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君じゃない!
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「本来の旦那様は、私共、使用人にも気配りが出来て、領地の民を思い遣る、優しいお心をお持ちです。
ですが、まだ戦争の傷痕が深いようで、なかなか他者には心を開けず、未だに独り身ではありますが……」
「そうですか。あの、リーザ宛に届いていた手紙ですが……」
「はい。旦那様が是非、リーザ様を迎えたいとお送りになった手紙ですね」
「そのお話ですが……。わたし、リーザの代わりにここに来ました。リーザとそっくりなわたしから、代わりに侯爵様に伝えて欲しいと言われて……」
大きく息を吸うと、ホセを見上げる。
「リーザはなれないそうです。お断りします、との事でした。それで……代わりにわたしが来ました。侯爵様の婚約者として」
そうして、わたしは目を伏せると、琥珀色の液体をじっと見つめたのだった。
数ヶ月前、センティフォリアの屋敷の中を金切り声が響き渡った。
自室で刺繍をしていたわたしの元には、顔形だけでなく、目鼻の形までそっくりな双子の姉が押し掛けてきたのだった。
「リーザ、どうしたの?」
「なんで、私のところに婚約の申し出があるのよ!? それもよりにもよって、あの『変人侯爵』から!」
「『変人侯爵』って、あのオステオン侯爵のこと?」
「いいから! ルイーザも来なさい!」
話がよくわからないまま、わたしはリーザに引っ張られると、父の書斎へと連れて来られる。
そこには、困惑した顔の父と、泣き崩れる母の姿があったのだった。
「お父様、お母様。何があったのですか?」
「ルイーザ、これを読みなさい」
父から渡された手紙の封筒には、オステオン侯爵家の刻印が刻まれた封蝋がされており、中にはセンティフォリア家のリーザ・センティフォリアを、ヴィオン・オステオン侯爵の婚約者として迎え入れたい、と書かれていたのだった。
「そんな……。嫌よ。大切な娘をあの『変人侯爵』の元に嫁がせるなんて……」
「言っただろう。噂はどうあれ、オステオン侯爵家は古くからこの国に仕える一族だ。領地もあれば、資産も、うちより蓄財している。リーザも幸せになれるだろう」
「けれども、オステオン侯爵は骨集めが趣味という噂ですわ。
もし、侯爵の目的がリーザじゃなくて、リーザの骨だったらどうします?
リーザの骨が欲しくて、婚約を理由に、嫁いできたリーザを殺すなんて事も……」
「良さないか!」と、父の怒声が書斎の窓を揺らした。
「それでも、婚約の話を容易に拒むことは出来ない。近年、侯爵位を賜わったばかりの我が家には、歴史あるオステオン侯爵家の話を無下に断る事は出来ないんだ……」
今でこそ、ルイーザの生家であるセンティフォリア家は侯爵家に名を連ねているが、七年前までは伯爵家であった。
七年前の戦争で、騎士だった父が功績を上げたことがきっかけで、侯爵位を賜わった。
その戦争の際に、落馬したことが原因で片足を骨折し、杖なしで生活出来なくなってからは、前線からは身を引いたが、今でも騎士団でまとめ役を務めていた。
「そうよ、お父様。お母様の言う通りです。
どうして私なんですか。それも、ルイーザじゃなくて」
「ルイーザじゃなくて」というリーザの言葉に胸が痛む。
リーザがそう言いたくなる気持ちもわかる。
頭や器量が良くて、誰からも好かれてる華やかなリーザには、骨集めが趣味というオステオン侯爵よりも似合う人がきっといる。
頭も器量もさほど良くない、常にリーザと比較されてきた根暗なわたしよりもーー。
「以前、侯爵様はとあるパーティーに参加した際に、友人と談笑するリーザを一目見て気に入ったそうだ。人伝てにリーザについて話を聞いて、それでうちに手紙を送ってきたと」
友人が少ないわたしと違って、友人が多いリーザはよく貴族が主催するパーティーに参加していた。
パーティーに参加する男性たちから、是非エスコートしたいと言う申し出も珍しくなかった。
ですが、まだ戦争の傷痕が深いようで、なかなか他者には心を開けず、未だに独り身ではありますが……」
「そうですか。あの、リーザ宛に届いていた手紙ですが……」
「はい。旦那様が是非、リーザ様を迎えたいとお送りになった手紙ですね」
「そのお話ですが……。わたし、リーザの代わりにここに来ました。リーザとそっくりなわたしから、代わりに侯爵様に伝えて欲しいと言われて……」
大きく息を吸うと、ホセを見上げる。
「リーザはなれないそうです。お断りします、との事でした。それで……代わりにわたしが来ました。侯爵様の婚約者として」
そうして、わたしは目を伏せると、琥珀色の液体をじっと見つめたのだった。
数ヶ月前、センティフォリアの屋敷の中を金切り声が響き渡った。
自室で刺繍をしていたわたしの元には、顔形だけでなく、目鼻の形までそっくりな双子の姉が押し掛けてきたのだった。
「リーザ、どうしたの?」
「なんで、私のところに婚約の申し出があるのよ!? それもよりにもよって、あの『変人侯爵』から!」
「『変人侯爵』って、あのオステオン侯爵のこと?」
「いいから! ルイーザも来なさい!」
話がよくわからないまま、わたしはリーザに引っ張られると、父の書斎へと連れて来られる。
そこには、困惑した顔の父と、泣き崩れる母の姿があったのだった。
「お父様、お母様。何があったのですか?」
「ルイーザ、これを読みなさい」
父から渡された手紙の封筒には、オステオン侯爵家の刻印が刻まれた封蝋がされており、中にはセンティフォリア家のリーザ・センティフォリアを、ヴィオン・オステオン侯爵の婚約者として迎え入れたい、と書かれていたのだった。
「そんな……。嫌よ。大切な娘をあの『変人侯爵』の元に嫁がせるなんて……」
「言っただろう。噂はどうあれ、オステオン侯爵家は古くからこの国に仕える一族だ。領地もあれば、資産も、うちより蓄財している。リーザも幸せになれるだろう」
「けれども、オステオン侯爵は骨集めが趣味という噂ですわ。
もし、侯爵の目的がリーザじゃなくて、リーザの骨だったらどうします?
リーザの骨が欲しくて、婚約を理由に、嫁いできたリーザを殺すなんて事も……」
「良さないか!」と、父の怒声が書斎の窓を揺らした。
「それでも、婚約の話を容易に拒むことは出来ない。近年、侯爵位を賜わったばかりの我が家には、歴史あるオステオン侯爵家の話を無下に断る事は出来ないんだ……」
今でこそ、ルイーザの生家であるセンティフォリア家は侯爵家に名を連ねているが、七年前までは伯爵家であった。
七年前の戦争で、騎士だった父が功績を上げたことがきっかけで、侯爵位を賜わった。
その戦争の際に、落馬したことが原因で片足を骨折し、杖なしで生活出来なくなってからは、前線からは身を引いたが、今でも騎士団でまとめ役を務めていた。
「そうよ、お父様。お母様の言う通りです。
どうして私なんですか。それも、ルイーザじゃなくて」
「ルイーザじゃなくて」というリーザの言葉に胸が痛む。
リーザがそう言いたくなる気持ちもわかる。
頭や器量が良くて、誰からも好かれてる華やかなリーザには、骨集めが趣味というオステオン侯爵よりも似合う人がきっといる。
頭も器量もさほど良くない、常にリーザと比較されてきた根暗なわたしよりもーー。
「以前、侯爵様はとあるパーティーに参加した際に、友人と談笑するリーザを一目見て気に入ったそうだ。人伝てにリーザについて話を聞いて、それでうちに手紙を送ってきたと」
友人が少ないわたしと違って、友人が多いリーザはよく貴族が主催するパーティーに参加していた。
パーティーに参加する男性たちから、是非エスコートしたいと言う申し出も珍しくなかった。
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