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初デートinニューヨーク
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昼食を終えるとシープ・メドウを出て、腹ごなしにベセスダの噴水に向かって散歩する事になった。石造りの噴水であるベセスダの噴水は、日本から持って来た観光本にも写真付きで紹介されていたので、私も知っていた。
平日の昼間でもセントラルパークの中は人が多く、噴水の近くで寛ぐ人達やカメラで写真を撮る観光客らしき団体以外にも、ボールやフリスビーで遊ぶ子供達や犬を散歩する人達がいたのだった。
「楽器を演奏する人もいるんですね」
「近くに野外音楽堂があるからな」
どこからかギターとピアノの陽気な音楽も聞こえてきたので辺りを見回していると、楓さんが向こうを示す。
等間隔に植えられた木々でよく見えなかったが、道路を挟んだ反対側に広場があり、そこに野外音楽堂があるらしい。楓さんの話によると、野外音楽堂はドームを半分に切ったような形をしており、歴史と趣がある石造りの野外ステージとの事だった。
「週末にはよく音楽フェスを開催しているな。その時はこの辺りも混むんだ」
「ここにはよく来るんですか?」
「たまにな。天気が良い休みの日に公園内を散歩している。事務仕事ばかりだと身体が鈍るからな」
そんな事を話しながら歩いていると、噴水のある広場の片隅にホットドッグやポップコーンなどを売る移動ワゴンを見つける。
ワゴンの近くには小さい子供連れの親子が数組いたが、その中の子供の一人が紅葉の様な小さな手でアイスキャンディーを持っていたのだった。
「アイスキャンディー、美味しそうですね」
「せっかくだから買ってみるか? 日本には無い味もあるだろう」
楓さんに連れられてワゴンに近づいて行くと、冷凍ケースの側面にアイスキャンディーの種類が書かれたポスターが貼られていた。ストロベリーやオレンジなど、全てイラスト付きで書かれていたので、これならスマートフォンで翻訳したり、楓さんに聞いたりしなくても分かりそうだった。
「どれがいいか迷いますね……」
迷った末に、日本ではあまり見かけないピンクライム味を購入する。
支払いをしてくれた楓さんに礼を言って受け取った時、アイスキャンディーが一本しか無い事に気づく。
「楓さんの分は……?」
「食べたばかりだから、まだあまり腹が減っていないんだ」
服といい、昼食といい、今日は楓さんにお金を使わせてばかりいるので、どこか申し訳ない気持ちになる。
「私の分だけなら、自分で買うべきでしたね。気づかなくてすみません……」
「遠慮しなくていい。デートなんだから、俺が支払うのは当然だろう」
そっと薄桃色のアイスキャンディーを受け取ると、袋を開けて口に含む。
ライム特有の酸味と微かな甘味が口の中に広がったのだった。
「んっ! 冷たくて甘酸っぱいです!」
日本では滅多に食べられないピンクライム味のアイスキャンディーに目を輝かせていると、楓さんが小さく笑ったのだった。
「小春は美味しいものを食べると、すぐ顔に出るな」
「そうなんですか? 気がつかなかったです……」
美味しいものを食べる度に子供のようにはしゃいでいたとは知らなくて、自然と顔が赤くなる。
頬を押さえながら消え入りそうな声で話すと、楓さんは首を振ったのだった。
「恥ずかしがらなくて良い。素直なのは良い事だからな。作り手も喜ぶだろう」
「そう言う楓さんも、家で食事をしている時はどこか機嫌が良さそうですよね」
「それはそうだろう。小春の料理はどれも美味いからな。出会った頃に比べたら、かなり上手くなった」
「そんな事を言われたら嬉しい様な、恥ずかしい様な、緊張する様な……。今日の夕食も気合い入れて作らないといけなくなります」
「それならハンバーグが良いな。小春のハンバーグは絶品だからな」
「材料が良いだけですよ……」
いつになく饒舌な楓さんにどこか胸が温かくなる。料理を褒められて照れているというのもあるが、それだけでは無いような気がしたのだった。
食べながら歩いていると噴水近くのベンチが空いていたので、ひと休みする事になった。座る前に楓さんが軽く座面を手で払ってくれたので、小さく礼を言って腰を下ろす。
その隣に、さも当然という様に楓さんも座ったのだった。
平日の昼間でもセントラルパークの中は人が多く、噴水の近くで寛ぐ人達やカメラで写真を撮る観光客らしき団体以外にも、ボールやフリスビーで遊ぶ子供達や犬を散歩する人達がいたのだった。
「楽器を演奏する人もいるんですね」
「近くに野外音楽堂があるからな」
どこからかギターとピアノの陽気な音楽も聞こえてきたので辺りを見回していると、楓さんが向こうを示す。
等間隔に植えられた木々でよく見えなかったが、道路を挟んだ反対側に広場があり、そこに野外音楽堂があるらしい。楓さんの話によると、野外音楽堂はドームを半分に切ったような形をしており、歴史と趣がある石造りの野外ステージとの事だった。
「週末にはよく音楽フェスを開催しているな。その時はこの辺りも混むんだ」
「ここにはよく来るんですか?」
「たまにな。天気が良い休みの日に公園内を散歩している。事務仕事ばかりだと身体が鈍るからな」
そんな事を話しながら歩いていると、噴水のある広場の片隅にホットドッグやポップコーンなどを売る移動ワゴンを見つける。
ワゴンの近くには小さい子供連れの親子が数組いたが、その中の子供の一人が紅葉の様な小さな手でアイスキャンディーを持っていたのだった。
「アイスキャンディー、美味しそうですね」
「せっかくだから買ってみるか? 日本には無い味もあるだろう」
楓さんに連れられてワゴンに近づいて行くと、冷凍ケースの側面にアイスキャンディーの種類が書かれたポスターが貼られていた。ストロベリーやオレンジなど、全てイラスト付きで書かれていたので、これならスマートフォンで翻訳したり、楓さんに聞いたりしなくても分かりそうだった。
「どれがいいか迷いますね……」
迷った末に、日本ではあまり見かけないピンクライム味を購入する。
支払いをしてくれた楓さんに礼を言って受け取った時、アイスキャンディーが一本しか無い事に気づく。
「楓さんの分は……?」
「食べたばかりだから、まだあまり腹が減っていないんだ」
服といい、昼食といい、今日は楓さんにお金を使わせてばかりいるので、どこか申し訳ない気持ちになる。
「私の分だけなら、自分で買うべきでしたね。気づかなくてすみません……」
「遠慮しなくていい。デートなんだから、俺が支払うのは当然だろう」
そっと薄桃色のアイスキャンディーを受け取ると、袋を開けて口に含む。
ライム特有の酸味と微かな甘味が口の中に広がったのだった。
「んっ! 冷たくて甘酸っぱいです!」
日本では滅多に食べられないピンクライム味のアイスキャンディーに目を輝かせていると、楓さんが小さく笑ったのだった。
「小春は美味しいものを食べると、すぐ顔に出るな」
「そうなんですか? 気がつかなかったです……」
美味しいものを食べる度に子供のようにはしゃいでいたとは知らなくて、自然と顔が赤くなる。
頬を押さえながら消え入りそうな声で話すと、楓さんは首を振ったのだった。
「恥ずかしがらなくて良い。素直なのは良い事だからな。作り手も喜ぶだろう」
「そう言う楓さんも、家で食事をしている時はどこか機嫌が良さそうですよね」
「それはそうだろう。小春の料理はどれも美味いからな。出会った頃に比べたら、かなり上手くなった」
「そんな事を言われたら嬉しい様な、恥ずかしい様な、緊張する様な……。今日の夕食も気合い入れて作らないといけなくなります」
「それならハンバーグが良いな。小春のハンバーグは絶品だからな」
「材料が良いだけですよ……」
いつになく饒舌な楓さんにどこか胸が温かくなる。料理を褒められて照れているというのもあるが、それだけでは無いような気がしたのだった。
食べながら歩いていると噴水近くのベンチが空いていたので、ひと休みする事になった。座る前に楓さんが軽く座面を手で払ってくれたので、小さく礼を言って腰を下ろす。
その隣に、さも当然という様に楓さんも座ったのだった。
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