【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜

四片霞彩

文字の大きさ
65 / 88
真実と想い

65

しおりを挟む
 裁判所があるロウアー・マンハッタンまではバスで移動する事になった。本当は地下鉄の方が楽らしいが、このマンションからはバス停の方が近いらしい。
 バスを待っている間、ジェニファーが今日の裁判について教えてくれる。

「今日の裁判はパパが以前から担当していたクライアントの裁判なの。残業代の未払いに関する裁判よ」
「ああ、所長は労働関係を担当なんだっけ」
「うん。パパだけじゃないわ。カエデもよ」
「楓さんも?」

 その時、ロウアー・マンハッタン行のバスがやって来たので、ジェニファーと一緒に乗り込む。車内の奥に進み、二人掛けの席に並んで腰掛けてしばらくすると、バスは走り出したのだった。

「楓さんは交通事故に関する裁判を担当していたと思うんだけど……」
「そうよ。こっちでも交通事故に関する裁判を担当しながら、パパから労働問題に関する裁判を勉強しているの。パパ、ニューヨークでも有名な労働問題を専門とする弁護士だから。カエデがこっちに来たのだって、パパから労働問題に関する裁判を学ぶ為だって聞いたわ」
「そうなの!?」

 車内の走行音に負けないように、やや声を高めに上げると、「そうよ!」と同じ様にジェニファーに返される。

「詳しくは教えてくれなかったけど、カエデ、日本で労働問題に関する裁判を担当した事があったんでしょう? その時に敗訴して、依頼人を救えなかったのが悔しかったみたい」
「それって……」

 私は心臓が一瞬止まったかの様な錯覚を覚えた後、バクバクと激しく脈打ち始めたのを感じた。

(楓さんが日本で担当した労働問題に関する裁判って、まさか私の裁判なんじゃ……)

 もしかしたら、楓さんは私以外の労働問題に関する裁判を担当した事があったのかもしれない。だが日本の楓さんの部屋には真新しく、読み癖もついていない労働基準法に関する本や資料が積み上げられていた。
 まるで、つい最近、労働問題に関する裁判を担当したと言わんばかりに――。

「コハルにはカエデがどんな労働問題に関する裁判を担当したか知ってる?」

 そんな私の様子に気付く事もなく、ジェニファーは話を続けたので、私は「さあ……」と答えたのだった。

「楓さんの仕事内容については、あまり詳しくなくて……」
「そっか。それなら、今日の裁判は良い機会かもしれないわね! カエデの仕事について知るきっかけになるもの!」

 それから、ジェニファーは上機嫌でスマートフォンを操作し始めたので、私は窓からニューヨークの街並みを眺める事にしたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王冠の乙女

ボンボンP
恋愛
『王冠の乙女』と呼ばれる存在、彼女に愛された者は国の頂点に立つ。 インカラナータ王国の王子アーサーに囲われたフェリーチェは  何も知らないまま政治の道具として理不尽に生きることを強いられる。 しかしフェリーチェが全てを知ったとき彼女を利用した者たちは報いを受ける。 フェリーチェが幸せになるまでのお話。 ※ 残酷な描写があります ※ Sideで少しだけBL表現があります ★誤字脱字は見つけ次第、修正していますので申し分ございません。  人物設定がぶれていましたので手直作業をしています。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

消えた記憶

詩織
恋愛
交通事故で一部の記憶がなくなった彩芽。大事な旦那さんの記憶が全くない。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

離した手の温もり

橘 凛子
恋愛
3年前、未来を誓った君を置いて、私は夢を追いかけた。キャリアを優先した私に、君と会う資格なんてないのかもしれない。それでも、あの日の選択をずっと後悔している。そして今、私はあの場所へ帰ってきた。もう一度、君に会いたい。ただ、ごめんなさいと伝えたい。それだけでいい。それ以上の願いは、もう抱けないから。

処理中です...