氷華の吸血鬼ー銀氷の貴方と誓う永血の恋ー

四片霞彩

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触れたい。貴方の心に

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 エレナの体質がすっかりヴァンパイア寄りになっているからか、怪我をした翌々日には跡形もなく擦り傷は消え去っていた。
 元通りになったどころか、元の肌色を通り越して真っさらな雪白に変わった肌に美しさと恐ろしさを感じつつも、エレナはまた店番に復帰したのだった。
 そして砂時計の砂が残り半分になった頃、またしても二人の関係が変わる日が訪れた。

(今日も誰もこなかったなぁ……)
 
 そんなことを考えながら、エレナは温め直した昼間の残りのスープとパンをさっさと腹に入れる。皿を洗いながらも、口から漏れるのは溜め息ばかりであった。
 数刻前に鳴った街全体を揺らすような鐘音と共に営業時間を終えて簡単に夕食を済ませたエレナは、この日もいつもと同じように風呂の用意をしていた。
 エレナが夕食を食べている間にロシィが用意してくれた風呂用の水が沸騰するのを待っていたが、やがて寒くも無いのに身体がぶるりと大きく震えて止まらなくなってしまったのだった。

(あっ、これってもしかして……)

 もう何度目になるか分からない身体の内側から溢れ出すような感覚。大人のノエリスへと反転する合図だと悟る。
 火を止めていそいそと部屋に戻ると、転化に備えて大人姿のノエリスが身に纏う黒のロングドレスを用意する。初めて大人姿のノエリスになった時は、子供のノエリスの服が自動的に大人のノエリスのものへと変化してくれたが、あれ以降は服が伸び縮みすることは無かった。
 後から聞けば、側にいたロシィがエレナの服を変化させたことが分かったのだった。
 あの時はロシィも子供姿になった直後で急な身体の変化についていけずに苦しかっただろうに、戸惑うエレナを優先させてしまった。
 それ以降は身体の変化を察すると自分で着替えるようにして、少しでもロシィに負担が掛からないよう心がけることにしたのだった。

「あれ?」

 これまでのように子供サイズの服を脱いで大人サイズの肌着に着替えて身体の急成長を待っていたが、今回は中途半端なところで終わってしまった。
 手のサイズや身体付きは子供と大人の中間ぐらいの大きさに、手足の長さも子供のノエリスよりは長く、大人のノエリスよりは短い。髪の長さも胸下くらいの長さで止まって、髪色も煌めくようなブロンドから宵闇に紛れる黒へと変化していた。

(これって……っ!?)

 ハッとしたようにエレナは自分のボストンバッグから手鏡を取り出すと、自分の姿を確認する。
 抜けるような透明感のある白い肌色は日本人らしい少し黄色を帯びた肌に、アイスブルー色の瞳は黒色へ。
 そして顔立ちはロシィと出会う前の平凡な顔立ち――人間だった頃のエレナに戻っていたのだった。

「どうして!? 元に戻ったのっ!?」

 まだ変化が続くかもしれないとそわそわしつつもベッドに座って大人姿へと変わる瞬間を待っていたが、いつまで待っても変わらなかった。何事も無かったかのように戻った身体に喜んで良いはずが、どこか他人の身体のような違和感が残ってしまう。ロシィと暮らすこの短い間にすっかりノエリスの二つの身体に馴染んでしまったらしい。
 ロシィが与えてくれた大小様々なノエリスの服ではサイズが合わないので、とりあえず日本から持ってきたエレナのベージュ色のキャミソールワンピースに着替える。どこまで元の身体に戻っているか分からないが、焦げ茶色の厚手のタートルネックをインナーとして着ることで寒さを凌げるだろうか。黒色のタイツを履いたところで、自室で読書に勤しんでいるロシィの存在を思い出す。

(そうだ! ロシィは!?)

 自分の身体が戻っているのなら、ロシィの身にも何か起こっていてもおかしくない。慌てて靴を履いて廊下に出たところで、「わあっ!?」と小さく叫んで目の前の白い壁とぶつかってしまう。勢いのまま危うくひっくり返るところだったが、後ろから腰を支えられてどうにか仰け反るだけで済んだのだった。

「いたたたたっ……」
「前方不注意だ。気を付けろ」

 したたかに打った鼻を押さえながら顔を上げると、不機嫌そうなに片眉を上げたロシィが顔を覗き込んでいた。
 子供姿に戻った訳でもなく、昼間と変わりのない大人姿にそっと安堵の息を吐く。腰に回されたロシィの腕も借りて、どうにか体勢を整えると「ありがとう」と礼を口にする。

「息せき切ってどうした? また部屋に鼠でも出たのか?」
「ちがっ……! そんなんじゃないし!!」

 愉快というようにクククッと低く笑ったロシィに、エレナはここで暮らし始めた頃の恥辱を思い出して耳まで真っ赤になってしまう。
 ロシィとの生活に慣れ始めた頃、夜半に鼠が自室に出て、半泣きでロシィに助けを求めたことがあった。
 初めて鼠を見たエレナは恐怖と驚きで頭の中が真っ白になったが、当のロシィは「なんだ、鼠か」とまともに取り合ってくれなかったのだった。
 嫌なら自分で外に追い出すように言われたが、エレナが泣き喚いて必死にロシィの身体にしがみついたことで面倒だと思われたのか、結局ロシィが捕まえて外に逃がしてくれた。
 それからエレナは掃除を徹底して、特に自室は二度と鼠が出てこないように清潔を保つよう心掛けるようになったのだった。
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