イケメンハーフなダンピールに求婚されました〜ハロウィンの追いかけっこ〜

ミドリ

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母の死

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 私はソラに目線で合図を送り、降ろしてもらうことにした。抱き抱えられながらの会話は、ちょっと首が痛い。

 ソラは渋々といった体で降ろしてくれたが、すぐさま背後から私を抱きすくめた。それを見た神崎が、イラッとした表情を浮かべる。

 神崎の腰に巻いた布はひらひらとはためき、時折ぶわっと布が風に煽られて捲れ上がるのがちょっと絵面的にきつかった。イライラしている場合じゃないんじゃないか。

 だって下はすっぽんぽんだ。奴のブツの大きさは知らないし知りたくもないが、見えたらどう責任を取ってくれるんだ。

「……僕はいずれ君を紹介してもらうことになっていた。何度か、どんな子なんだろうって気になって、こっそり会いに行ったりもしたんだけど」
「そうなんですか、気付きませんでした」
「……ハルちゃん、本当僕には塩対応だよね……」

 神崎が肩を落とすと、ソラが小さく鼻で笑った。

「……でまあ、そうこうしている内に、この話を聞きつけた一族のはぐれ者が、ハルちゃんを先に自分の物にしてしまおうって待ち伏せしたんだ」
「え……?」

 子供の時に決まった許嫁の話。私の前に現れてはいつの間にかいなくなる怪異。私が大きくなってから、怪異に襲われて亡くなった母。パズルのピースが、どんどん神崎の言葉によって埋まっていく。

「……先に帰宅したのは、ナツカさんだった」

 私は息を呑んだ。やはり、神崎は今からあの日の話を私にしようとしているのだ。

「ナツカさんは、君もよく知ってる大家のヨシコさんに僕達を呼ぶよう依頼して、彼女は自ら血を流し、奴をその場に留まらせた」

 神崎が重苦しくそうに言うが、私にはその意味が分からなかった。

「神崎さん、ごめんなさい。意味がよく分からないんですが」

 神崎は、信じられないという様な表情で私に聞き返す。

「ハルちゃん、君はナツカさんから稀血まれちについて本当に何ひとつ聞いてないのかい?」

 私はこくりと頷いた。時折風に吹かれて私の頬を撫でるソラの髪が、くすぐったかった。でも嫌じゃない。これが恋ってもんか。

「母は、怪異が私達の前に現れることについても、私が大人になったら教えてあげるね、といつも言葉を濁してました。あなたが襲われることはないから大丈夫、皆が守ってくれているからって」
「そうか、やはり結婚できる年齢になるまでは黙っているつもりだったんだな……」

 神崎が遠い目をする。皆って誰? と聞いても、母は答えず笑うだけだった。だが、神崎の言葉を信じるならば、私はずっと人狼一族に守られていたことになる。だから今まで何も知らずのうのうと生きてこれたのだろう。

「まあそれは今は置いておこうか。稀血の話だ。稀血の濃さは、女性としての生殖機能が万全になった頃から濃くなり、女児を生むことで段々と薄まっていく」
「と、いうと……?」

 やっぱりよく分からないので、私は説明を待つことにした。自分のことを他人が、しかも人外が説明するのは何だか変な気分だったが、この場合仕方ない。

 私は知りたかったから。何故私がひとりきりになってしまったのか、その明確な理由を。

「君が高校生になった頃は、君は女性として成熟し始めた時期にあたる。つまり、稀血の濃さが一番強い時期に差し掛かった、ということだ」
「……はい」

 時折チラチラとやっぱり一瞬股間が見えそうになるけど、見ないようにしよう。あんまり進んで見に行くものでもないだろうし。ていうか話に集中したいのに、あそこが邪魔をする。分かってんのか、神崎。

「逆に、ナツカさんは君を生んだことにより、稀血が段々と薄まっていた時期だった」
「……もしかして」

 私にも何となく母のその時の意図が分かってきた。母は、私を守ったのだ。神崎はこくりと頷いた。半裸で。

「稀血は薄かったが、血を外に出すことにより奴をその場に留めることに成功した。僕達が到着する前にハルちゃんを探しに行かないようにしたかったんだろう。ハルちゃんの学校の場所は奴も知っていたから、ナツカさんも必死だったんだろうね」
「お母さんが……」

 ソラが言っていたじゃないか。私の血は甘い匂いがすると。例え薄まっていても、母も稀血の持ち主だ。それを外に出したことにより、甘い香りがそいつを誘う。

 自分を食えと。

「奴は、ナツカさんの血の誘惑に負けた。僕達がヨシコさんに言われて急いで駆けつけた時には、ナツカさんはもう息も絶え絶えの状態だったよ」

 母は何故、私に何も言わずにいたのか。今になってはそれももう分からないが、母のことだ。出来るだけ長い期間を、普通の女の子として過ごしてもらいたかったのかもしれない。ジン、と涙が滲んできた。

「君は、僕達の到着とほぼ同じ時刻に帰宅してきた」
「……それは……何となく覚えてます」

 階段に血だらけで倒れている母。その上に跨って狂った様に母の血を貪る黒い大きな影。だけど、記憶はそこで途切れている。

 神崎が、悲しそうな表情でぽつりと言った。

「ハルちゃんは、その場で気を失っちゃったんだ。可哀想に……」
「あ、そういうことだったんですね……」

 気を失ったのなら覚えてなくて当たり前だ。そんな単純なことだったのか。記憶障害でもあるんじゃないかとちょっと焦ってしまったじゃないか。

「僕達は、すぐさま奴に戦いを挑んだ。だけど、ナツカさんの血でパワーアップしていた奴になかなか勝てなくて、その、君は僕の許嫁っていう立場だったから、気を失っているところに悪いなとは思ったんだけど、ちょっと血をもらいました」

 ……そんなこと、あっただろうか。私が眉間に皺を寄せて考え込むと、神崎が慌てて説明した。

「あっハルちゃんの手首にちょっとね! でもハルちゃんの傷は、僕が舐めたらすぐに塞がったから!」
「まあ、仕方のない事情だった訳ですし」

 私がそう言うと、神崎はあからさまにほっとし、代わりにソラがボソリと言った。

「勝手にって、寝込み襲ってるじゃないか」
「こら、ソラってば」

 ソラはフン、と言うと、私の髪に顔をうずめた。それを見る神崎の表情は、――怖い。

 神崎は拳をぶるぶると震わせつつ、話を続けた。

「ハルちゃんの血のお陰で、僕は奴に勝った。ナツカさんはもう駄目だったけど、最後にハルちゃんを守れてよかったって笑って息を引き取ったよ」
「お母さんがそんなことを……」

 命を賭して私を守ってくれたのだ。あ、駄目だ、涙が出る。視界がどんどん滲んでいくじゃないか。クールなハルちゃん、戻ってこい。

「……で、その後、君が目を覚ますまでヨシコさんの部屋で待たせてもらってたんだけど、君は一瞬目を覚ましてまた寝ちゃって」
「――あ! あの時のシベリアンハスキー!?」
「シベリアンハスキー……あ、うん、まあそうだね」

 なんと、あれは神崎だったのか。言ってくれりゃあよかったのに。そう思ったのだが、神崎はちょっと照れくさそうに勝手にその理由を話し始めた。

「実はさ、折角血を分けてもらったから、僕の血を分けたら契約完了するからって周りに突っつかれたんだけど、ハルちゃんは目を覚まさないし、それに契約の効果で好きになってもらうよりも、ナツカさんの死から立ち直ってから僕と出会って普通に恋愛出来たらいいかなって思って、その日は帰ったんだよ」
「そうだったんですか……」

 神崎に塩対応していたのが、ちょっと申し訳なく思った。苦手は苦手だが、でもずっと守っていた人に塩対応されたらそりゃあ凹むだろう。

 と、私はひとつ神崎の台詞におかしな部分があったことに思い至った。

「え? 契約の効果で好きになる?」

 私が私に抱きついているソラを振り返ると、ソラはバレたか、という悪戯っ子の様な笑みを見せ、私の口にちゅ、とキスをした。
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