上 下
9 / 14

9

しおりを挟む
~~~~~~~~


蒸し暑く 



裸電球が一つだけのシャワールーム。



響く水の音に 意識が潤いを取り戻す。




ボランティア活動、



倒れてからの一件…



今日も色濃い1日だったな…




シャンプーの香りに包まれながら



今日一緒に過ごしてくれた子たちや



介抱してくれたYさん、



買い出しに行ってくれている彼にも




感謝の気持ちで



静かに胸が熱くなる。




ーーー私はここに…何をしに来たんだろう。。





キュッ………





蛇口を閉じると、傍に掛けてあるバスタオルで体を拭きあげて、身体に巻き
扉に手をかけた。




一瞬 ハッとする。



あの子は、買い出しからもう戻ってきているだろうか。




そっと扉を細く開く




ーーータイピング音と、PCから流れる邦楽が聞こえた。



「Yさん。○○君、もう来てますか…?」




「んーーーー?まだよ~~~~?」




私はホッとしてバスルームから出た。





コーヒーカップを口から離してYさんが言う。




「目眩とか大丈夫そう?」



爽やかな笑顔。



「うん。ありがとう。もう大丈夫。」




「よかった~~」




彼は椅子の上で大げさに両手を上げて後方の天井を仰いだ



その反動で立ち上がって、



タオルを巻いただけの私をそのまましっかり抱きしめた。




「よかったー…心配した。。」




ん~~…とそのまま暫くほおづりする。




私より僅かに高いくらいの身長差




彼が私を運んだなんて…



「Yさんこそ、体痛めてないですか?ここまで登ってきたんでしょう?…重かったよね。。」



「ん??大丈夫よ? 俺スポーツ何でもやってきてるから。痛めるような無茶はしないよ
^^」


無茶してでも運んだけどね。
と笑う。




「お着替えしないと~ ○○君に、美雨ちゃんの大切なお風呂上がり、見られちゃうぞ~~」



イタズラそうに言うと、水のボトルを渡してくれた。



「しっかり水分、とっておいてね。」




今で言うところの“スパダリ"というやつだろうか。




Yさんはつくづく、人の良い青年だった。




程なくして、買い出しに行ってくれた友人が戻ってきた。



私が普通の食事はきついかもと、フルーツと水まで買い出してくれていた。



ーーーみんな なんて優しいんだろう。。



弱っていた体に優しさが沁みる。



「じゃっ。オレ行くんで!」


「え? 一緒に食べてかんの??」


「さっき友達と再会したんで、
行ってきます!明日出るらしいんで。」


オレまだしばらく居るんで、また町中で会いましょう!と、テイクアウトした自分の夕飯の袋を軽く振った。


「ほいよ~。ありがとね~☆」


足早に去った彼をYさんと見送る。



「……行っちゃったね。。」


残念やな~~でも 多分また会うわ。笑とYさん


「なんか…食べれそうなものある?食べれたら食べよ?」


Yさんは作業を中断して、素早く自分の夕食をとる。


私もそばで フルーツに手をつけた。


「今日はゆっくり休んでおきなね。
外出はまた明日にしよう。」


私達はボランティア施設で見てきた事を互いに話したりしながら、簡単な夕食を終える。


「Yさんは、いまからお仕事?」


「んーー? そんなに多くはないよ?
先方の連絡待ちだけど、今日はもうこないかなぁ~~。 なんで?」


「………んん。 いつも忙しそうだから。
聞いただけ。」


普通に笑おうとしたけれど、体調の事もあったせいか、元気が足りなかった気がした。


「 ? どうした~~?」


向かいに座っていたYさんが
私の隣に来て腰を下ろす。


「なんか……心細くなっちゃった? 

これもう一個食べる?」


ネクタリン系のフルーツを1つ取り出して
私の前に差し出す。


どうしようもない気持ちのまま
静かにうなずくと


彼の手ごと口元に引き寄せた。
そっと齧ると、果汁が溢れて滴る…


ーー私の旅の目的は
“フィアンセを探す事"だったはずなのに、
見つかりもしないこの地を訪れて
彷徨っている。。


このまま帰ったとして、
私はどうやって次に進むのだろう。


ここにいる温かいYさんも
今ここにしか居ない存在なのに…ーー



果物の甘い香りが広がって


涙が溢れた。


止まりそうもなくて、


彼の手に滴る果汁を舐め上げる。




「おぅおぅ… よしよし
どーーしたの~~~??」



と、困り顔でも笑いながら私の頭を撫でると
そのまま涙に口付けた。


「キミは困った子だなぁ……」


「………ごめんなさい」


「謝る事はないさ。」


そういうと、彼は徐にPCを閉じ

静かに部屋の照明を消した。


真っ暗な室内に
ドアの上のガラス窓から 廊下の光だけが差している


Yさんは私の瞳をその光にかざし
何かを確かめるように見つめた。


私から彼の瞳と表情は逆光で見えない…


斜め上から覗き込んだ瞳をYさんは静かに押し倒した。



ーーーーーーーー


「……っ ぁ…っ ハァっ……」


「……んっ… はぁッ …ハァッ…ここ…?」


「んんっ…くッ…あッ……」



彼は私の善いところを 何度も丁寧に突き上げた。



「アッ……ハァッ…ダメ… はぁッ またイっちゃ……ッ… 」



忘れてしまいたかった…
このまま、今までの自分が無くなるくらいに



けれど彼は
指を絡めて腰を抱き
優しく優しく責め立てた。
まるで恋人を抱くように


身体は奥の奥から 繰り返し繰り返し
満たされているのに


一番欲しいものを貰えない感覚…



Yさんは涙が乾いた事を確かめるように
私のほおを撫でると 


額にそっと口付けた。


そのまま首筋へ落として
舐め上げながら
彼のフェーズに入る。



前回のお触りとは違う
言葉を交わさない行為だった。



ーーーー


息も絶え絶えに天井を仰ぐ私から


一頻りの性を放ち切った彼のモノを引き抜くと

彼は隣に仰向けになる。


そっとシーツをかけてくれた。


息が整い出したころ、Yさんがポツリと言った。


「……美雨ちゃんはさぁ… 俺なんかでよかったの?」


「…え?……うん。寧ろYさんだったから…

Yさんこそ…私なんかで。。」



「ーー俺?」


意外そうな声色だった



「俺は良かったよ~。」



「……ぇ」



ーーどうしてですか?



喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。


なぜだか 答えを聞くのが怖くなった。


世界何周かの旅路の途中とはいえ、
頂けるものは頂いておくという程、
彼は女性に困らない人だっただろう。



私はそのまま、シーツを深々と被った。


「ん~~? なんで隠れるの~?
難しい子やなぁ~~笑」


笑うとシーツごと抱きしめられる。




Yさんは決っして唇にキスをしなかった。
これは彼側の普段からのルールだったのかもしれない。



でも、オープンな愛情表現の仕方に
学ぶ事はたくさんあった。


ーーーーーー


窓の外が薄っすらと明るくなりはじめる。



景色が白く輝きだす ーー夜明け。




隣では 彼が少年のような寝顔で眠っていた。




彼に背を向けるようにして




私はそっとシーツから左手を出した



薬指に光るシルバーリングを、
静かに眺める。









窓の外に 鳥たちの声が響き出す




私は指輪をそっと外し、ポーチへ仕舞った。




真夏の日差しにリング焼けした跡が
くっきりと残っている



その間抜けな跡をみて
ひとりでクスっと笑った。





私は一体、誰を探していたのだろう。





恥ずかしい跡を、そっと右手で包むと、
また彼の寝顔へ向き直る。




「~~~ん~ もう 起きたの~~?」



まだ目を開かずに彼が言う。




「ん~~~? まだ寝てる~^^」




町中が騒がしくなりだすまでの



ほんの数時間、




私は彼の隣で 




深い深い眠りに落ちた。
しおりを挟む

処理中です...