彼を探して〜Pay foreword to your Journey 〜

霜月美雨

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初日に到着したホテルには、3日ほどの滞在を予定していた。


到着した夜にボーイの一件があったものの、街中では危険な目にあわずに過ごせていた。


けれど翌日、異変に気付いた。


ーーー留守中、部屋に入られている。


掃除は頼んでいなかった。


それと、ルームキーがない…


チェックインの時に預けたパスポートも
返されていない。
オフィスのコピー機が壊れたから明日渡すと言われたが、
マトモなホテルなら、その場でパスポートは返さない訳がなかった。



………これは、まずい…



嫌な予感はしていた。
夕刻ホテルに戻って、フロントで鍵とパスポートの話をする。


エントランスのソファーで待たされ、
ほどなくして係がやって来た。
ーーあのボーイだ。
ニヤニヤしながら、彼は「お困りですか?」と聞いてくる。

「ルームキーがなくて…」

「ルームキーが?それは困りましたね~
失くしたんですか?笑」

「…なぜ笑っているの?」

「失礼。コレですか?私が拾いました。」


チャリ…と 音を立てて 
目の前に差し出された彼の指には、
私の部屋のルームキーが掛かっていた。


鳥肌が立つーー

「ーーーどこでそれを?」


彼は得意げに言う。


「ええ? エントランスに落ちていたんですよ?」


ーーそんなはずない、よくてキーとじ込みだったはず。
部屋にあったカギ、取れるとしたらシャワーを浴びている間くらいだった…


ーーこれは仕返し?


ここのホテルではパスポートを巡り1週間軟禁状態になった。

その間、夜中に外から部屋の鍵を開けて侵入されたり、
(すぐに電気をつけて、犯人は立ち去り、ドアだけ開きかけていたり)
とにかく行きた心地がしなかった。


あの手この手で何とかパスポートを取り返し、逃げるようにホテルを後にした。


直接危害を加えられなかった事だけでも、幸いと言えるが、
奇しくも比較的富裕層が利用するエリアで、
最初からこのホテルに当たった事は、
完全に不運だった。



日本人が泊まっている宿を探そう。。。



エリアを変えて、昼頃には宿を何軒か辺り、
目星をつけられた。
最後に回った小さな宿屋で、日本語が流暢なオーナーの店を見つけた。


店主は私の様子から察して、
「大丈夫?全部話して。」
と、日本語で話を聴いてくれた。



蒸し暑いビルの細い階段を上がったロビーは、こじんまりしていたけれど明るく、フロントに飾られた花が優しかった。



ファンが回る涼しいソファーに
日本人らしき男性が2人いた。
一人は座ってノートパソコンを開き、
もう一人は寝そべって涼んでいた。



最後まで聞くと、店主は
「大変だったね。もう安心して。
この前も、別の宿で被害に遭った子が来たばかりでね。でも◯◯(地区)では珍しいね…」

「◯◯って治安いいの?」
寝そべっていた男が口を開く。


あそこはリッチな人ばかりだから、
身分よくないと働けない。
と店主。


「不運だね~~オネーサン、この国来ちゃダメなタイプなんじゃなーい?」


はぐらかす様に、その彼は目を閉じたまま言った。

私とさほど歳も変わらない子だったけれど、
滞在は長そうで、旅慣れた感じがしていた。


「……。」

ここまでの疲労と、安堵と、悔しさで
涙が浮かんだ。


「まぁまぁ、仲良くしよーよ~」


隣にいたPCの男性が口を開いた。


スっと立ちがって、片手で小脇にPCを抱えると、右手を差し出して来た。


「俺、◯◯(フルネーム)Yって呼んで。」


「………ミウです。」


握手を交わす。


「俺も彼も、しばらくここ泊まってるから、何でも聞いてね。」


「………ありがとう。」


Yさんは私の目を見て、ニコッと笑った


仕事で来ているんだろうか…


ただの旅行や放浪ではなさそうだった。



「せっかく落ち着ける場所に来たんだし、
オーナー、今日屋上、夕飯いいですか?」



この日の夜、滞在中の客数名で、
宿の屋上で夕飯を作ってみんなで食べた。
ここまでの怒涛の1週間が、
暖かい時間で溶かされていく。



Yさんは各地をラウンドして戻ってきたところだった。
最初にきた時は祝祭のシーズンで、
ここの屋上から見える距離で、
祭りに参加した女性が身包みを剥がされて
犯されてしまった話を聞いた。



「この国は、ここのオーナーみたいな善人もいれば、俺達が想像できないレベルの悪人もいるからね…」


だからミウさんは、ラッキーな方だと思うよ。と、彼は優しく笑った。


屋上の焚き火の明かりと、
パチパチ薪のはぜる音が 乾いた夜空に登っていった。


これが、しばらく旅路を共にする事になる、
Yさんとの出会いだった。
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