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交際15日目 愛妻弁当ですが
しおりを挟む正直、先日の話でもされるのかと思っていたため拍子抜けだ。
しかも、また弁当を作ってくれるとは。
先日のことに対する罪悪感、嫌われていなかったという安堵感、単純に弁当嬉しい、という感情がごちゃまぜになって何とも形容しがたい気分だ。
「いーんすか?
シーナ団長の弁当めっちゃ旨いんで嬉しいっす。
ありがとうございます。」
弁当を受け取りながら、ついつい笑顔が溢れる。
「あの……この間は嫌な思いさせちゃってすみません。
ミーシャが言ってたこと……確かに、最初は特別ボーナス目当てだったんすけど
でも、今は、何て言うか…シーナ団長と出掛けたりするの悪くないっていうか、結構楽しいっていうか……」
弁明の言葉を口にするが、もにょもにょと歯切れが悪い。
「いや、こちらが無理を言って、ポーラール殿に交際を強要している。
だから、気にする必要はない。
労働に対し、対価が支払われるのは当然のことだ。」
「ちがっ……労働なんてっ!俺はっ……!」
珍しくよく喋るシーナの言葉に胸が痛む。
彼は自分との交際を労働だと言う。
嫌味とかそんなんじゃなく、純粋にそう思ってるという口調だった。
ポーラールの意思が、シーナに向くことなど微塵も考えていない。
それは、ポーラールの最初の言動が原因だと分かっている。
普段と打って変わって饒舌なシーナとは逆に、ポーラールの口からはまともな言葉は出てこない。
いつもなら、思っていることも思っていないことも、相手を喜ばせる言葉なんか息を吐くように出てくるのに。
"労働なんかじゃない。"
"あなたといると心が落ち着く。"
"意外と可愛いあなたのことが好きになっちゃいそう。"
でもはっきりしない気持ちのまま言ってはいけないとも分かっていた。
体だけの関係の奴等とは違うのだ。
「……明日から3日間。」
険しい顔で黙ってしまったポーラールの言葉の続きを待つことなく、シーナは再び喋りだした。
「えっ?」
「明日から3日夜勤だと聞いている。
夕方頃、夜食を持ってきてもいいだろうか?」
「あっ、俺はいいっすけど……
シーナ団長も忙しいのに大変じゃないっすか?」
「俺がしたくてしている。
迷惑でないならまた明日来る。
今日の弁当箱は明日持ち帰るので、そのまま置いておいてほしい。」
「……りょうかいっす。」
言うだけ言って満足したように、シーナは頷き、「では。」と普通に帰っていく。
その背中を見送りながら、ポーラールは「はぁー」大きく息を吐いた。
(頼むから、こんな最低野郎のために尽くさないでくれ。)
貰った弁当は、前回と中身がガラッと変わってはいるが、やはりポーラールの好物で溢れていた。
それから3日間、宣言通りシーナは夕方に現れては弁当を置いていく。
夜勤の警らからの帰り、休憩室で弁当を広げていると同じ夜勤の部下たちから声を掛けられる。
「今度は料理上手な恋人でも捕まえたんですか?」
「一昨日から見てましたけど、まじで旨そうなんですけど。」
「どんな子ですか?ポーラール副団長の恋人だからどうせグラマラスなお姉さまだろうなぁ」
(お前らが、鉄仮面っていつもビビり倒してるシーナ団長だよ。)
と思ったが、「まぁな」と言って回答を濁す。
何となくシーナが作ったと知られるのが癪に感じた。
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