【短編】侯爵様はわたしの骨だけを見ている

四片霞彩

文字の大きさ
3 / 9
君じゃない!

3

しおりを挟む
「本来の旦那様は、私共、使用人にも気配りが出来て、領地の民を思い遣る、優しいお心をお持ちです。
 ですが、まだ戦争の傷痕が深いようで、なかなか他者には心を開けず、未だに独り身ではありますが……」
「そうですか。あの、リーザ宛に届いていた手紙ですが……」
「はい。旦那様が是非、リーザ様を迎えたいとお送りになった手紙ですね」
「そのお話ですが……。わたし、リーザの代わりにここに来ました。リーザとそっくりなわたしから、代わりに侯爵様に伝えて欲しいと言われて……」

 大きく息を吸うと、ホセを見上げる。

「リーザはなれないそうです。お断りします、との事でした。それで……代わりにわたしが来ました。侯爵様の婚約者として」

 そうして、わたしは目を伏せると、琥珀色の液体をじっと見つめたのだった。

 数ヶ月前、センティフォリアの屋敷の中を金切り声が響き渡った。
 自室で刺繍をしていたわたしの元には、顔形だけでなく、目鼻の形までそっくりな双子の姉が押し掛けてきたのだった。

「リーザ、どうしたの?」
「なんで、私のところに婚約の申し出があるのよ!? それもよりにもよって、あの『変人侯爵』から!」
「『変人侯爵』って、あのオステオン侯爵のこと?」
「いいから! ルイーザも来なさい!」

 話がよくわからないまま、わたしはリーザに引っ張られると、父の書斎へと連れて来られる。
 そこには、困惑した顔の父と、泣き崩れる母の姿があったのだった。

「お父様、お母様。何があったのですか?」
「ルイーザ、これを読みなさい」

 父から渡された手紙の封筒には、オステオン侯爵家の刻印が刻まれた封蝋がされており、中にはセンティフォリア家のリーザ・センティフォリアを、ヴィオン・オステオン侯爵の婚約者として迎え入れたい、と書かれていたのだった。

「そんな……。嫌よ。大切な娘をあの『変人侯爵』の元に嫁がせるなんて……」
「言っただろう。噂はどうあれ、オステオン侯爵家は古くからこの国に仕える一族だ。領地もあれば、資産も、うちより蓄財している。リーザも幸せになれるだろう」
「けれども、オステオン侯爵は骨集めが趣味という噂ですわ。
 もし、侯爵の目的がリーザじゃなくて、リーザの骨だったらどうします?
 リーザの骨が欲しくて、婚約を理由に、嫁いできたリーザを殺すなんて事も……」

「良さないか!」と、父の怒声が書斎の窓を揺らした。

「それでも、婚約の話を容易に拒むことは出来ない。近年、侯爵位を賜わったばかりの我が家には、歴史あるオステオン侯爵家の話を無下に断る事は出来ないんだ……」

 今でこそ、ルイーザの生家であるセンティフォリア家は侯爵家に名を連ねているが、七年前までは伯爵家であった。
 七年前の戦争で、騎士だった父が功績を上げたことがきっかけで、侯爵位を賜わった。
 その戦争の際に、落馬したことが原因で片足を骨折し、杖なしで生活出来なくなってからは、前線からは身を引いたが、今でも騎士団でまとめ役を務めていた。

「そうよ、お父様。お母様の言う通りです。
 どうして私なんですか。それも、ルイーザじゃなくて」

「ルイーザじゃなくて」というリーザの言葉に胸が痛む。
 リーザがそう言いたくなる気持ちもわかる。
 頭や器量が良くて、誰からも好かれてる華やかなリーザには、骨集めが趣味というオステオン侯爵よりも似合う人がきっといる。
 頭も器量もさほど良くない、常にリーザと比較されてきた根暗なわたしよりもーー。

「以前、侯爵様はとあるパーティーに参加した際に、友人と談笑するリーザを一目見て気に入ったそうだ。人伝てにリーザについて話を聞いて、それでうちに手紙を送ってきたと」

 友人が少ないわたしと違って、友人が多いリーザはよく貴族が主催するパーティーに参加していた。
 パーティーに参加する男性たちから、是非エスコートしたいと言う申し出も珍しくなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。

大森 樹
恋愛
【短編】 公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。 「アメリア様、ご無事ですか!」 真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。 助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。 穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで…… あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。 ★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

“妖精なんていない”と笑った王子を捨てた令嬢、幼馴染と婚約する件

大井町 鶴
恋愛
伯爵令嬢アデリナを誕生日嫌いにしたのは、当時恋していたレアンドロ王子。 彼がくれた“妖精のプレゼント”は、少女の心に深い傷を残した。 (ひどいわ……!) それ以来、誕生日は、苦い記憶がよみがえる日となった。 幼馴染のマテオは、そんな彼女を放っておけず、毎年ささやかな贈り物を届け続けている。 心の中ではずっと、アデリナが誕生日を笑って迎えられる日を願って。 そして今、アデリナが見つけたのは──幼い頃に書いた日記。 そこには、祖母から聞いた“妖精の森”の話と、秘密の地図が残されていた。 かつての記憶と、埋もれていた小さな願い。 2人は、妖精の秘密を確かめるため、もう一度“あの場所”へ向かう。 切なさと幸せ、そして、王子へのささやかな反撃も絡めた、癒しのハッピーエンド・ストーリー。

処理中です...