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其の二十六 手の跡
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正直に言おう。ちょっとやり過ぎた。
「花、大丈夫?」
汗だくになり荒い息をしながら俺に背中を向けている花に声をかけたが、反応がない。
「花……?」
上から花の顔を覗くと、目を半分開けて宙を見つめていた。やっぱりやり過ぎてしまったらしい。
花は痛がっていたのに止まらなくなってしまい、俺の背中に付けられた引っかき傷も、今になるまで気付かなかった。それ程に、夢中になってしまった。全て俺の所為だ。
レースのカーテンの外は明るい。壁掛けの時計を見ると、まだ三時前だった。何時間も濃い時間を過ごしたと思ったが、あれから二時間も経っていなかったとは。
コンビニで買い使用済となった例のブツを手に取り口を結ぶと、さてこれは一体どこに捨てればいいのだろうかと考えあぐねる。自分の家に持って帰る訳にもいかないし、かといって花に処理を頼むのも気が引ける。親父さんはまだまだ帰ってこないとはいえ、花は今うちで居候をしている。わざわざこれだけの為にゴミ捨てに来るのも億劫だろう。
ぐちゃぐちゃと考え、後でコンビニのゴミ箱に捨てることに決めた。箱が入っていたビニール袋を取り出すと、汚れたティッシュと共に押し込む。
「宗ちゃん……」
音に気付いたのだろう、背中を向けていた花がこちらを向くと、花の形のいい胸が視界に飛び込んできた。ところどころ皮膚が赤くなったりしているのは、まあ全部俺の所為だ。ごくりと唾を呑み込むと、今もまた溢れ出そうになる欲求を無理矢理抑え込んだ。
「シャワー借りていい?」
「あ、うん」
「すぐ戻るから」
勉強もしなければならないのは確かだ。さっとシャワーを浴びてくると、花は足を子鹿の様にガクガクさせながら、入れ替わりに風呂場へと向かっていった。……なんだか悪いことをした気分になってしまった。やはりやり過ぎてしまったらしい。手を貸した方がよかったのだろうか、と思わず悩んだ。
風呂場から戻ってくると分かったのは、花の部屋にはそこそこムワッとした匂いが充満しているということだ。エアコンを付けてはいるが、一度換気しておいた方が良さそうだった。
着てきた学校のネイビーのポロシャツとグレーのズボンを着る。ちょっと汗臭くて濡れているが、こればっかりは夏だから仕方ない。
これまた大分しっとりしているベッドの上に膝立ちになると、レースのカーテンをシャッと開けた。
花の家は、平屋だ。だが家には一応女の子がおりひとりの時間も長いからと、親父さんが随分前に背の高い柵を家の周りに設置した。狭いけれど家庭菜園が出来る庭もあるし、人が裏から入ろうと思ったら、玄関の横から家と柵の隙間をカニ歩きでないと入れない仕様になっているのだ。
だから、意図的に入ろうとしない限り、人が入ってくることはないし覗かれることもない。
なのに。
透明の窓ガラスには、べったりと両方の手のひらの跡が付いていた。
「……ひっ」
漫画で見るような、普段絶対口にすることなんてない様な小さな悲鳴が、口から飛び出してきた。心臓が一気に飛び跳ねると、ドクドクドクと早鐘を打つ。
いや、落ち着け。単純に花の手の跡かもしれないじゃないか。
ふうー、と息を吐くと、窓ガラスを少し斜めから見た。――跡は、明らかに外側についている。
「……いや、ちょっと待て待て!」
急ぎ窓の鍵を開けると、ガラッと開けて上半身を乗り出す。もわっとした熱い風が襲ってきた。庭を見る。誰もいない。左右を確認したが、そこにも誰もいない。
恐る恐る、窓のすぐ下の地面を見ると、土が剥き出しのままになってた。花の親父さんが、長期出張前に盛大に除草剤を撒いていったとかで、庭の奥にある紫蘇しか生えていない家庭菜園コーナー以外は、乾いた土が広がっている。親父さんの長靴の跡だろうと思われる足跡が、あちらこちらに残っていた。あとは、紫蘇を取りに行ったのであろう花の足跡も。
そこで、ハッと気付く。違う、何もないのはおかしい。こんなに両手をべったりと窓に付けたのなら、窓との高さからいって、すぐ下に足跡が残っていなければおかしい。
「あ、でも、もしかして結構前の手の跡だったり……?」
親父さんが出張に出る直前に、そこそこの雨が降ったことがある。そうか、そうだそうだ。おやじさんが除草剤を撒く時に転びそうになったりして、手を付いただけに違いない。
俺は自分の早とちりに、ここのところちょっと不気味なことが続いてるからつい勘ぐっちまった、とひとり苦笑いをし、窓にくっきりと残る手の跡が、明らかに親父さんの手よりも小さなものであることに気が付いた。
「……いや、いやいや、まさか」
手を当ててみたら、これが親父さんものだと分かるだろう。きっとそうに違いないと、顔に中途半端な笑みを浮かべている自覚を持ちながら、そっと跡に手を重ねる。親父さんはそこまで大きくない人だから、手も多分そんなに大きくはない筈だから、俺のより小さい可能性は高い。
手の跡は、俺の手よりも遥かに小さいものだった。
「花、大丈夫?」
汗だくになり荒い息をしながら俺に背中を向けている花に声をかけたが、反応がない。
「花……?」
上から花の顔を覗くと、目を半分開けて宙を見つめていた。やっぱりやり過ぎてしまったらしい。
花は痛がっていたのに止まらなくなってしまい、俺の背中に付けられた引っかき傷も、今になるまで気付かなかった。それ程に、夢中になってしまった。全て俺の所為だ。
レースのカーテンの外は明るい。壁掛けの時計を見ると、まだ三時前だった。何時間も濃い時間を過ごしたと思ったが、あれから二時間も経っていなかったとは。
コンビニで買い使用済となった例のブツを手に取り口を結ぶと、さてこれは一体どこに捨てればいいのだろうかと考えあぐねる。自分の家に持って帰る訳にもいかないし、かといって花に処理を頼むのも気が引ける。親父さんはまだまだ帰ってこないとはいえ、花は今うちで居候をしている。わざわざこれだけの為にゴミ捨てに来るのも億劫だろう。
ぐちゃぐちゃと考え、後でコンビニのゴミ箱に捨てることに決めた。箱が入っていたビニール袋を取り出すと、汚れたティッシュと共に押し込む。
「宗ちゃん……」
音に気付いたのだろう、背中を向けていた花がこちらを向くと、花の形のいい胸が視界に飛び込んできた。ところどころ皮膚が赤くなったりしているのは、まあ全部俺の所為だ。ごくりと唾を呑み込むと、今もまた溢れ出そうになる欲求を無理矢理抑え込んだ。
「シャワー借りていい?」
「あ、うん」
「すぐ戻るから」
勉強もしなければならないのは確かだ。さっとシャワーを浴びてくると、花は足を子鹿の様にガクガクさせながら、入れ替わりに風呂場へと向かっていった。……なんだか悪いことをした気分になってしまった。やはりやり過ぎてしまったらしい。手を貸した方がよかったのだろうか、と思わず悩んだ。
風呂場から戻ってくると分かったのは、花の部屋にはそこそこムワッとした匂いが充満しているということだ。エアコンを付けてはいるが、一度換気しておいた方が良さそうだった。
着てきた学校のネイビーのポロシャツとグレーのズボンを着る。ちょっと汗臭くて濡れているが、こればっかりは夏だから仕方ない。
これまた大分しっとりしているベッドの上に膝立ちになると、レースのカーテンをシャッと開けた。
花の家は、平屋だ。だが家には一応女の子がおりひとりの時間も長いからと、親父さんが随分前に背の高い柵を家の周りに設置した。狭いけれど家庭菜園が出来る庭もあるし、人が裏から入ろうと思ったら、玄関の横から家と柵の隙間をカニ歩きでないと入れない仕様になっているのだ。
だから、意図的に入ろうとしない限り、人が入ってくることはないし覗かれることもない。
なのに。
透明の窓ガラスには、べったりと両方の手のひらの跡が付いていた。
「……ひっ」
漫画で見るような、普段絶対口にすることなんてない様な小さな悲鳴が、口から飛び出してきた。心臓が一気に飛び跳ねると、ドクドクドクと早鐘を打つ。
いや、落ち着け。単純に花の手の跡かもしれないじゃないか。
ふうー、と息を吐くと、窓ガラスを少し斜めから見た。――跡は、明らかに外側についている。
「……いや、ちょっと待て待て!」
急ぎ窓の鍵を開けると、ガラッと開けて上半身を乗り出す。もわっとした熱い風が襲ってきた。庭を見る。誰もいない。左右を確認したが、そこにも誰もいない。
恐る恐る、窓のすぐ下の地面を見ると、土が剥き出しのままになってた。花の親父さんが、長期出張前に盛大に除草剤を撒いていったとかで、庭の奥にある紫蘇しか生えていない家庭菜園コーナー以外は、乾いた土が広がっている。親父さんの長靴の跡だろうと思われる足跡が、あちらこちらに残っていた。あとは、紫蘇を取りに行ったのであろう花の足跡も。
そこで、ハッと気付く。違う、何もないのはおかしい。こんなに両手をべったりと窓に付けたのなら、窓との高さからいって、すぐ下に足跡が残っていなければおかしい。
「あ、でも、もしかして結構前の手の跡だったり……?」
親父さんが出張に出る直前に、そこそこの雨が降ったことがある。そうか、そうだそうだ。おやじさんが除草剤を撒く時に転びそうになったりして、手を付いただけに違いない。
俺は自分の早とちりに、ここのところちょっと不気味なことが続いてるからつい勘ぐっちまった、とひとり苦笑いをし、窓にくっきりと残る手の跡が、明らかに親父さんの手よりも小さなものであることに気が付いた。
「……いや、いやいや、まさか」
手を当ててみたら、これが親父さんものだと分かるだろう。きっとそうに違いないと、顔に中途半端な笑みを浮かべている自覚を持ちながら、そっと跡に手を重ねる。親父さんはそこまで大きくない人だから、手も多分そんなに大きくはない筈だから、俺のより小さい可能性は高い。
手の跡は、俺の手よりも遥かに小さいものだった。
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