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契約結婚を望む理由は
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若佐先生と出会った次の日。目を覚ますと、私は若佐先生の部屋で一夜を過ごしていた。
寝る前の記憶は何となくある。確か、若佐先生が飲み物を用意しようとしたところで、ホテルスタッフが部屋を訪ねて来た。私達の騒ぎを聞きつけたのか、それとも同じフロアの宿泊客が連絡したのだろう。最初こそ若佐先生がホテルスタッフと話し終わるのを待っていたが、いつの間にか寝てしまったらしい。
泣き疲れたというのもあるが、今まで誰にも話せなかった自分の気持ちを話せたからというのもあるだろう。
若佐先生と出会う前に比べて、私の心は軽くなっており、ここ最近は熟睡出来ず、薬に頼って寝ていたのが嘘の様に、心身共に楽になっていたのだった。
勿論、若佐先生は昨晩の宣言通り、寝ていた私に何も手を出していなかった。それどころか、私をベッドに寝かせてくれて、若佐先生自身は自分の服を枕と布団代わりにして床で眠っていたのだった。
それに気が付いたのも、私が起きた時、若佐先生がまだ寝ていたからであった。
「若佐先生……」
小声で呼びかけてみるが、若佐先生は熟睡しているのか起きる気配は全くなさそうだった。
部屋のベッドはダブルベッドよりは小さいが、二人は寝られそうな広さがあるので、若佐先生も一緒に寝られただろう。
それにも関わらず、床で寝たのは若佐先生なりの気遣いなのかもしれない。
私はベッドに戻ると、自分のトートバッグからスマートフォンを取り出す。昨晩から全く触れていなかったが、やはりと言うか、両親から安否を気遣うメッセージが、夜間と早朝に何十通も送られていた。
「しまった……」
外出する際、両親には「少し出掛けてくる」と言っただけだった。外泊すると言っていないので、きっと不安になっていたに違いない。一人娘なので心配になるのは分かるが、成人してもなお過保護なところがあるので、ややうんざりしていた。
私は慌てて両親に無事を知らせるメッセージを送ると、次いで職場に体調不良で休むという連絡をする。急な欠勤なので、きっと明日出勤した時に上司は「社会人としての自覚が……」などと小言を言ってくるだろう。
酷い時はそれが数日間続くので、その間じっと堪えなければならず、それを考えると精神的にも苦痛だったが、ただ今回はなんとなく平気な気がした。
今から一度自宅に戻り、それから職場に向かっても始業開始には間に合うかもしれないが、今は仕事よりも、若佐先生から結婚したい事情を聞きたかった。それが分からなければ、遅刻して仕事に行っても、気になって仕事に集中出来そうになかった。
「んっ……もう起きたんですか?」
私がトートバッグを元の場所に置いた時に、音を立ててしまったからだろうか。
床で寝ていた若佐先生が身体を起こしたのだった。
「お、おはようございます……」
「おはようございます」
「すみません、ベッドを使ってしまって」
「いえ、元気になって良かったです」
それから、若佐先生に断りを入れて、交互にシャワーを浴びると、ホテルのレストランで朝食を食べながら、事情を聞く事になった。
ホテルの二階にあるレストランは宿泊客以外も利用できるようで、私達が行った時には既にレストランは人で賑わっていた。
「ここのレストラン、ビュッフェ形式なんですね」
「そうらしいですね」
「利用した事ないんですか?」
「いつも食事は部屋で済ませていたので」
どうやら、若佐先生は食が細いらしく、朝は近くのコンビニで買ってきて、部屋に持ち込んだ栄養ゼリーと飲料水で食事を済ませていたらしい。昼と夜は弁護士仲間との外食が中心で、ホテルのレストランを利用したのは今回が初めてとの事だった。
食が細いという証拠に、色んな料理を乗せてテーブルに向かった私の皿と比べて、若佐先生の皿にはサラダが少しとバターロールパンが一個しか乗っていなかった。
先にテーブルに着いていた若佐先生は「コーヒーは飲めますか?」と聞いてくると、コーヒーが入ったカップを渡してきたのだった。
「ありがとうございます。いただきます」
「食べながらでいいので聞いて下さい。私も食べながら話すので」
そう言って、若佐先生は自分のコーヒーに口をつけると、契約結婚を申し出た事情を話し出したのだった。
寝る前の記憶は何となくある。確か、若佐先生が飲み物を用意しようとしたところで、ホテルスタッフが部屋を訪ねて来た。私達の騒ぎを聞きつけたのか、それとも同じフロアの宿泊客が連絡したのだろう。最初こそ若佐先生がホテルスタッフと話し終わるのを待っていたが、いつの間にか寝てしまったらしい。
泣き疲れたというのもあるが、今まで誰にも話せなかった自分の気持ちを話せたからというのもあるだろう。
若佐先生と出会う前に比べて、私の心は軽くなっており、ここ最近は熟睡出来ず、薬に頼って寝ていたのが嘘の様に、心身共に楽になっていたのだった。
勿論、若佐先生は昨晩の宣言通り、寝ていた私に何も手を出していなかった。それどころか、私をベッドに寝かせてくれて、若佐先生自身は自分の服を枕と布団代わりにして床で眠っていたのだった。
それに気が付いたのも、私が起きた時、若佐先生がまだ寝ていたからであった。
「若佐先生……」
小声で呼びかけてみるが、若佐先生は熟睡しているのか起きる気配は全くなさそうだった。
部屋のベッドはダブルベッドよりは小さいが、二人は寝られそうな広さがあるので、若佐先生も一緒に寝られただろう。
それにも関わらず、床で寝たのは若佐先生なりの気遣いなのかもしれない。
私はベッドに戻ると、自分のトートバッグからスマートフォンを取り出す。昨晩から全く触れていなかったが、やはりと言うか、両親から安否を気遣うメッセージが、夜間と早朝に何十通も送られていた。
「しまった……」
外出する際、両親には「少し出掛けてくる」と言っただけだった。外泊すると言っていないので、きっと不安になっていたに違いない。一人娘なので心配になるのは分かるが、成人してもなお過保護なところがあるので、ややうんざりしていた。
私は慌てて両親に無事を知らせるメッセージを送ると、次いで職場に体調不良で休むという連絡をする。急な欠勤なので、きっと明日出勤した時に上司は「社会人としての自覚が……」などと小言を言ってくるだろう。
酷い時はそれが数日間続くので、その間じっと堪えなければならず、それを考えると精神的にも苦痛だったが、ただ今回はなんとなく平気な気がした。
今から一度自宅に戻り、それから職場に向かっても始業開始には間に合うかもしれないが、今は仕事よりも、若佐先生から結婚したい事情を聞きたかった。それが分からなければ、遅刻して仕事に行っても、気になって仕事に集中出来そうになかった。
「んっ……もう起きたんですか?」
私がトートバッグを元の場所に置いた時に、音を立ててしまったからだろうか。
床で寝ていた若佐先生が身体を起こしたのだった。
「お、おはようございます……」
「おはようございます」
「すみません、ベッドを使ってしまって」
「いえ、元気になって良かったです」
それから、若佐先生に断りを入れて、交互にシャワーを浴びると、ホテルのレストランで朝食を食べながら、事情を聞く事になった。
ホテルの二階にあるレストランは宿泊客以外も利用できるようで、私達が行った時には既にレストランは人で賑わっていた。
「ここのレストラン、ビュッフェ形式なんですね」
「そうらしいですね」
「利用した事ないんですか?」
「いつも食事は部屋で済ませていたので」
どうやら、若佐先生は食が細いらしく、朝は近くのコンビニで買ってきて、部屋に持ち込んだ栄養ゼリーと飲料水で食事を済ませていたらしい。昼と夜は弁護士仲間との外食が中心で、ホテルのレストランを利用したのは今回が初めてとの事だった。
食が細いという証拠に、色んな料理を乗せてテーブルに向かった私の皿と比べて、若佐先生の皿にはサラダが少しとバターロールパンが一個しか乗っていなかった。
先にテーブルに着いていた若佐先生は「コーヒーは飲めますか?」と聞いてくると、コーヒーが入ったカップを渡してきたのだった。
「ありがとうございます。いただきます」
「食べながらでいいので聞いて下さい。私も食べながら話すので」
そう言って、若佐先生は自分のコーヒーに口をつけると、契約結婚を申し出た事情を話し出したのだった。
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