紙切り道中異世界見聞録

いんじんリュウキ

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第2章 北条家戦争

江戸の様子は?

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「今どの辺かな?」

 コックピットに座る辰巳は、後ろの客席に座っているユノウに確認した。

「さっき三浦半島を越えたんで、たぶん川崎辺りですよ」

 小田原城へ向かっていた時と同様、ヘリコプターは海岸線に沿って飛んでいく。

「じゃあ、もうすぐだな。吉右衛門さん、もう少しで江戸に着きますよ」

 辰巳は隣に座る吉右衛門に告げた。

「やはり速いな」

「吉右衛門さん、これ使ってください」

 ユノウは大きめの双眼鏡を吉右衛門に手渡す。

「これはなんだ?」

「遠眼鏡の親戚みたいなものですよ」

「確かに、言われてみれば遠眼鏡を二つ合わせたような形をしているな。……おぉ、これはすごいな!」

 吉右衛門は双眼鏡を覗き込むや、思わず感嘆の声を上げる。

 ユノウが手渡した双眼鏡は、倍率一八倍というかなり高倍率の代物だった。

「なぁ、双眼鏡って他にはないの?」

 吉右衛門の反応を見て、辰巳も双眼鏡を使いたくなった。

「ありますよ。……はい、どうぞ」

 ユノウは倍率八倍のコンパクトな双眼鏡を辰巳に手渡した。

「サンキュー。……おっ、あの道は東海道かな?」

 辰巳の視線に入ったのは幅八メートルほどの石畳の道路で、道の両脇には等間隔で松の木が植えられていた。

「辰巳殿、あれは東海道ではなくて江戸街道だ」

「江戸街道?」

 辰巳にとって初めて聞く街道名だ。

「江戸街道というのは、戸塚と江戸を結んでいる脇街道だ」

「え、戸塚と江戸? じゃあ、東海道は戸塚からどこへ向かってんですか?」

 江戸街道があるということは、東海道が江戸へ向かっていないことを意味していた。

「古河だ」

「古河? 古河ってどこ?」

 辰巳はユノウに聞く。

「古河は茨城県の西の端にある街で、関東のほぼ真ん中に位置しているんです」

「ふーん。けど、なんでそこに東海道が向かってんですか?」

 ルート決めに関わっているであろう吉右衛門に向かって、辰巳は当然のように質問する。

「それはな、古河は東国ににらみを利かせるために、私の子供……いや、頼忠よりただはこの前隠居したから、孫が治めてるからだよ」

 二人が倭国の人間ではないからか、吉右衛門は隠すことなく狙いを口にする。

 なお、羽柴頼忠は吉右衛門の三男で、将軍の代替わりに合わせて家督を息子に譲っていた。

「あぁ……なるほど」

「なるほど。確かに、古河は東国を押さえる意味ではうってつけの場所ですね」

 辰巳はなんとなく重要な場所だからなんだろうなと思うだけだったが、ユノウは古河を選んだ理由にまで考えを巡らせていた。

「え、そこってそんなすごい場所なの?」

「古河は利根川や渡良瀬川が集まる水上交通の要衝の地で、室町時代には古河公方が本拠地に定めた東国の首都みたいなとこだったんです。だからここを羽柴家が治めることで、その意図と正当性を世間に示すことができるんですよ」

「へぇ~、本当にそうなんですか?」

 辰巳は吉右衛門に真偽を確認する。

「ユノウ殿は、なかなかの戦略眼をお持ちのようだな」

 吉右衛門は笑いながらうなずき、改めて双眼鏡を覗き込んだ。

「江戸の街が見えてきたが、どうも人通りが少ないような……ん、あれはなんだ?」

 吉右衛門の目に飛び込んできたのは、卵のような形をした体に不気味なひとつ目と巨大な口があり、さらにボサボサの髪と、毛むくじゃらの腕に一本足という姿をした妖怪だった。

「どうしました?」

「辰巳殿、あそこにもののけらしきものがいる」

「え、本当ですか?」

 辰巳は吉右衛門が指さす先の方を双眼鏡で見た。

「……あ、あれかぁ、なんかひとつ目のやつがピョンピョンと飛び跳ねてるな」

「あれ、一本だたらっぽいですね」

 ユノウは妖怪の姿に心当たりがあった。

「いっぽんだたら? なんか名前の響き的に日本の妖怪っぽいな」

「そうですよ。一本だたらは日本各地に伝承が残る妖怪で、名前からも想像できるように一本足なんです」

「ふーん。けどあれだね、あいつも夜に見たら怖いだろうけど、こんな明るい時間に見たらそんなに怖くないな。なんか、遊園地とかのマスコットにも見えるもの」

「明るさもそうですけど、離れた場所から見てるっていうのも大きいと思いますよ。たぶん間近で見たらそれなりに怖いと思います」

 辰巳が油断しないよう、ユノウは釘を刺しておく。

「そういうのもあるのか……お、なんか他にも妖怪っぽいのがいるな」

 一本だたらの他にも、鎧を身に着けた骸骨武者や、長い首を活かして見回りを行うろくろ首など、妖怪の類が我が物顔で街を闊歩しており、中には妖怪に取り押さえられている人間の姿もあった。

「なんたることだ、この短時間でこれほどまでにもののけに支配されてしまったというのか……」

 予想を遥かに超える深刻な状況に、吉右衛門は言葉を失った。
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