ドラゴンに殺られそうになって(電車にはねられそうになって)気が付いたらOLになっていた(気が付いたら魔術師になっていた)件

ミドリ

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第三章 上級編開始

第535話 魔術師リアムの上級編・早川ユメ攻略三日目の就業時間

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 傍から見ると、祐介とリアムは立派な恋人同士なのだろう。毎日手を繋ぎ、ほぼ一緒に暮らし、そして最近は時折口づけを交わすこともある様になってしまった。

 だが、本当にこれでいいのであろうか。

 リアムは眉間に皺を寄せながら、キーボードをガンガン叩いていた。お陰様で、もう見ずともバチバチ打てる様になった。慣れてしまえばなんてことのない作業である。配置と条件を覚えてしまえば、魔法の仕組みを覚えるのと一緒。楽勝であった。

「野原さん、物凄い顔してるけどどうしたの?」

 木佐ちゃんが、恐る恐るといったていで尋ねてきた。リアムはハッとして姿勢を正す。いかん、今は仕事中である。自身の個人的悩みを顔に出している場合ではなかった。

「問題ない」
「そ、そう……」

 木佐ちゃんは、それ以上この件については触れないことに決めた様だ。リアムは仕事に集中することにした。今日は前に祐介がいない。その為、つい顔に皆出てしまっていたらしい。

 今日は祐介は、どうしても商談があって展示場に行かなければならなくなり、絶対に先に帰っちゃ駄目、時間までに絶対戻ってくるから! と言い捨てて物凄い勢いで会社を出て行った。

 そして昼飯は絶対一人で外に行くなと言われ、コンビニ弁当なる代物を購入させられた。社内で木佐ちゃんと食ってくれ、だそうである。木佐ちゃんは基本自作の弁当を持参してきており、社内でいつも食しているそうだ。なんともたおやかな女性である。リアムには一生真似出来そうにもないが、多分祐介なら出来そうだ。

 リアムが乙仲に輸入通関の指示を出すメールを送り終えると、木佐ちゃんが次の書類を手渡してきた。

「商品と単価が合ってるか内容確認お願いね」
「承知した」

 この会社が取り扱う家具は、海外の職人が一つ一つ手作りしている。その為、売れ筋以外は基本受注生産となっており、従って一回にコンテナなる海上輸送に使う箱に入ってくるものの種類は非常に多い。決まった単価の上に職人達のストライキがあったなどと言ってはしょっちゅう単価が上がる。その為、約束した単価で来ない場合が多々あるのだ。しかも高い方に。

 リアムは黙々と仕事をこなした。時折喉が乾きフッと集中が切れると、つい祐介を探す。いつもずっと近くで見守ってくれていた祐介がいないのは、不思議な感覚だった。普通の恋人とて、毎日ずっと朝から晩まで一緒に過ごすことは少なかろう。祐介とリアムは同じ職場なのでずっと一緒だが、これもいずれ祐介が先に音を上げるのではないかとリアムは危ぶんでいた。

 祐介のリアムへの関心が薄れれば、リアムの元の世界への帰還の可能性が高まる。

 リアムは、今はここにいたい。だが、祐介のことを考えれば互いに依存の関係にどっぷりとはまってしまう前に離れた方がいいのも分かっている。祐介はいずれは結婚し子を成すであろうし、その時になってリアムを解放するのであれば、リアムは帰る頃には更に年を取ってしまっている。サツキとて同様だ。今が一番若さを楽しむ時期であろうに、リアムの老いてきた身体に入っているとは哀れのひと言である。

 やはり、羽田の件が片付いたらきっちりと話そう。リアムはようやくはっきりと心に決めたのだった。
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