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旅路を共にしてくれたYさん、


いきなり始まった共同生活。


宿はワンルーム。


ベッドはセミダブルが2つ隙間なく並んでいた



ユニットシャワーが付いているだけ。



Yさんは四六時中私と一緒というわけでは無かった。


寧ろ、PC相手に煮詰まっている時には、
出て行って欲しそうでもあった。



日中の街歩きは一人でして、出先で他の旅人と過ごしたり、食事する事もあった。



まだガラケーだった時代。


電波もろくにない悪治安のこの場所で、


ケータイを持つ事もなく


特に連絡は取合わなかった。


Yさんは、夜遊びする人かと思っていたけど、
私といる間は、夜部屋を開けることはなかった。

~~~~~~~

「俺明日缶詰だわ~~。美雨ちゃんどーするん?」


Yさんが部屋に留まるのが苦痛なタイプであることは一目瞭然だった。



「私はーー…○○に行ってきます。昼頃ね。あとは服を見ようかな…」



「服買うの?どこの店?」



「まだ決まってない。」



「服だったらお勧めのところあるよ。

俺似合う服、見立ててあげたいわ~

アクセサリーとかつけないの?」



Yさんは、どちらかというとストリート系のお洒落さんだった。


明日はYさんが仕事おわった後、一緒に服屋さんに行くことになった。


~~~~~

「Yさん、お疲れさまです。
私、先に寝るね。ぁ、電気はそのままで平気だから。^^」


「ぁぁ。おやすみーー^^☆」


ベッドサイドのテーブルで


ポータブルヒーターでコーヒーを淹れ直しながら言う。


ここに着いてから2日目。


私はテーブルから1番遠いベッドの端で、
背を向けて横になると、シーツを被って
静かに目を閉じた。


久しぶりに、誰かと同じ空間で
眠りに落ちる瞬間、ほっとした。


ーーーーーーーー



……………ん?


寝ぼけ眼を開くと部屋の灯りは消えて、
すっかり夜が更けている。


ーーーーここ、どこだっけ。。



1ヶ月単位の旅をすると、よく起こりがちな
感覚。



あれ……


私は眠った時のまま、ベッドのすみにいる。


その背後から、抱きしめるようにしてYさんが眠っていた。



状況を理解しだすと、静かに身体が硬直した。



勿論、全く考えなかった訳がない。
寧ろもっと酷いケースすら想定できた。


でも… こんな…


人の温もりに触れているのが
久しぶりだった。


…ぁぁ…どうしよう。



ーー意識し出したら止まらなくなってしまう。


するとYさんは 抱きしめている腕にぎゅっと力を込めて、私を引き寄せた。



……ぁ



「起きちゃった?」



「………」



「少しだけ、このまま…」




Yさんは強張る私の体を 優しく撫でた。



肩から腕をなぞって、私の左手に指を絡める



「美雨ちゃんってさ……結婚してるの?」



シルバーリングを確かめるように触れる。



「ううん。 エンゲージリング。」



「帰ったら入籍するの?」



「ううん…。。 探しに来たんだ…」



「え…? ……失踪?」



「そんな感じかな… この国じゃ無いんだけどね、多分…」



「…そうだったんだ…。俺結婚してるんだと思ってた。」



私は背を向けたまま苦笑した。



「相手の人のこと…聞いてもいい?」



「……いいけど なんで?」



少しおかしくて、笑いが混じる



「いや… なんか気になって。
美雨ちゃんみたいな子に結婚申し込める人って、どんな人かなって…
…日本人…だよね?」



私たちは そのまま、少し話をした。


Yさんは数年付き合った彼女と別れてから
世界ラウンドの旅に出て、半年が過ぎていた。


彼はあと10年くらい、仕事中心で飛び回り、女性関係は落ち着かなさそうに見えた。

ーーーーーー


「ーーそっかぁ~~…」


ひとしきり話した後、Yさんが脱力しながら言った


「美雨ちゃん落ち着いてるからなぁ。
一緒にいたいって人多そうだもんなぁ~~…俺が付き合う子はみんな我が強いから、
毎回大変なんよ~~
結婚は遠いわ…」



「…でも、みんなお洒落で可愛いでしょ?」



「あれ。なんでわかるの~~。
てゆうか 焼いた? 笑」



「笑…自信家だなぁ。 

スキだけど。」



嬉しそうに笑うと彼は、子犬を愛おしく抱きしめるように、私をぎゅっとした。



そのままクルリと仰向けにすると




軽く覆いかぶさって 口を開く




その声のトーンに 静かに息を飲んだ。






「まだ誰かのものじゃないって分かったら



…ストッパー 



外れちゃったーー…」
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