雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ

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第四章 賢姫の追放

第十三話

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 舞姫ウージェンが後宮を去った夜、宴の後にまた陛下が私の元へと通った。

 上級妃がにあった直後と、彼女たちが後宮を去った後、陛下が私の元へ通うのが習慣になっているのを感じながらも、私はいつものように従者を下げて陛下との時間をじっと耐えた。

「――次は賢姫シェンチェンを追い出してくれ」

 満足したご様子の陛下は、身支度を整えている最中の私をニヤニヤと眺めながらそう言った。

「……賢姫様ですか? なぜです?」

 陛下は今まで、上級妃を排除したいと言いながらも特定の人物名を上げることはなかったのだが……今回はなぜか賢姫を排除しろと名指しで言ってきた。

 そのことを純粋に疑問に感じた私は、陛下に聞き返した。

「残っている上級妃は賢姫、美姫メイジェン夜姫イェチェンの三人であろう。その中で一番いらぬのは賢姫だからだ」

 陛下はあっけらかんと、そう言いのけた。

 どこまでも傲慢で自分勝手な男……怒りを通り越して呆れ果てていると、また疑問が湧いてきた。

「……では、なぜ賢姫を上級妃になさったのですか?」

 私がそう尋ねると、陛下はニヤニヤとしながら私の腰に手を回してきた。

 ……何かいらぬ勘違いをなさっているらしいが、さっさと答えてほしいと目で訴えると、陛下は何かに満足したように良いだろうと言って答え始めた。

「アレはもともとは後宮付きの女官だったのだが、余のためによく働いていたので側妃として迎えてやった」

 せっかく真面目に働いていた人材を側妃に召し上げてどうする……とまた呆れたが、口元を袖で隠して特に口は挟まなかった。

「美貌も芸もない、取り立てたところのない平凡な女であったが……よく口の動く女で、通う度に女のについて語ってきてな」

 私はあまりのことに驚いて、口元を袖で隠した状態のまま思わず固まってしまった。

「他の側妃と違って、見識が広く話が面白かったので『賢姫』という名を与えて上級妃にしてやったのだ」

 けれど陛下はそんな私の様子などお構いなしに、話を続ける。

「えっと……賢姫様は女性と通じていらっしゃるのですか……?」

 側妃でありながら宦官と通じているということならば後宮の中ではよく聞くが、女性と通じているなんて……聞いたことがないし、それを夫である陛下に恥ずかしげもなく話すなど前代未聞だ。

「あぁ、何人かの女官・侍女と通じている」

 陛下はまたあっけらかんと答えている。

「最初に話をきいたときには驚いたが、面白かったので数人の下級妃たちのもとにも通わせ、その時のことを話させている」

 その姿には自分の妻が他の女と通じていることを嫌がる様子も、不思議に思っている様子もなかった

「余の女同士が通じているというのも一興でな……その話を聞いた後、その下級妃のもとに通うのがまた良いのだ」

 さらに陛下は続けて、実に楽しそうにそう話した。

 むしろ陛下の方が面白がって賢姫の行動を助長しているという……貞淑が重要な後宮の女に、この男は何をさせているのかと呆れた。

 後宮では当たり前なのだろうか……私には理解し難いが、いや、本人たちがそれで満足しているのであればよいだろうと、無理やり自分を納得させた。

「そんな面白い賢姫様はもう不要だと……?」

 楽しそうに話している陛下を見て、じゃぁなぜ? という疑問が湧いたのでさらに尋ねると、陛下は悩ましい顔をしながら答える。

「アレの話は面白いのだが、それ以外の面白みがない。ならば目でも身体でも余を楽しませる、他の上級妃の方が良い」

 悩んだ末に出した答えがそれか……なんと醜悪な存在か。

 賢姫の行動にはただ驚くばかりだったが、この男の言動には呆れるばかり。

 思わず侮蔑の心が顔に漏れ出しそうになったが、袖口で顔を隠してやり過ごした。

 やりたいことをやって、言いたいことを言って満足したらしい陛下は、では頼んだぞと言って私の宮から去っていった。

 ――しかし賢姫が女性と通じているという話は知らなかったし、それを陛下も容認している……なんなら本人から話を聞いて楽しんでいるというのは驚きだった。

 これが宦官と通じているということであれば、重大な裏切り行為・陛下だけの女であるべき妃として許されざる行為だが、陛下にとっては女同士で通じていることは特に気にしていないらしい。

 いや、それを賢姫が嬉々として語っているから気にしていないのかもしれないな。

 宴で舞台に上がる歌姫・舞姫、陛下の隣をいつも陣取っている美姫・夜姫と違って、大人しく陛下の側に座っているだけの平凡な女性だと思っていたが……いや、見た目で勝手にそうだと思い込んでいた私に落ち度があるな。

 これは賢姫について慎重に調査してから、行動に移したほうが良いかもしれないな。
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