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アジア某国、20歳そこそこだった私は、
一人旅に出ていた。
今から10年ほど前、まだ女性の一人歩きは危険と言われているエリアで、今も観光客の被害が絶えない国の1つでもある。
数ヶ月前、
同棲していたパートナーが疾走。
海外に働きに出たという事以外分からなかった。
国も所在地も分からないまま、
無言で置き去りにされた寂しさと辛さと
困惑しながら生活を続けたけれど、
結局、いても立ってもいられなくて、
無謀な彼探しという名目で、
私も日本を後にした。
最初から彼を探す気なんて無かったのかもしれない。
そこまでが暖かい関係であったが故に、
1人残された時間は耐え難いものだった。
自分としても、彼に依存したこの辛さを、
断ち切りたかった。
彼の行動の理由は、
後に明らかになって、
互いをを思うが故の苦肉の決断であったと
わかったけれど、
当時のわたしは、そんな気持ちを知る由もなかった。
~~~~~~~~~
真夜中の便で到着した首都。
タクシーの窓から
昼間の熱気が残る空気を感じる。
ここには居ない。
きっといないだろう。
生活には困らない会話はできたものの、
帰国子女の彼と私には
英語力に歴然の差があった。
ーー足手まといになるから、置いていかれたのかな…
砂埃に滲む、車の明かりがスチームライトのように眩しく、生乾きの傷口にじわじわと染みた。
ーーーーー
ホテルに到着した頃には、夜中12時を回っていた。
チェックインを済ませ、部屋に通される。
小綺麗な身なりのボーイが、
「お茶をお持ちしましょうか?」
と聞いてきた。
もう店も閉まっている時間だ。
お茶の1杯でも飲みたかった。
「お願いしますー」
彼は爽やかな笑顔で返事をすると、部屋を出て行った。
ほどなくして、ドアがノックされ、
ドアを開くと
ティーポットとカップを乗せた銀のお盆を持ったボーイが立っている。
身長は私と同じくらいで、小柄な人だ。
私は入り口で受け取ろうとしたが、
彼はコーヒーテーブルまで運ぶと言う。
フライト後で疲れていた事もあり、
ドアの目と鼻の先にあるテーブルまで
運んでもらった。
私は礼を言い、お茶代を払った。
彼はニコニコしながら受け取った。
おやすみなさい。
と行ったのに、一向に部屋から出て行く気配がない。
「ーーまだ何か?」
「ーーーお綺麗ですね。一人でご旅行ですか?こっちに家族がいるとか?」
ーーぁぁ…早速この展開。。
「ありがとう。今は1人。でも私、婚約している人がいるので…」
雑談したい時間帯ではなかったが、
彼は悪びれる事なくニコニコして立っている。
「婚約? 婚約者をひとりにする男なんていますか? 笑」
疲れも手伝って、徐々にわたしも苛立って来る。
「…………あなたのフィアンセは馬鹿ですね…」
彼はそういうと、私にゆっくり近寄ってきた。
一瞬思考がパニックに陥る。
「………っ!
触らないで! ここの主任に言いつけますよ?」
私が抵抗の声を上げたのが意外だったのか、
彼はビクリと肩を震わせ、悲しそうな表情になった。
「今なら許します。早く出て行って。
疲れてるから。」
彼は無言でおずおずとドアのところまで行き
「おやすみなさいマダム」
と小さく言うと、ドアを静かに閉じた。
ーーこれが噂の洗礼?
この先の旅路が思いやれた。
一人旅に出ていた。
今から10年ほど前、まだ女性の一人歩きは危険と言われているエリアで、今も観光客の被害が絶えない国の1つでもある。
数ヶ月前、
同棲していたパートナーが疾走。
海外に働きに出たという事以外分からなかった。
国も所在地も分からないまま、
無言で置き去りにされた寂しさと辛さと
困惑しながら生活を続けたけれど、
結局、いても立ってもいられなくて、
無謀な彼探しという名目で、
私も日本を後にした。
最初から彼を探す気なんて無かったのかもしれない。
そこまでが暖かい関係であったが故に、
1人残された時間は耐え難いものだった。
自分としても、彼に依存したこの辛さを、
断ち切りたかった。
彼の行動の理由は、
後に明らかになって、
互いをを思うが故の苦肉の決断であったと
わかったけれど、
当時のわたしは、そんな気持ちを知る由もなかった。
~~~~~~~~~
真夜中の便で到着した首都。
タクシーの窓から
昼間の熱気が残る空気を感じる。
ここには居ない。
きっといないだろう。
生活には困らない会話はできたものの、
帰国子女の彼と私には
英語力に歴然の差があった。
ーー足手まといになるから、置いていかれたのかな…
砂埃に滲む、車の明かりがスチームライトのように眩しく、生乾きの傷口にじわじわと染みた。
ーーーーー
ホテルに到着した頃には、夜中12時を回っていた。
チェックインを済ませ、部屋に通される。
小綺麗な身なりのボーイが、
「お茶をお持ちしましょうか?」
と聞いてきた。
もう店も閉まっている時間だ。
お茶の1杯でも飲みたかった。
「お願いしますー」
彼は爽やかな笑顔で返事をすると、部屋を出て行った。
ほどなくして、ドアがノックされ、
ドアを開くと
ティーポットとカップを乗せた銀のお盆を持ったボーイが立っている。
身長は私と同じくらいで、小柄な人だ。
私は入り口で受け取ろうとしたが、
彼はコーヒーテーブルまで運ぶと言う。
フライト後で疲れていた事もあり、
ドアの目と鼻の先にあるテーブルまで
運んでもらった。
私は礼を言い、お茶代を払った。
彼はニコニコしながら受け取った。
おやすみなさい。
と行ったのに、一向に部屋から出て行く気配がない。
「ーーまだ何か?」
「ーーーお綺麗ですね。一人でご旅行ですか?こっちに家族がいるとか?」
ーーぁぁ…早速この展開。。
「ありがとう。今は1人。でも私、婚約している人がいるので…」
雑談したい時間帯ではなかったが、
彼は悪びれる事なくニコニコして立っている。
「婚約? 婚約者をひとりにする男なんていますか? 笑」
疲れも手伝って、徐々にわたしも苛立って来る。
「…………あなたのフィアンセは馬鹿ですね…」
彼はそういうと、私にゆっくり近寄ってきた。
一瞬思考がパニックに陥る。
「………っ!
触らないで! ここの主任に言いつけますよ?」
私が抵抗の声を上げたのが意外だったのか、
彼はビクリと肩を震わせ、悲しそうな表情になった。
「今なら許します。早く出て行って。
疲れてるから。」
彼は無言でおずおずとドアのところまで行き
「おやすみなさいマダム」
と小さく言うと、ドアを静かに閉じた。
ーーこれが噂の洗礼?
この先の旅路が思いやれた。
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