紙切り道中異世界見聞録

いんじんリュウキ

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第2章 北条家戦争

繰り返される悪夢

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「無事、浦賀水道を抜けられそうですね」

「んだな……」

 子分の話に対して、河童はどこか歯切れの悪い返事をした。

「あれ、なんかあるんですか?」

「んー、なんだか嫌な予感というか、胸騒ぎがするんでごんすよ」

「胸騒ぎですか……ん?」

 河童がそんな心境を吐露した矢先、妖怪たちが空の方を指差しながら何やら騒ぎ出したのだ。

「何事でごんすか?」

 次の瞬間、楯野から放たれた多数の対空ミサイルが提灯妖怪や一反木綿といった妖怪たちに次々と襲いかかっていったのだ。

「……」

 呆然とする河童を見下ろすようにミサイルは次々と飛来し、瞬く間に船団上空から妖怪たちの姿を消し去ったのである。

「う、嘘でごんしょぉ……」

 衝撃的な光景に河童は思わずよろめいてしまったが、それは他の妖怪たちも同様で、船団を引っ張っていた海坊主たちも衝撃のあまりその場で立ち止まってしまったのだ。

「お、親分……」

「と、とりあえず殿に報告するでごんす。お主は急いでクジラたちに連絡して、あの攻撃を放ったやつを見つけ出すでごんす」

「わ、わかりました」

 状況が飲み込めぬまま、河童は慌てて指示を出し、氏吉へのところへと急いだ。

 氏吉は安宅舟に設けられた天守閣、その最上部に座していた。

「殿、い、一大事でごんず」

 氏吉は不機嫌そうに河童の顔をにらみつけると、数秒ほど間をあけてから口を開いた。

「……わかっている。で、攻撃してきたやつの目星はついているのか?」

「いえ……ただ、瀬戸大将殿から報告のあった攻撃に似てごんしたので、同じやつによる攻撃の可能性が高いと思うでごんすが……いずれにせよ、今クジラたちに大急ぎで調べさせているところでごんす」

「絶対に探し出せ! そして見つけ次第抹殺しろ!」

「しょ、承知したでごんす」

 ものすごい剣幕に、河童は思わずたじろいだ。

「下がれ」

 河童は手で追い払われるように部屋から出ていった。

「くそっ! 忌々しい」

 爆発四散する提灯妖怪や一反木綿などの姿を目の当たりにした氏吉は、自らと同等かそれ以上の力を有している者がいることを実感し、強い苛立ちを覚えていた。



「対空戦闘終了しました。船団上空に飛行物体の姿はありません」

「わかりました。……あー、大和さん聞こえますか?」

 楯野からの報告を受け、ユノウはマイクを通して大和に声をかけた。

「ああ、いよいよ我の出番か?」

「はい、妖怪たちの船団に向けて巨弾をおみまいしちゃってください」

「わかった」

 大和は船団に向けて零式水上観測機を飛ばし、主砲の発射態勢に入る。

「ユノウ、大和さんはなんで飛行機を飛ばしたの?」

 意図がわからない辰巳は、素直に疑問を口にした。

「あの飛行機に弾着を測定させて、砲撃のズレとかを修正するんですよ」

「なるほど」

 それからおよそ五分、観測機から船団上空に到達したとの連絡を受けた大和は、満を持して主砲を発射。凄まじい爆音とともに黒煙と爆炎が砲口から噴き出し、三発の巨大な徹甲弾が空中へと解き放たれた。

「すげぇ……」

 初めて体験する戦艦の砲撃。その迫力に辰巳は圧倒されていた。

「さすが四六センチ砲、音からして桁違いですね」

「本当ですね。大和さんの主砲に比べたら、私のなんて副砲以下ですよ」

 ユノウや楯野も、間近で見た大和の砲撃に驚きを隠せないでいる。

「あれが命中したらひとたまりもないだろうな」

「それもそうですけど、相手は木造船による船団なので、直撃しなくても、周囲に砲弾が落下するだけでそれなりにダメージを与えられるはずですよ」

 ほどなくして、ユノウの言葉は現実のものとなるのであった。
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