紙切り道中異世界見聞録

いんじんリュウキ

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第2章 北条家戦争

将軍御前興行

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 その頃、秀時は宿老のひとりである徳川綱吉つなよしと、バケモノ騒ぎについて意見を交わしていた。

「まさか、北条の件が飛び火してきたのではあるまいな」

 険しい表情で話をしているのが、四代将軍の羽柴秀時。幼少の頃から将軍としての帝王学をみっちりと叩き込まれていたこともあって、凛々しい顔立ちとがっちりとした筋肉質の体からは、将軍としての威厳と自信があふれ出ていた。

「なんとも言えませんが、その可能性は否定できないかと……」

 困惑した顔で返答をしている綱吉は、徳川家の人間として初めて宿老に抜擢された人物である。幼少の頃から勉学に励んだ秀才であり、母親思いのやさしい人間でもあった。

「やれやれ、おじじ様が冒険者になられて早々、こんなことが起こるとは……」

 秀時がそんな愚痴をこぼした矢先、当の本人が姿を現したのだ。

「お、おじじ様!?」

「今戻ったぞ」

「お帰りなさいませ」

 二人が驚いていることなど気にも留めず、吉右衛門は悠然と秀時の隣に腰を下ろし、辰巳とユノウは周りの様子をうかがいながら下座に座った。

「北条の件について話すために戻ってきたのだが、その前に紹介しておこう。私の冒険者仲間である辰巳殿とユノウ殿だ」

「お初にお目にかかります。旅芸人兼冒険者の、辰巳と申します」

 辰巳は少し緊張した様子で丁寧に挨拶をした。

「はじめまして、冒険者のユノウでございます」

 ユノウも相手が天下の将軍ということもあってか、いつになく丁寧に挨拶をした。

「辰巳殿は紙魔法というすごい力の持ち主でな。その力によって呼び出された空飛ぶ召喚獣に乗って、大坂まで戻ってきたのだ」

「……では、この騒ぎの原因はおじじ様なのですか?」

「そのとおりだ」

「はぁ……」

 秀時は困ったような顔で小さくため息をついた。

「何やら騒がせてしまったようで悪かったな。さて、北条の件についてだが、無事終結したぞ」

 吉右衛門は騒ぎを起こしたことについてさらっと流すと、そのまま本題に入った。

「え、もう終わったのですか? 書状が届いてからほとんど日が経っておりませんが……」

 当然ながら、秀時はすぐに話を飲み込むことができない。

「信じられんだろうが、辰巳殿の活躍によってあっという間に終わったのだ」

「はぁ……」

 秀時は半信半疑な様子で辰巳の方へ視線を向けた。

「百聞は一見に如かずだ。辰巳殿、何か適当に呼び出してもらえないか?」

「いいですよ」

 辰巳は紙とハサミを取り出すと、手早く何かを切り始めた。

「出でよ、ウサギの餅つき」

 眩い光とともに姿を現したのは、餅つきをするかわいらしいウサギであった。

「はい」

「はいよ」

「はい」

「はいよ」

 二羽の白いウサギはぺったんぺったんと軽快なリズムで餅をついていく。

「おぉ」

 秀時は目を丸くしていた。

「ではこの辺で速度を上げて、高速餅つき!」

「はい」

「はいよっ」

「はい」

「はいよっ」

「はい」

「はいよっ」

 ウサギたちは目にも止まらぬ早業で餅をついていく。

「すごいな」

 秀時はその妙技に目が釘付けになる。

「はいよっと」

 ウサギはつきあがったことを示すように、餅を軽く持ち上げ、そのままパーンっと臼の中に叩きつけた。

「見事!」

 秀時は自身の右膝をパンっと叩き、ウサギたちの餅つきを褒め称えた。

「ありがとうございます」

 ウサギたちは誇らしげな顔でお辞儀をした。

「ご苦労様です。もう戻っていいですよ」

 辰巳の言葉を聞いて、ウサギたちは再度お辞儀をし、そのままスーッと姿を消した。

「どうだ秀時、紙魔法はすごいだろ」

 吉右衛門に聞かれた秀時は、素直にうなずく。

「はい、あのように早い餅つきは初めて見ました」

「辰巳殿が呼び出すものたちは、皆あのように高い技量の持ち主でな。見たこともないようなすごい攻撃を持っているものもいるのだ。では、秀時が紙魔法のすごさを理解したところで……」

 吉右衛門が改めて北条の件について話そうとした時、自身の息子と母親の姿が視線の中に入ってきたのだ。
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