言葉の意味がわからない。
 月森の声が近すぎて、耳を塞ぎたくなるほど心臓の鼓動が体中に響き渡る。
 手足が震えて頭の中が真っ白になっていく。

「俺が、先輩に告白して、振られたんです」

 月森の言葉に頭がついていけないまま、息もできないほどの衝撃を受けた。

「…………嘘……つくな」

 声が震える。月森が何を言っているのか本当に理解できない。
 思い出した記憶の中では、告白したのは間違いなく俺で、月森は何度も「ごめんなさい」と繰り返してたじゃないか……。

「本当です。俺が告白したんです。俺は先輩が好きです……大好きです……っ」

 その言葉が胸に響く。涙声には説得力があり、俺の心は揺れ動いた。
 何度も「好きです……」と耳元でささやかれ、その熱い吐息に立っているのもやっとだった。

「なに……っ、も……わけ、わかんない……」

 俺が振ったって……なんでだよ。今の俺はこんなに月森が好きなのに……っ。

「先輩、本当に俺のこと……好きなんですか……?」
「す……好きだよ……。すごい好きだよ……っ。も……わけわかんないくらい月森しか見えない……っ」

 感情が高まり、言葉があふれ出す。

「俺も、先輩が大好きですっ」
「つ……月森……っ」

 月森の腕の中で振り返ると、涙を浮かべた熱い瞳が俺を見つめた。

「先輩……」
「月森……」

 その瞳から月森の熱い想いが伝わってきて、激しく感情が高ぶった。
 月森が……俺を好き?
 もしかして夢でも見てるのかな……。
 もう夢でもなんでもいい。今はこの月森の熱を感じていたい。
 会いたくて、そばにいたくて、焦がれてやまなかった月森が……俺を好きだと抱きしめる。
 今はこの幸せにただ溺れていたい。

「先輩……キスしたい……」
「俺も……したいよ……」

 ふわふわとした夢の中で、俺は素直に答えた。
 月森とキス。……キス? 嘘だろ……本当に?
 自問自答しているうちに月森の顔が近づいてきて、そっと唇が触れ合った。
 その瞬間、世界が止まったかのような感覚に包まれる。
 喉の奥が熱くなり、ふたたび涙があふれてきた。
 キスは甘くて、でも熱くて、俺たちの間にある混乱した感情を少しずつ解きほぐしていくようだった。

「先輩……」

 唇の隙間を割って舌が入り込んできた。口付けはどんどん激しくなる。

「……ん、月……森っ、……は……っ……」

 お互いの舌を絡め合う。胸が熱い。脳がしびれる。
 好きだ……月森……っ。
 夢なら覚めないで……お願いだ……。
 月森の手が俺の後頭部を押さえつけ、さらに深く口付けた。
 頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなる。
 ただこの一瞬だけを、月森と感じていたいと思った。
 
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

双葉の恋 -crossroads of fate-

真田晃
BL
バイト先である、小さな喫茶店。 いつもの席でいつもの珈琲を注文する営業マンの彼に、僕は淡い想いを寄せていた。 しかし、恋人に酷い捨てられ方をされた過去があり、その傷が未だ癒えずにいる。 営業マンの彼、誠のと距離が縮まる中、僕を捨てた元彼、悠と突然の再会。 僕を捨てた筈なのに。変わらぬ態度と初めて見る殆さに、無下に突き放す事が出来ずにいた。 誠との関係が進展していく中、悠と過ごす内に次第に明らかになっていくあの日の『真実』。 それは余りに残酷な運命で、僕の想像を遥かに越えるものだった── ※これは、フィクションです。 想像で描かれたものであり、現実とは異なります。 ** 旧概要 バイト先の喫茶店にいつも来る スーツ姿の気になる彼。 僕をこの道に引き込んでおきながら 結婚してしまった元彼。 その間で悪戯に揺れ動く、僕の運命のお話。 僕たちの行く末は、なんと、お題次第!? (お題次第で話が進みますので、詳細に書けなかったり、飛んだり、やきもきする所があるかと思います…ご了承を) *ブログにて、キャライメージ画を載せております。(メーカーで作成) もしご興味がありましたら、見てやって下さい。 あるアプリでお題小説チャレンジをしています 毎日チームリーダーが3つのお題を出し、それを全て使ってSSを作ります その中で生まれたお話 何だか勿体ないので上げる事にしました 見切り発車で始まった為、どうなるか作者もわかりません… 毎日更新出来るように頑張ります! 注:タイトルにあるのがお題です

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

ずっと二人で。ー俺と大好きな幼なじみとの20年間の恋の物語ー

紗々
BL
俺は小さな頃からずっとずっと、そうちゃんのことが大好きだった───。 立本樹と滝宮颯太は、物心ついた頃からの幼なじみ。いつも一緒で、だけど離れて、傷付けあって、すれ違って、また近づいて。泣いたり笑ったりしながら、お互いをずっと想い合い大人になっていく二人の物語です。 ※攻めと女性との絡みが何度かあります。 ※展開かなり遅いと思います。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

処理中です...