紙切り道中異世界見聞録

いんじんリュウキ

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第2章 北条家戦争

軍議

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 小田原でもののけ討伐軍が組織されるなか、江戸では恐ろしいスピードで合戦準備が進んでおり、城中では妖怪たちによる軍議が行われていた。

「今宵、小田原へ向けて出陣する兵力ですが、武者部隊が三〇〇〇、朧車おぼろぐるま部隊が五〇、飛行部隊が三〇の、合計三〇八〇です」

 上座に座る氏吉に向かってそう報告したのは、後頭部が張り出した大きな頭を持つ妖怪のぬらりひょんで、喚び出された妖怪たちの取りまとめ役を担っていた。

「瀬戸大将、お前はどのように小田原を攻めるつもりだ?」

 氏吉が尋ねたのは、頭が徳利、胴体が燗鍋や皿といった様々な瀬戸物でできた鎧武者の妖怪で、今回先陣を切って出撃する軍勢の指揮官だ。

「力でねじ伏せる所存にございます。おそらく、小田原はまだ戦準備が整っておらぬはず。ならば、こちらは強力な火力と機動力を有する朧車と提灯どもを前面に出し、時を与えずに敵軍を打ち破ります」

 瀬戸大将は甲高い声で力強く返答した。

「期待しておるぞ。大首、先刻飛んできたバケモノの正体はわかったか?」

「目撃した提灯の話によれば、バケモノは大きな音を立てて飛び回り、中には人影らしきものがあったとのこと。また、近づいても一切攻撃はしなかったものの、逃げ足は恐ろしく速く、提灯では追いつけないと申しておりました」

 答えたのは大きな女性の生首の妖怪で、自在に空を飛び回れることから、提灯妖怪や一反木綿といった空飛ぶ妖怪たちを統率していた。

「小田原の方へ逃げたというが、そいつは小田原の手先なのか?」

「その公算が高いかと。今、小田原へ偵察のものを向かわせておりますので、いずれ仔細がわかると思います」

「そうか。河童、水軍の方はどうなっておる?」

「大急ぎで船を用意している次第でごんして、今、一五隻集まっているでごんす」

 水軍を取り仕切っているのは河童で、腹当はらあてという鎧を身に着けていた。

「河童殿には悪いが、水軍の出番はないでしょうな。小田原は我らだけで攻め落としますから」

 瀬戸大将は自信たっぷりに言い放った。

「瀬戸大将殿、敵を侮るのはいかんでごんす。油断していると、足をすくわれるでごんすよ」

 河童はゆっくりとした口調で言い返しつつ、大きな目で瀬戸大将を軽くにらみつける。

「そっちこそ、慌てて事を進めるとしくじるぞ」

 瀬戸大将はさらに言い返し、両者の間にピリついた空気が漂い始める。

「ご両人ともおやめなされ」

 ぬらりひょんに叱責され、二人は氏吉に向かって謝した。

「申し訳ございません」

「すまんでごんす」

「まぁいい。瀬戸大将、そこまで申したのだから、必ず成し遂げろよ」

 氏吉は相手を圧するような強い眼差しを瀬戸大将に向けた。

「ははっ、必ずや小田原を攻め落としてご覧に入れまする」

 瀬戸大将は威勢よく宣言した。



 一方、小田原でも吉右衛門を中心に出陣へ向けた話し合いが行われていた。

「提灯どもは三郎殿に任せるとしても、やはり五〇〇の兵では心許ないな」

 氏元に向かって、吉右衛門は率直に不安を口にした。

「されど、今すぐに用意できるのはこれが限界にございます」

「わかっておる。だから、ここも辰巳殿の力を借りることにしたのだ」

「ということは、先ほどのようなものが現れるということですか。それは心強い限り、どうかよろしくお頼み申す」

 三郎による圧倒的な対空攻撃を目の当たりにした氏元は、期待に満ちた眼差しを辰巳に向けた。

「あ、頑張ります」

「頑張るのはいいですけど、何を切るつもりですか?」

 すかさずユノウが聞いてきた。

「何って……照之進さんとワミさん、それに桃太郎さんを呼ぼうかなって」

 辰巳は夏の護衛で世話になった三人の名前をあげた。

「それだけですか?」

「とりあえずパッと思いついたのがそれなんだけど、あとは……戦車?」

 辰巳は言いながらユノウの反応を見た。

「いいんじゃないですか。戦車の火力があれば、もし頑丈な塗壁ぬりかべが出てきたとしても対処できるでしょうから」

「塗壁、そんな妖怪いたねぇ」

 辰巳の頭には、壁に手足がついたような感じのイメージが浮かんでいた。

「辰巳殿、その戦車とやらはどういったものなのだ?」

「えっと……簡単に言えば動く大筒で、見た目は知久さんみたいな感じです」

「三郎殿みたいなものなのか、それはまた頼りになりそうだな」

 吉右衛門の期待が一気に上がる。

「あの、吉右衛門さんにちょっとお願いがあるんですけど」

「何かな、ユノウ殿」

「三郎さんを見てもわかるように、辰巳さんの戦力は常識外れなものばかりなので、普通の人では扱いきれません。なので、独自に行動できるようにして欲しいんです」

 ユノウは現場指揮官とのトラブルを回避すべく、事前にしっかりと線引きしておこうと考えたのだ。

「心配はいらん。辰巳殿たちは、私直属の独立部隊という体で動いてもらう。基本的には本隊と一緒に行動してもらうが、攻撃等の判断は独自にしてもらって構わない」

「それを聞いて安心しました」

「この旨、本隊の者たちにはしかと言い渡しておくが……氏元、誰が率いるのかは決まったのか?」

「は、蝶野正二郎ちょうのしょうじろうという者で、槍の達人にございます。また、ちょっとやそっとでは動じない肝っ玉の持ち主でもあります」

「そうか、ならすぐ連れて来てくれ」

「承知いたしました。おい、正二郎を呼んでまいれ」

 氏元はそばにいた小姓に命じ、しばらくして正二郎がやって来た。

「蝶野正二郎、お呼びとのことで参上いたしました」

 現れたのは身長二メートル近い屈強な大男で、立派な口ひげを生やしたいかつい顔をしている。

「そなたが正二郎殿か、なかなかに立派な体躯をしておるな」

「……もしかして、あなた様が秀頼様でございましょうか?」

「そうだ」

 吉右衛門がうなずくのを見るや、正二郎は改めて姿勢を正し、吉右衛門と正対した。

「改めまして、某は蝶野正二郎と申します。このたび、先陣となる軍勢を率いることと相成りました」

「そなたを呼んだのは他でもない。出陣する前に、共に戦ってくれる者たちを紹介しておきたいのだ」

 吉右衛門は辰巳に視線を向け、挨拶をするように促す。

「初めまして、旅芸人兼冒険者の辰巳です」

「どうも、冒険者のユノウです」

「お初にお目にかかります。河越城家老大道寺直孝が娘、大道寺奈々でございます」

「三人は私の友人でな、こたびのもののけ退治に助太刀してくれるのだ」

「そうですか。では、お三方も先陣に加わるということでしょうか?」

「ああ。加わるには加わるが、共に行動する“だけ”だ」

 吉右衛門は“だけ”の部分を少し強調した。

(なるほど、自由にさせろってことか)

 正二郎はすぐにその意味を察した。

「わかりました。お三方、どうぞよろしくお願いいたします」
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