【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜

四片霞彩

文字の大きさ
63 / 88
初デートinニューヨーク

63

しおりを挟む
 異国の陽の光を浴びて、眼鏡越しではない、楓さんの瞳が黒々と輝いている様に見える。

「あっ……あ、の……」
「こっちが好みなら、これから二人きりの時は眼鏡を外す様にする。……その方がこうして直に触れ合えるからな」

 楓さんはそっと顔を近づけてくると、お互いの額が触れ合うギリギリで止まる。それでも、顔に息がかかってくすぐったかった。

「あ、あ……」

 言葉にならなくて、涙目になって口をパクパクしていると、顔が離れ、そっと両頬からも離れていく。
 遠ざかっていく温もりが名残り惜しい。
 ――どこかから、寂しいという自分の声が聞こえてきた様な気さえした。

「悪ふざけが過ぎたな。もう少し歩いてから帰ろう。今日は歩き疲れただろう」
「それなら、帰りにマンション近くのスーパーに寄ってもいいですか。買い出しに行かないと冷蔵庫の中が空っぽで……」
「わかった。付き合う。荷物持ちが必要だろう」

 ベンチから立ち上がると、「捨ててくる」と言って、私の手からアイスキャンディーの棒を受け取って近くのゴミ箱に向かう。
 その背中を眺めていると、まるで楓さんと本当の夫婦になった様な錯覚を覚えてしまう。

(忘れちゃいけない。私達は夫婦じゃない。離婚を前提とした夫婦なんだ……)

 三色の縁取りがされたエアメール封筒と、エアメール封筒の中から出てきた離婚届が脳裏を掠める。あの離婚届がある限り、私達は本当の夫婦にはなれない。離婚を前提とした夫婦であり続ける。勘違いしてはいけない。
 そして、その離婚届を送ってきた楓さんの真意を私は知らない。手帳に書かれた「帰国」の意味も――。

(早く聞かないと、きっと離れがたくなる。離婚したくないと思ってしまう)

 このタイミングで送られてきた離婚届と、手帳に書かれていた「帰国」の文字。
 離婚届が欲しいだけなら、誰かに頼んで郵送してもらえばいい。わざわざ楓さんが日本に帰国する必要はない。それなのに、楓さんはわざわざ離婚届を入手する為に日本に帰国している。
 本当に楓さんは離婚届を入手する為だけに帰国したのだろか。仕事か何かで帰国したついでに、離婚届を入手して送っただけなら、私が事務所で聞いた時にそう答えればいいだけ。それなのに、あの時の楓さんは答えたくなさそうな態度だった。
 この二つには何かがあるはず。日本に帰る前に楓さんに聞けるだろうか。

(楓さんは優しいから、私に付き合ってくれるだけ。夫婦らしい事をしたい、恩を返したいと言ったから。ただ、それだけ。期待しちゃいけない――)

 これ以上、楓さんに対する想いが大きくなる前に、私はベンチから立ち上がると、楓さんの後を追いかけたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ホストと女医は診察室で

星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

【完結】京都若旦那の恋愛事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

藍生蕗
恋愛
大学二年生、二十歳の千田 史織は内気な性格を直したくて京都へと一人旅を決行。そこで見舞われたアクシデントで出会った男性に感銘を受け、改めて変わりたいと奮起する。 それから四年後、従姉のお見合い相手に探りを入れて欲しいと頼まれて再び京都へ。 訳あり跡取り息子と、少し惚けた箱入り娘のすれ違い恋物語

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

私が育てたのは駄犬か、それとも忠犬か 〜結婚を断ったのに麗しの騎士様に捕まっています〜

日室千種・ちぐ
恋愛
ランドリック・ゼンゲンは将来を約束された上級騎士であり、麗しの貴公子だ。かつて流した浮名は数知れず、だが真の恋の相手は従姉妹で、その結婚を邪魔しようとしたと噂されている。成人前からゼンゲン侯爵家預かりとなっている子爵家の娘ジョゼットは、とある事情でランドリックと親しんでおり、その噂が嘘だと知っている。彼は人の心に鈍感であることに悩みつつも向き合う、真の努力家であり、それでもなお自分に自信が持てないことも、知っていて、密かに心惹かれていた。だが、そのランドリックとの結婚の話を持ちかけられたジョゼットは、彼が自分を女性として見ていないことに、いずれ耐えられなくなるはずと、断る決断をしたのだが――。 (なろう版ではなく、やや大人向け版です)

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

処理中です...