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第1章 北条家騒動
占い師事情
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「辰巳さん、占いっていうのは、ある意味で情報戦であり、心理戦なんです。例えば、辰巳さんが占い師に相談に行ったとして、いきなり自分の悩み事や、過去の細かい出来事をピタリと言い当てられたら、どう思います?」
「すげぇって思う。……あ、もしかして、その女中が情報を仁仙に流していたってこと?」
「鋭いですねぇ、そのとおりですよ。草月院様の悩み事や興味を持っていることなんかを、女中が逐一仁仙に報告し、それを参考にして様々な回答を用意しておく。そりゃ毎度毎度、『もしかして、こういうことで悩んでませんか?』って、自分で話す前に悩み事をズバズバと言い当てられたら、誰だってその占い師を信用しますよ。……稀にいるんですよね、探偵とか興信所とかとタッグを組んで、相談者の素性を調べて信用させるっていうあくどいことをする奴が」
ユノウは嫌悪感を示すように、顔をしかめる。
「なるほどね。……ところで、なんでそんなに占い事情に詳しいの?」
「前に色々な仕事をやってたって話をしたと思うんですけど、占い師もやったことがあるんですよ。あ、一応言っときますけど、こういうあくどいことは一切やっていませんからね」
ユノウは強く念押しした。
「へぇ、そうだったんだ」
「昭和四九……いや、五〇年から六~七年くらいやっていたんですけど、結構人気あったんですよ。テレビやラジオにも出たし、レコードも五枚出したんですから」
ユノウは懐かしそうにその当時のことを思い浮かべた。
「え、歌出してるの?」
「そうですよ。ちなみに歌は四枚で、もう一枚は占いです」
「占い? 占いのレコードって何?」
「ちょっと待っててください」
ユノウはレッグポーチからそのレコードを取り出した。
「マルチグルーブカッティングレコードっていうんですけど、レコードに何本もの溝が平行して切ってあるんで、どの溝が再生されるかわからないんです。つまり、針を置くとランダムであたしの占いが聞こえてくるってわけです。」
「ふーん、要は自分が針を落としたところがその日の運勢みたいなことか」
辰巳は物珍しそうにレコードを見た。
「そういうことですそういうことです。……ちょっと話がそれちゃったので、元に戻しますね。情報を流していた女中なんですが、仕えるようになったのは、仁仙が城へ来る三ヶ月ほど前のことで、あっという間に草月院様に気に入られたそうなんです。で、うまく懐に入り込んだところで、城下に良く当たると評判の占い師がいるとかなんとか言って、仁仙のことをそれとなく吹き込んだらしんです」
「それ、完全にクロじゃないの」
「ええ、その女中が仁仙の仲間であることは、ほぼ間違いないでしょう」
ユノウが断言するのに合わせて、奈々が口を開く。
「私もその女中のことは知っていますけど、すごい一生懸命で、なんか小動物みたいな愛くるしさがあるんですよね。けど、まさかあの子が仁仙の仲間だったなんて……」
奈々は悔しそうに唇を噛んだ。
「奈々殿の反応を含め、人心掌握に長けているところを見ると、おそらくその女中は忍びの類であろうな」
「どうして忍びだと判断できるんですか?」
辰巳は吉右衛門に質問した。
「うむ。忍びに求められる最大の役割は、諜報や謀略だ。敵方に忍び込んで色々とやるわけだが、ここで必要になるのが、人の心を操る能力だ。例えば、何か秘密を聞き出したいとして、相手が酒好きだったら、酒を飲ませて酔っ払わせるとか、歌詠みだったら、相手が作った歌を褒めて、機嫌を良くさせたところで聞き出すとかな。これは単純な例だが、状況によっては相手を怒らせたり、不安にさせるなど、感情や心理を色々と操れないといかんのだ。だから、忍びの者は人心掌握の術に長けておるんだよ」
「なるほど」
「そして女中が忍びであるとすれば、仁仙も忍びである可能性が高い。状況証拠だけとはいえ、仁仙を草月院様から引き離すには良い口実だ。直道殿たちの行動が、功を奏したな」
両者の関係性が発覚するきっかけを作ったのは、直道を含む反仁仙派の面々であった。
彼らが仁仙への敵愾心を露骨に示し始めたことによって、美影は仁仙のためを思い、普段以上に色々と動き回るようになった。
当人は良かれと思ってやったことなのだが、動き回ったことによって疑念を抱かれるようになり、二人が仲間であることが吉右衛門たちに知られることになってしまったのだ。
「……しかし、まさか本気で実力行使に出ようとしていたとはな」
吉右衛門は苦笑しながらお茶を飲んだ。
奈々から、直道が仁仙を殺害しようとしていると聞かされた時、吉右衛門は仁仙への脅しか、重政へのメッセージ的なもので、あくまで殺す素振りを示すだけだと考えていた。
仁仙が氏吉の手先であると疑っているのであれば、仁仙を害することは、かえって氏吉に河越の評判を落とす材料を与えてしまうことになるので、実行するわけがないと。
そのため心配する奈々に対し、吉右衛門は心配無用と断言し、さらにこれをうまく利用して、仁仙に揺さぶりをかけようと提案した。
その結果、美影と仁仙の関係が明らかになるのだが、後になって、直道が本気で実力行使に出ようとしていることがわかるや、大慌てで踏みとどまるよう説得したのであった。
「すげぇって思う。……あ、もしかして、その女中が情報を仁仙に流していたってこと?」
「鋭いですねぇ、そのとおりですよ。草月院様の悩み事や興味を持っていることなんかを、女中が逐一仁仙に報告し、それを参考にして様々な回答を用意しておく。そりゃ毎度毎度、『もしかして、こういうことで悩んでませんか?』って、自分で話す前に悩み事をズバズバと言い当てられたら、誰だってその占い師を信用しますよ。……稀にいるんですよね、探偵とか興信所とかとタッグを組んで、相談者の素性を調べて信用させるっていうあくどいことをする奴が」
ユノウは嫌悪感を示すように、顔をしかめる。
「なるほどね。……ところで、なんでそんなに占い事情に詳しいの?」
「前に色々な仕事をやってたって話をしたと思うんですけど、占い師もやったことがあるんですよ。あ、一応言っときますけど、こういうあくどいことは一切やっていませんからね」
ユノウは強く念押しした。
「へぇ、そうだったんだ」
「昭和四九……いや、五〇年から六~七年くらいやっていたんですけど、結構人気あったんですよ。テレビやラジオにも出たし、レコードも五枚出したんですから」
ユノウは懐かしそうにその当時のことを思い浮かべた。
「え、歌出してるの?」
「そうですよ。ちなみに歌は四枚で、もう一枚は占いです」
「占い? 占いのレコードって何?」
「ちょっと待っててください」
ユノウはレッグポーチからそのレコードを取り出した。
「マルチグルーブカッティングレコードっていうんですけど、レコードに何本もの溝が平行して切ってあるんで、どの溝が再生されるかわからないんです。つまり、針を置くとランダムであたしの占いが聞こえてくるってわけです。」
「ふーん、要は自分が針を落としたところがその日の運勢みたいなことか」
辰巳は物珍しそうにレコードを見た。
「そういうことですそういうことです。……ちょっと話がそれちゃったので、元に戻しますね。情報を流していた女中なんですが、仕えるようになったのは、仁仙が城へ来る三ヶ月ほど前のことで、あっという間に草月院様に気に入られたそうなんです。で、うまく懐に入り込んだところで、城下に良く当たると評判の占い師がいるとかなんとか言って、仁仙のことをそれとなく吹き込んだらしんです」
「それ、完全にクロじゃないの」
「ええ、その女中が仁仙の仲間であることは、ほぼ間違いないでしょう」
ユノウが断言するのに合わせて、奈々が口を開く。
「私もその女中のことは知っていますけど、すごい一生懸命で、なんか小動物みたいな愛くるしさがあるんですよね。けど、まさかあの子が仁仙の仲間だったなんて……」
奈々は悔しそうに唇を噛んだ。
「奈々殿の反応を含め、人心掌握に長けているところを見ると、おそらくその女中は忍びの類であろうな」
「どうして忍びだと判断できるんですか?」
辰巳は吉右衛門に質問した。
「うむ。忍びに求められる最大の役割は、諜報や謀略だ。敵方に忍び込んで色々とやるわけだが、ここで必要になるのが、人の心を操る能力だ。例えば、何か秘密を聞き出したいとして、相手が酒好きだったら、酒を飲ませて酔っ払わせるとか、歌詠みだったら、相手が作った歌を褒めて、機嫌を良くさせたところで聞き出すとかな。これは単純な例だが、状況によっては相手を怒らせたり、不安にさせるなど、感情や心理を色々と操れないといかんのだ。だから、忍びの者は人心掌握の術に長けておるんだよ」
「なるほど」
「そして女中が忍びであるとすれば、仁仙も忍びである可能性が高い。状況証拠だけとはいえ、仁仙を草月院様から引き離すには良い口実だ。直道殿たちの行動が、功を奏したな」
両者の関係性が発覚するきっかけを作ったのは、直道を含む反仁仙派の面々であった。
彼らが仁仙への敵愾心を露骨に示し始めたことによって、美影は仁仙のためを思い、普段以上に色々と動き回るようになった。
当人は良かれと思ってやったことなのだが、動き回ったことによって疑念を抱かれるようになり、二人が仲間であることが吉右衛門たちに知られることになってしまったのだ。
「……しかし、まさか本気で実力行使に出ようとしていたとはな」
吉右衛門は苦笑しながらお茶を飲んだ。
奈々から、直道が仁仙を殺害しようとしていると聞かされた時、吉右衛門は仁仙への脅しか、重政へのメッセージ的なもので、あくまで殺す素振りを示すだけだと考えていた。
仁仙が氏吉の手先であると疑っているのであれば、仁仙を害することは、かえって氏吉に河越の評判を落とす材料を与えてしまうことになるので、実行するわけがないと。
そのため心配する奈々に対し、吉右衛門は心配無用と断言し、さらにこれをうまく利用して、仁仙に揺さぶりをかけようと提案した。
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