3年2組の山田くん

ことのは

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日常、それは変わらない日々

月は、いつでもそこにある

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「じゃあ、また明日」
「おう、また明日なー」

 青木あおき千夏ちなつが同じ方向。俺達は別々だからここで別れた。
 また明日って言えるのも、今日で最後なんだなぁ…。
 感傷に浸っていると、大きな満月が目に映る。

「月がきれいですね…」

 今ではありふれたフレーズが、不意に零れた。

「何それ? いきなり何? どしたの?」
「なんだ知らないのか? 有名なフレーズだろ?」
「え? 何々? 何て意味?  志村しむら知ってる?」
「えー知らねー。なんて意味なんだ? 山田」
「なんだ知らないのか?  夏目漱石なつめそうせきの有名な言葉だ」
「あの『吾輩は猫である』の作者?」
「あぁ。ある生徒が『I Love You』を『我君を愛す』と訳した。しかし夏目漱石は『日本人はそんなことを言わない。“月が綺麗ですね”とでも訳しておけ』と言ったそうだ」

 だから俺は言う。そんな俺のことを大切に思ってくれている奴らに…。

「志村、 明里あかり、 鉢須はちす。そして青木、千夏…」
「ん?」
「なんだ?」
「なに? ユウ」

 不思議な顔をしている奴らに、この言葉を贈るよ。

「月が綺麗ですね」

 顔を紅くする3人。なぜだろうか?変な言葉を言った覚えはないのだが…。
 もしや風邪でも引いたのでは?確かにまだ3月だが肌寒い季節だ。

「ユウって」
「山田って」
「ほんっと…」
「「「天然たらし」」」

 顔に手を当てている3人に、俺は「はぁ?」と目を丸くした。

「なんでそんなことサラッと言えるかなぁ…」
「マジ無理。俺心臓撃ち抜かれた気分なんだけど…」
「ほんっと叶わねぇわ…。反則なんですけど…」

 ボソボソ独り言の様に言う3人の声は俺に届かない。

「ほら何やってんだ? 早く帰るぞ」
「分かってるよ。でもさっきの様なこと、他の人にはやっちゃダメだよユウ」
「ん? どういう意味だ?」
「女の子はね、勘違いしやすいんだから。ユウは特に注意しないとダメー」
「訳分からないんだが…」
「分かった?」
「よく分からないが、明里がそういうなら良いよ」
「だからそういうのもダメなのー」
「はぁ?」
「もうユウはー」
「ごめんごめんって」

 軽い謝罪をしてなお怒る明里に、俺は苦笑いを浮かべた。

「もう、ユウはー。謝ればいいと思ってるんだからー」
「別にそんなことないんだが…。でもここから志村は別なんだから、そんな顔すんなよ」
「…むぅ。分かってるよ、そんなことくらい」

 少しばかり機嫌を直した明里に、俺はほっと一安心する。
 明里は怒ると手が付けられないけど、ちゃんと反省はする良い子だって俺は知ってる。

「それじゃ、また明日ね志村。絶対遅刻しないでよねー」
「俺、皆勤賞なんだけど。それ言う? 第一、遅刻なら涼太が一番怪しいだろ」
「いい加減それ引きずるの止めろよなー」
「はいはい」

 少し名残惜しいが、志村ともここで別れた。
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