我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな

ミドリ

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第七章 次の首探し

46.力を合わせれば何とかなるもんだ

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 先程までのゆったりとした動きとは打って変わり、巨大な龍の首が亮太に向かって急下降してきた。だが光が苦手なのか、光がたゆたう結界の下部まで降りてくることなく中程で止まってしまった。

 ということは、逆に上の方に光を集めれば奴は下に降りてくるということだ。

「えーと……!」

 亮太は鏡を持っているコウを振り返った。何と呼べばいいのか。ご主人様? いやいや。ええい、まあいい。

「コウ!」
「何だ」
「なにー?」

 二人共返事をした。ああ、やっぱりそうなった。

「えーと、人間の方のコウ!」
「だから、何だ」

 温かみなど一切感じられない声色でコウが返事をしてきた。冷たいにも程があるんじゃないか。まあでも今はそれよりも首の対処の方が急務だ。

「鏡の光を上の方に当ててもらえるか? あいつが降りて来ないと届かないんだよ!」
「……分かった」

 不満気ながらも逆らうメリットはコウにはないのは分かっているのだろう、コウが鏡面を結界の上の方に向けると、光が結界の上部に溢れ出した。すると予想通り首が降りてきた。

「コウ!」
「だから何だ!」
「なにー?」

 段々面倒になってきた。亮太はそのまま続けることにした。

「その光でサポートしてくれ! レンの方に行かせないように、上にも行かせないように! 頼めるか?」
「偉そうに……」

 舌打ちしそうな口調で言われたが、アキラと違って舌打ちはしなかった。やはり神様というものは人間として生まれても偉そうになってしまうらしい。

「出来るのか出来ないのか!?」
「出来る!」

 コウはかなり気が強い性格なのだろう、売り言葉に買い言葉ですぐに亮太の挑発に乗ってきた。よしよし。

 結界の中程に浮いていた首が、上から降り注いでくる光に段々と押されて下に降りてきた。これなら届きそうだ。

 亮太は剣を構えると、黒煙に向き合った。前のよりも口が大きい。はっきり見えない分牙も見分けがつかないだろうから、なるべく背後に回って斬りつけた方が良さそうだった。知らない間に口の中に飛び込んでました、なんてことになったら笑えない。

 亮太は迫ってくる首に向かって一気に走った。まだ届きそうにないと判断し、腰を下げて首の下を潜ると後頭部側に出て振り返りざま剣を振り払った。

 ガン! と刀が固い鱗にでも当たったかの様に弾き飛ばされた。前のよりも随分と固い。予想外だった為、柄を握る手がジン、と痺れた。ぶんぶん振り回すだけでなく、きちんと刃を向けて切らないと今度のは切れなさそうだ。そう思い、今度はきちっと刃を立てた。次こそ。

 首が亮太の方を向こうと回転を始めた。正面に向き合わない様亮太は走る。勾玉がない分多少足は重いが、今勾玉が必要なのは亮太ではなく蓮だ。

 きちっと踏み込んで右上から左下に向かって刃を立て叩きつけた。肉が切れるような感触があった。

「よし!」

 今度はちゃんと切れている。切れ端の黒煙がモワッと塵となって消えた。

 思い切りよく振り払った剣を構え直そうとした時、それまで横を向いていた首が口らしき部分をグワッと開けて亮太に襲いかかってきた。拙い、体勢がよくない!

 ヒヤリとしたその時。

「亮太ー!!」

 みずちの声と共に、水撃が首の口の中に突き刺さった。間一髪、首の攻撃が逸れた。

「コウ! 助かった!」

 亮太は急ぎ体勢を立て直した。さてと、この先どうしたものか。この前の様に頭に登ってみるか? だが今度のは固くて剣が刺さるだろうか。だがやるならみずちの攻撃で足止めされている今がチャンスだ。

 軽めの覚悟を決めて首の背後に回ると、亮太の目にはモヤとしか映らない首の後ろに勢いで剣先を突き刺してみた。ザク! という感覚と共に剣が刺さった。いける!

 亮太はそのまま剣を杖代わりに首の上に飛び乗り、剣を抜くとその勢いのまま脳天に突き刺した。が、剣は先の方しか入っていかない。亮太は柄の上から全体重をかけて押し込み始めた。

 水撃から飛び散る水滴が亮太の頬を濡らす。

 少しずつ少しずつ、剣が頭の中へと押し込まれていく。
 グオオオオ! と首が咆哮を上げ、頭を振り始めた。みずちの水撃が止んだ。

「うわ!」

 濡れた足元の所為か、亮太の足がズルっと滑った。亮太ごと振り払おうとしているのだろう、首がぐるぐると回転して亮太は一箇所に留まることが出来ない。必死で柄を掴んで回転に耐えるが、まるで遊園地のコーヒーカップに強制的に乗せられている様だった。目が回りぐらんぐらんして恐ろしく気持ち悪いが、絶対にこの手は離せない。

 喉に少しこみ上げてくるものを抑えつつ、亮太は声を上げた。

「コウ! 光を当ててくれ!」
「分かってる!」

 怒り気味でコウが返答し、光を首と亮太に向けて当て始めた。すると首は怯み回転を止めた。亮太はこの隙に足元をしっかりと固めると、一旦剣を抜くことにした。こいつはもう少し弱らせてからでないとやっつけられそうにない。力を込めてズボッと一気に抜いた。

 どうしよう、一度降りるか? 亮太が迷ったその瞬間、首が亮太を振り落とした!

「うわっ!」

 幸い高さはそこまでない、亮太は手をついて着地した。下が土なのも助かった。危ねえ危ねえ。

 と、首は光を当て続けているコウに狙いをつけたらしい。首が亮太に背を向けてコウに向き直り、口をがぱりと開けるのが見えた。おいおいおいおい!

「コウ! 逃げろ!」
「……!!」

 コウの足は動かなかった。ああ、もう何やってんだ! 目を見開いてただ見てたって喰われちまうだけなのに!

 亮太は地面を思い切り蹴って一気にコウの元まで走ると、左手でコウを背中に庇い、左足にぐ、と力を込めて右手だけで剣を構え剣先を口の中に向けた。コウを掴んでいた左手を離すと、右足を思い切り踏み込んで首の大きく開け放たれた顎門あぎとに両手で握り直した剣を思い切り突き刺した!

 これでばくりとやられたら亮太はおしまいだ。だけど、会ったばかりの奴でも襲われてるのをただ指を咥えて見てるなんてどうせ亮太には出来やしないのだ。

 喉の奥に突き刺さる感触が手に伝わってきた。奥歯を割れそうな程に噛み締める。

「……入れええええええ!!」

 すると、亮太の手を上から握る者がいた。食いしばりながらチラリと横を見ると、栗色のサラサラの髪が揺れた。

「……レン!」
「お待たせ致しました!」

 亮太の目に思わず涙が滲んだ。喉にもじんとくる。ああもう、どうしてこうも涙腺が弱いんだ、全く。

「押すぞ!」
「はい!」

 いける。大丈夫だ。八岐大蛇の口の中からは瘴気なのか風が亮太たちに向かって吹いてくるが、これはもう残り滓だ。

「うっがああああ!!」

 汗が吹き出る。勾玉を持つ蓮と手が重なっているからだろう、目の前の首の姿が急にはっきりと見えだした。亮太は今、大きく開いたギザギザの口の中に身体を半ば突っ込んでいた。さっきまで見えていなくてよかった。見えていたらさすがに突き刺せなかったかもしれない。

 今度は剣がズブズブと黒い境界線に沈んでいくのがしっかりと確認出来た。

「一気に上に斬る!」
「はい!」

 亮太と蓮は、上顎を切り裂く様に剣先をそのまま上へと一気に引き上げる。その瞬間、グオアアアア! と首が巨大なタイヤの空気が抜けるかの様な音を立てて萎み始めた。

「最後だ! せーの!」
「はい!」

 脳天に向けて、口の中から最後まで突き刺した。今度は、軽かった。モヤがみるみる内に薄れていく。段々と草薙剣の刀身が見え始めた。

 ――終わった。

 亮太は蓮を見上げた。すぐ近くにある端正な顔はまだ少し顔色が悪いが、それでも赤みが戻っていた。

「結界を解きますね」

 蓮が手を離した。亮太の手は今度は震えていなかった。

「俺はこれをコウに戻さないとな。コウ?」
「亮太ー格好よかったー!」

 ふわふわとみずちが漂ってきた。

「お、コウに褒められた」

 亮太は笑いながらみずちの開いた口の中に草薙剣をそっと差し込み、手を離した。白い光り輝く波の様な世界が閉じてゆく。

 亮太は尻もちをついて亮太を見上げているコウを見た。何でそんな驚いた様な顔をして見ているんだろうか。瞳が黄銅色だからか、吸い込まれてしまいそうだ。

 亮太はコウに手を差し出した。

「ほれ」

 コウが、ゆっくりと亮太の手を握り返した。なんて細い手だ。

「りょ、亮太」
「ん?」

 こいつもやっぱり呼び捨てだ。まあお互い様か。

「……ありがとう」

 先程まで亮太を親の仇かの様に見ていたコウは、もうそこにはいなかった。
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