我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな

ミドリ

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第七章 次の首探し

45.八咫鏡

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 膝をついた蓮の顔色は、青を通り越して真っ白になっていた。亮太は咄嗟にコウの元へと駆け寄り、手の中にいるみずちを手渡した。

 近くに立つと、コウは亮太よりは背が低かった。170センチあるかないか位だろうか。

「ちょっと持っててくれ」
「……やはり寝てるのか」
「大分起きてはきたけどなあ」
「寒いからな」

 コウの喉は亮太にある程喉仏が出ていない。ハスキーボイスなのはその所為だろうか。だが今はそれよりも蓮だ。

 亮太は今度は蓮の元に駆け寄ると、首からぶら下げている八尺瓊勾玉やさかにのまがたまをぱっと取り、蓮の首にかけた。蓮の首を触ってみると、冷たい。亮太は蓮を抱えて立ち上がらせると、出来るだけ首から離れた結界の境界線ぎりぎりの所まで連れて行き、そこにまた座らせた。ミリタリーコートを脱いで背中からかけ、頭をポンと撫でた。

「そこにいろ」
「……申し訳ありません」
「仕方ねえよ、お前の所為じゃない」

 亮太はそう言うと上空を見上げた。勾玉を蓮に預けたが、さてまだ亮太の目には八岐大蛇ヤマタノオロチの姿は映るだろうか。亮太は探す。いた。ぼんやりとはしているが、黒い煙の様な物は見えた。奴がでかくなっているからか、瘴気が濃くなっているからか、はたまた結界の中だからか。だがあれ位見えるなら何とか戦えそうだった。

 亮太は今度はコウを振り返った。コウはガサゴソとアーミーパンツの後ろポケットから小さな板の様な物を取り出そうとしているが途中で引っかかっているらしく、引いたり押したりしている。片手にみずちを持っているから上手く引っかかりが取れないのだろう。

 亮太はコウの元に駆け足で近付いて、背後に回った。

「これを出したいんだな?」
「あ! おい!」
「別に取ったりしねえよ」

 後ろポケットを両手で広げ、中に入っている円形の板を取り出した。コウの体は思っていたよりも更に細く、隙間から覗く腰は白く艶めかしい。アキラといい蓮といいこいつといい、神様はやはり一般の人間よりは美しいものなのかもしれない。

 取り出す際にちょっとお尻を触ってしまった。ここで変に意識したら怪しい奴だと思われかねないので、亮太は気にしない素振りでやり過ごすことにした。こいつは男、こいつは男だ。

「ほれ」

 手のひら大の円形の板はずっしりとした黒い金属で出来ていた。草薙剣と同じ様な手触りだった。もしやと思ってコウに聞いてみた。

「これ、八咫鏡やたのかがみってやつか?」

 コウが板を受け取りながら、警戒する様に亮太を上目遣いで見上げてきた。

「……何故お前がそれを知っている」
「何故も何も、コウが教えてくれたんだよ」
「コウが? お前に?」

 疑う様な目つきだ。まあ会ったばかりの見知らぬおっさんを信じろというのも、亮太でもあるまいしこれが本来普通の反応なのかもしれない。そう考えると、自分の信じやすさが浮きだって見えた。確かに狗神に言われるだけのことはあると我ながら思う。

「それはいいからさ、ご主人様ならコウの起こし方を知らないか? 急がないとレンが」
「……今から起こす」

 コウは疑わしげな目のまま、それでも蓮の具合がよくないことは見て理解しているのだろう、鏡を片手に持ち口の中で何かを呟き始めた。すると、それまで黒かっただけの鏡の鏡面が水面の様に揺らぎ始める。徐々に、徐々に鏡面から光が粒子の様に煌めき出し、鏡を持つコウの顔を照らし始め、亮太はそのあまりの綺麗さについ口を半開きにして見惚れてしまった。


 これは、次の絵に是非描きたい色だ。


 コウはモデルにはなってくれないかもしれない。ならばせめて今この色を脳裏に焼き付けておきたかった。

 亮太の視線に気が付いたのだろう、コウが実に嫌そうに顔を歪ませた。そんな顔しなくったっていいだろうに。亮太は少し傷付いた。本当に亮太とこいつは気が合うんだろうか? 何だかそれはみずちの思い違いな様な気がしてきた。

 亮太は首に目を向けることにした。結界内部を光が段々とその割合を増やしていっている。これが上まで達した時、あいつは身の危険を感じて襲ってきたりはしないだろうか。それが不安だった。

 段々と暖かくなってきた気がする。すると、コウがみずちに優しく声をかけた。

「私のコウ、起きなさい」

 その声色はあまりにも亮太に向けるものと違って、亮太は少し、そうほんの少しだけ、みずちを羨ましく思った。

「ん……コウ様?」
「そうだよ、私のコウ」

 みずちがようやく目を覚ましてきたらしかった。やはり先程までの環境はみずちには寒かったに違いない。

「わーい、コウ様! 僕会いたかったの!」

 小さくなっていたみずちが頭を上げて目の前のコウを見上げた。本当に嬉しいのだろう、声が弾んでいた。

「あれ? コウ様、亮太は? 亮太亮太ー!」
「……随分と懐いたものだな」

 コウが少しムッとした様につっ立って二人の様子を眺めていた亮太をちらりと見ると、コウのその視線に気付いたみずちが亮太をくるりと振り返った。

「あ! 亮太いたー!」
「ようやく起きたな、コウ」

 もうすっかり目は覚めたのだろう、みずちの声はいつも通りの明るいものだった。亮太はほっとした。これでとりあえず閉じ込められてジ・エンドだけは避けられる。後は亮太が何とかすればいいだけだ。その何とかが問題ではあるが。

「コウ、起きて早速なんだが、また力を貸して欲しい」
「この間のより大きいねー」

 みずちが上空を見上げて首を確認する。亮太は頷くと蓮の方に目線を向けた。

「レンが瘴気にやられちまったんだ、なるべく急いでここから出してやりたい」
「亮太、やっぱり優しいのー」
「そういう問題じゃないだろ」
「うふふ、僕、亮太大好きー」

 みずちが嬉しそうに笑い、そしてスルリと宙に浮き出た。一瞬コウの眉がぴくりとやや嫌そうに動いた気がしたが、まあそれは後回しにしよう、うん。

 三度目ともなると驚きはさすがになくなるが、それでも見る度に新鮮で亮太はその鮮やかな水色の色彩にうっとりと見惚れる。しかも今日は八咫鏡やたのかがみから出てくる温かみのある光も取り込んで、これを神々しいと言わず何と言えばいいのだろうか。


 これを見れるなら、残り六匹の首だって退治してみようかなと思ってしまう、それ程までに亮太はこの輝きに惹かれてやまないのだ。


 くるくると回転しながら蛟龍へと変貌していくみずち。その口から、どこでどう繋がっているのかここにいま存在する八咫鏡やたのかがみの光を反射した草薙剣くさなぎのつるぎがゆっくりと上昇してきた。亮太はゆっくりと歩み寄ると、草薙剣の柄を握り締めた。

「コウ、また助けてくれるか?」

 亮太が横にいる水色の翼を優雅に羽ばたかせるみずちに尋ねた。

「頑張るー」
「頼りにしてるぞ」
「わーい」

 亮太とみずちがそう会話していると、コウが眉間に皺を寄せて尋ねてきた。

「また助けるって、どういうことだ?」

 そうか、水撃はみずちは前回、何か出せちゃったとか言っていた。つまりコウは知らないのだ。亮太は言った。

「見ててみな。あんたのコウは凄いぞ」
「……コウが?」

 亮太は一歩前に出、剣を身体の前で構えて上空に黒煙の様に漂う首に向かって声を張り上げた。首が襲ってきた時に間違って後ろに被害が及ばない様、移動していく。

「おい! 待たせたな!」

 多分待ってなどいないだろうが、相手の注意を自分に向かせる為にそう言ってみた。やはり勾玉がないとはっきりとは見えないのだろう、多分目かな? と思われる部分がこちらを見た気がした。前回首と対峙した経験があるのである程度パーツの予想がつく。これは亮太にとっては大きかった。

 そして今のままだと届かない。さてどうするか。

 襲ってくる様に挑発するしかないのだ。となれば、言うことは一つ。

「かかってこい!」

 その言葉に、首が明らかに意思を持って亮太に向かって降りてきた。
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