【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜

四片霞彩

文字の大きさ
60 / 88
初デートinニューヨーク

60

しおりを挟む
「本当にここは素敵な場所ですね。自然に溢れていて、賑やかで。都会の真ん中にあるなんて未だに信じられません。ずっとここに居たくなります」
「そうだな。初めてここに来た時、日本がいかに小さくて、そんな日本しか知らない自分がいかに小さいか思い知らされた。世界は広いんだな。写真やネット越しでは伝わらないものも沢山あるんだ」

 その時、大学生くらいの男子数人がスマートフォンを片手にベンチの前を通り過ぎて行ったが、その内の一人が私達の姿に気がつくと、ベンチに近づいて来たのだった。

「Do you know this character?」

 男子は自分が着ている日本発の人気ゲームキャラクターのTシャツを指すと、期待する様な満面の笑みで尋ねてくる。
 きっと楓さんなら、知ってると即答するだろうと思い、傍らで見ていた。けれども、楓さんは「そうだな……」と呟いたまま、考え込んでしまったのだった。
 男子もTシャツを指したまま笑顔が固まってしまい、困った様に友人達と顔を見合わせ出した。このままだと不穏な空気になる事を察したので、楓さんの代わりに私が答えたのだった。

「イ、イエス! ジャパニーズキャラクター!」

 親指を立ててサムズアップすると、男子は「Yes! This is my favorite Japanese character!」と大声で笑うと、満足そうに友人達と去って行ったのだった。
 ほっと肩の力を抜くと、隣からも「助かった」と安堵した様な声が聞こえてきた。

「日本のキャラクターと言われても、知らなかったからどう答えたらいいのか分からなかった。代わりに答えてくれて助かった」
「えっ……! さっきのキャラクター知らないんですか?」
「ああ……。有名なキャラクターなのか?」
「私が子供の頃から人気のキャラクターです。携帯ゲームが発祥ですが、今ではアニメやグッズ、カードゲーム、漫画、スマートフォン向けのアプリもあります。グッズの専門店やコンセプションカフェ、企業とのコラボだって……。楓さんの子供の頃にもあったと思いますが……」
「ああ。言われてみれば、見た事あるような、無いような……」

 楓さんの反応から本当に知らなかったのだと分かり、目が点になってしまう。

「子供の頃にクラスで携帯ゲームが話題になった事があったな。大学のゼミでは、カードゲームの発売日に誰が早朝から店頭に並ぶかで盛り上がっていた。ただ俺はそれが何なのかよく知らなかったから、話題に入れなかったが」
「楓さんは子供の頃、どんな子供だったんですか?」
「勉強ばかりして可愛げのない子供だったよ。あの頃は早く父の様な弁護士になりたくて、日がな勉強ばかりして、子供向けの法律関係の本ばかり読んで、祖父や祖父の知り合いから裁判や弁護士の話を聞いていたな。祖父は新しいものが嫌いだったから、それこそゲームや流行りのおもちゃを買ってもらえなかった。運動もあまり得意じゃなかったから、勉強と読書以外、やる事が無かったというのもあるが……」
「でも、その頃から弁護士を目指していたんですね。すごいです!」
「父が弁護士で、祖父が裁判官だったからだろうな。幼い頃から弁護士や裁判官という仕事が身近にあったのも関係しているかもしれない」

 噴水近くで一際賑やかな子供達の声が聞こえて来た。振り向くと、近くのテラスで小学生くらいの子供達が何か騒いでいるらしい。近くに居た大人達が子供達に何か話している姿が見えたのだった。

「テラスがあるんですね。後で行ってみたいです。あっ……」

 私が声を上げてしまったので、穏やかな表情で子供達を見ていた楓さんが心配そうに振り返った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

消えた記憶

詩織
恋愛
交通事故で一部の記憶がなくなった彩芽。大事な旦那さんの記憶が全くない。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

幸せのありか

神室さち
恋愛
 兄の解雇に伴って、本社に呼び戻された氷川哉(ひかわさい)は兄の仕事の後始末とも言える関係企業の整理合理化を進めていた。  決定を下した日、彼のもとに行野樹理(ゆきのじゅり)と名乗る高校生の少女がやってくる。父親の会社との取引を継続してくれるようにと。  哉は、人生というゲームの余興に、一年以内に哉の提示する再建計画をやり遂げれば、以降も取引を続行することを決める。  担保として、樹理を差し出すのならと。止める両親を振りきり、樹理は彼のもとへ行くことを決意した。  とかなんとか書きつつ、幸せのありかを探すお話。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 自サイトに掲載していた作品を、閉鎖により移行。 視点がちょいちょい変わるので、タイトルに記載。 キリのいいところで切るので各話の文字数は一定ではありません。 ものすごく短いページもあります。サクサク更新する予定。 本日何話目、とかの注意は特に入りません。しおりで対応していただけるとありがたいです。 別小説「やさしいキスの見つけ方」のスピンオフとして生まれた作品ですが、メインは単独でも読めます。 直接的な表現はないので全年齢で公開します。

処理中です...