29 / 86
第1章 北条家騒動
黒幕判明
しおりを挟む
河越へ戻ると、辰巳たちは捕らえた忍者を大道寺家に預け、夏の店へと向かった。
「おぉ、戻って来たか」
「おかえりなさい」
「おかえり」
店では吉右衛門、奈々、ユノウがお茶を飲んでいた。
「あ、みなさんいらっしゃい」
「ただいま」
夏は挨拶するとそのまま台所へ、辰巳はユノウの隣に座り、襲撃を受けたことを三人に報告した。
「今日も忍者たちに襲われたよ」
夏が初めて襲撃を受けてから今日で一〇日、襲撃の数はこれで五回目になる。
「やれやれ、簡単には諦めてくれんようだな」
吉右衛門はため息をついた。
「一応、襲ってきた奴の一人は捕まえましたから」
「そいつは何よりだ」
吉右衛門は労いの言葉をかけたが、反応はそれほど大きくない。
実は、これまでにも夏襲撃犯の身柄は拘束されており、尋問によって氏吉が関わっていることが判明していた。
長久が夏襲撃の黒幕だろうと考えていた辰巳たちにとって、氏吉の名は想定外であり、その名を聞いて驚くとともに、頭を抱えてしまった。
長久が相手であれば、河越城内のこととして、襲撃犯の証言だけでも処断することが可能であったが、氏吉相手ではそうはいかない。十分な証拠を得ることも重要だが、少しでも対応を間違えれば、河越と江戸との間で内紛が生じ、最悪の場合、大規模なお家騒動に発展する恐れがあった。
そうなれば幕府の介入を招き、北条家がなんらかの処罰を受けるのは確実である。
東国屈指の大大名である北条家は、秀吉に臣従して以降何かと目をつけられ、現在までに一〇〇万石近い領地を召し上げられていた。
ゆえに幕府の目を非常に気にしており、下手をすれば早急に事態を収めるべく、夏を氏吉に引き渡す可能性すらあった。
「そっちは何かわかりましたか?」
「残念ながら、新しい情報はない」
「そうですか」
「襲ってきた連中に尋問はしてるが、命令されたから襲った、以外の証言はほとんど出てきておらん。まぁ、実行犯なんてそんなものだろうがな」
「本当に何も聞かされてないんでしょうか。口を割っていないだけとか、そういうことは考えられないですか」
辰巳は少し疑念を抱いていた。
「尋問者の技量は確かなものであったし、その可能性はほぼないな。それに先ほども申したが、下っ端連中なんぞに、いちいち目的だとか細かい情報を教えたりはしない。こうやって捕まったりでもしたら、機密が漏れてしまう危険性があるからな」
「あー、なるほど」
「その意味では、首謀者の名前がわかっただけでも上々なのだが……。皮肉なことに、その名前がわかったがために、色々と行動が制限されてしまっているからな」
ただでさえ氏吉への疑念が高まっている最中、夏の一件が絡めば、不測の事態が生じるのではないか。辰巳たちはそれを憂慮し、情報拡散を避けるため、しばらく調査などの行動を控えることにしたのだ。
「仕方ないですよ、相手が相手ですから。けど、どうして江戸のお殿様が、夏さんを狙っているのでしょうかね?」
氏吉がなぜ夏のことを狙っているのか、その理由はいまだに判明していない。
吉右衛門が推察したように、襲撃した忍者たちにはそういったことは一切伝えられておらず、また夏自身はもちろん、文や咲にも心当たりはなく、手がかりすら掴めていなかった。
「うーむ、わからんと言ってしまえばそれまでだが、配下の忍者隊をこれだけ投入してくるということは、よほどの重大事であることは想像できる。例えば、何か秘密を知られてしまった、もしくは知られたと思い込んで、とかな」
「なるほど、その可能性ありそうですね」
「あくまで想像だがな。いずれにせよ、満足に情報収集ができん以上、今は護衛に徹し、相手を諦めさせるしか手段がない。不幸中の幸いは、夏殿があまり怖がっていないことだな」
吉右衛門が言ったように、これだけ襲撃を受けているのにも関わらず、夏はそれほど怖がってはいなかった。
その最大の要因は、ワミのエンターテイメント感溢れる護衛である。それによって、襲撃の恐怖感は極限まで抑え込まれ、夏の心理的負担はかなり軽減されていた。
「その意味では、辰巳殿の功績は大きい。こういう苦肉の策がとれるのも、辰巳殿の紙魔法があってのことだからな」
「いえ、それほどでもないですよ」
辰巳は思わず頬を緩ませる。
「では、夏殿の方はこのくらいにして、次は仁仙のことだ。こちらの方は、収穫があった。どうやら、草月院様に仕える女中の一人が、仁仙とつながっていて、草月院様が占いを信じるよう、上手く差配しているようなのだ」
「それって、グルになってる女中がいたってことですか?」
「グル……まぁ、そのような感じなのかな。詳しい説明は、ユノウ殿にお願いする」
吉右衛門はユノウに説明役を引き継いだ。
「おぉ、戻って来たか」
「おかえりなさい」
「おかえり」
店では吉右衛門、奈々、ユノウがお茶を飲んでいた。
「あ、みなさんいらっしゃい」
「ただいま」
夏は挨拶するとそのまま台所へ、辰巳はユノウの隣に座り、襲撃を受けたことを三人に報告した。
「今日も忍者たちに襲われたよ」
夏が初めて襲撃を受けてから今日で一〇日、襲撃の数はこれで五回目になる。
「やれやれ、簡単には諦めてくれんようだな」
吉右衛門はため息をついた。
「一応、襲ってきた奴の一人は捕まえましたから」
「そいつは何よりだ」
吉右衛門は労いの言葉をかけたが、反応はそれほど大きくない。
実は、これまでにも夏襲撃犯の身柄は拘束されており、尋問によって氏吉が関わっていることが判明していた。
長久が夏襲撃の黒幕だろうと考えていた辰巳たちにとって、氏吉の名は想定外であり、その名を聞いて驚くとともに、頭を抱えてしまった。
長久が相手であれば、河越城内のこととして、襲撃犯の証言だけでも処断することが可能であったが、氏吉相手ではそうはいかない。十分な証拠を得ることも重要だが、少しでも対応を間違えれば、河越と江戸との間で内紛が生じ、最悪の場合、大規模なお家騒動に発展する恐れがあった。
そうなれば幕府の介入を招き、北条家がなんらかの処罰を受けるのは確実である。
東国屈指の大大名である北条家は、秀吉に臣従して以降何かと目をつけられ、現在までに一〇〇万石近い領地を召し上げられていた。
ゆえに幕府の目を非常に気にしており、下手をすれば早急に事態を収めるべく、夏を氏吉に引き渡す可能性すらあった。
「そっちは何かわかりましたか?」
「残念ながら、新しい情報はない」
「そうですか」
「襲ってきた連中に尋問はしてるが、命令されたから襲った、以外の証言はほとんど出てきておらん。まぁ、実行犯なんてそんなものだろうがな」
「本当に何も聞かされてないんでしょうか。口を割っていないだけとか、そういうことは考えられないですか」
辰巳は少し疑念を抱いていた。
「尋問者の技量は確かなものであったし、その可能性はほぼないな。それに先ほども申したが、下っ端連中なんぞに、いちいち目的だとか細かい情報を教えたりはしない。こうやって捕まったりでもしたら、機密が漏れてしまう危険性があるからな」
「あー、なるほど」
「その意味では、首謀者の名前がわかっただけでも上々なのだが……。皮肉なことに、その名前がわかったがために、色々と行動が制限されてしまっているからな」
ただでさえ氏吉への疑念が高まっている最中、夏の一件が絡めば、不測の事態が生じるのではないか。辰巳たちはそれを憂慮し、情報拡散を避けるため、しばらく調査などの行動を控えることにしたのだ。
「仕方ないですよ、相手が相手ですから。けど、どうして江戸のお殿様が、夏さんを狙っているのでしょうかね?」
氏吉がなぜ夏のことを狙っているのか、その理由はいまだに判明していない。
吉右衛門が推察したように、襲撃した忍者たちにはそういったことは一切伝えられておらず、また夏自身はもちろん、文や咲にも心当たりはなく、手がかりすら掴めていなかった。
「うーむ、わからんと言ってしまえばそれまでだが、配下の忍者隊をこれだけ投入してくるということは、よほどの重大事であることは想像できる。例えば、何か秘密を知られてしまった、もしくは知られたと思い込んで、とかな」
「なるほど、その可能性ありそうですね」
「あくまで想像だがな。いずれにせよ、満足に情報収集ができん以上、今は護衛に徹し、相手を諦めさせるしか手段がない。不幸中の幸いは、夏殿があまり怖がっていないことだな」
吉右衛門が言ったように、これだけ襲撃を受けているのにも関わらず、夏はそれほど怖がってはいなかった。
その最大の要因は、ワミのエンターテイメント感溢れる護衛である。それによって、襲撃の恐怖感は極限まで抑え込まれ、夏の心理的負担はかなり軽減されていた。
「その意味では、辰巳殿の功績は大きい。こういう苦肉の策がとれるのも、辰巳殿の紙魔法があってのことだからな」
「いえ、それほどでもないですよ」
辰巳は思わず頬を緩ませる。
「では、夏殿の方はこのくらいにして、次は仁仙のことだ。こちらの方は、収穫があった。どうやら、草月院様に仕える女中の一人が、仁仙とつながっていて、草月院様が占いを信じるよう、上手く差配しているようなのだ」
「それって、グルになってる女中がいたってことですか?」
「グル……まぁ、そのような感じなのかな。詳しい説明は、ユノウ殿にお願いする」
吉右衛門はユノウに説明役を引き継いだ。
0
あなたにおすすめの小説
アラフォー幼女は異世界で大魔女を目指します
梅丸みかん
ファンタジー
第一章:長期休暇をとったアラフォー独身のミカは、登山へ行くと別の世界へ紛れ込んでしまう。その場所は、森の中にそびえる不思議な塔の一室だった。元の世界には戻れないし、手にしたゼリーを口にすれば、身体はなんと6歳の子どもに――。
ミカが封印の箱を開けると、そこから出てきたのは呪いによって人形にされた大魔女だった。その人形に「大魔女の素質がある」と告げられたミカは、どうせ元の世界に戻れないなら、大魔女を目指すことを決心する。
だが、人形師匠はとんでもなく自由すぎる。ミカは師匠に翻弄されまくるのだった。
第二章:巷で流れる大魔女の遺産の噂。その裏にある帝國の侵略の懸念。ミカは次第にその渦に巻き込まれていく。
第三章:異世界で唯一の友人ルカが消えた。その裏には保護部屋の存在が関わっていることが示唆され、ミカは潜入捜査に挑むことになるのだった。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました
mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。
なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。
不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇
感想、ご指摘もありがとうございます。
なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。
読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。
お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる