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第四章 賢姫の追放
第十五話
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私は今宵の宴を休み、自分の宮で長椅子に座って優雅にお茶を飲んでいた。
するとガサガサと草木の中で何かが暴れている音と、何者かが抵抗している声が窓の外から聞こえてきたので、私は口角を上げながら、その客人が私の前までやってくるのを待った。
――私の従者に手首を抑えられ、苦悶の表情を浮かべながら一人の女が入ってきた。
その女は息を荒くしながら身じろいで拘束を解こうとしているが、私の従者はまるで動じずに無表情で彼女のことを抑えつけていた。
「……まず、あなたのお名前は?」
私はにっこりと微笑みを浮かべ、穏やかな口調でそう尋ねるが、女はふいっと顔を反らして何も話さない。
「……では、雇い主のお名前は?」
また尋ねてみても、女は何も言わない。
このまま質問を繰り返しても、意味はないだろう……私はさっさと核心をつくことにした。
「あなたは賢姫様の侍女ですね」
するとその女はバッと顔を上げ、驚愕・戸惑い・焦りの表情をしながらこちらを見つめている。
私はその分かりやすい反応がおかしくて、クスッと笑いながら口元を袖で隠した。
この程度の質問で反応を示すなんて、賢姫様の従者教育は随分ずさんな様ね。
「彼女の所持品は?」
私が従者にそう尋ねると、彼女を抑えつけている従者とは別の従者が静かに現れ、液体が入った小瓶と火のついたろうそくを持ってきた。
小瓶を受け取って蓋を開け、香水のように香りを確かめてみると油の臭いがした。
「なるほど。目的は私の宮への放火……ですか。これは賢姫様の指示ですか?」
私がまた尋ねてみるも、女は何も語らない。
なので私は手をさっと上げて、従者に指示を出す。
「ガハッ……ッ!」
すると彼女を抑えつけていた従者が、彼女の腹部を拳で殴る。
彼女は耐えきれずに声を漏らしながら膝から崩れ落ちそうになるが、従者がそれを許さずに無理やり体勢を起こさせる。
その女は何が起こったのか分からないという顔をしながら、ブルブルと身体を震わせ、不安と恐怖が入り交じる目でこちらを見つめてきた。
私は興奮が表情に出てしまいそうになるのをグッと抑え、袖で口元を隠しながら彼女に語りかける。
「……安心してください。夜は長いですから。あなたが話したくなるのを、私はゆっくり待ちますわ」
にっこりと微笑み、私がまた手を挙げると従者が彼女の腹を殴る。
私は彼女が本当のことを話してくれるようになるのを、従者に入れさせた新しいお茶を飲みながら待った。
――翌朝、私は陛下の御前にその女を連れて行った。
従者に投げ捨てられるようにされた女は、乾いた吐瀉物を服にこびりつかせ、衣服も髪も乱れたボロボロの状態でぐったりと倒れ込んでいる。
陛下はうっ……と後ろに反るようにしながら顔を背け、引き気味にその女を見ていた。
「昨夜、私の宮に現れた賢姫様の侍女です。陛下の関心を惹く私を邪魔に思われる賢姫様の指示で、私の宮を放火しようとしていたそうです」
私は彼女が話してくれたことを、淡々と陛下に伝える。
「つきましては、この場で賢姫様のお話を伺いたく存じます」
そう告げると、まだ引き気味ではあるものの陛下が分かったと言って使いの者を出し、すぐに賢姫が陛下の宮までやってきた。
やってきた賢姫は最初、使いの者が半ば無理やり連れてきたことに不満げな様子だったが、床に転がっている侍女、陛下の隣に立っている私を見て、すぐに顔を青くしてその場にへたり込んでいた。
「なぜ呼び出したかは、分かっているな」
陛下がそう尋ねても、賢姫は言葉にならないうめき声を漏らすだけで、否定も弁明もできずにいる様子。
その様子がおかしくて私は笑い出しそうになったが、口元を袖で隠してグッと堪える。
「なぜ、このようなことをした」
陛下がさらに尋ねるが、賢姫の様子は変わらない。
私は笑いを堪えるのに必死だったが、陛下の方は呆れ返っているらしく、はぁ……とため息を漏らしていた。
「……そちは散り際も、余を楽しませぬのだな」
自分勝手な陛下のお言葉に私の方が呆れ果てていると、何かが切れたかのように賢姫が突然大きな声で笑いだした。
なぜ笑っていると陛下に尋ねられても、言葉など聞こえていないように、身体を脱力させながら全力で笑い続ける賢姫。
……あらあら、壊れてしまったようですわね。
「……もう良い。誰か、その者を生家まで送り返せ」
陛下の指示に返事をした従者は、脱力する賢姫を引きずるように宮から出し、そのまま牛車に押し込められていた。
私は賢姫の騒々しく醜い散り際を、陛下の隣でクスクスと笑いながら最後まで楽しんだ。
するとガサガサと草木の中で何かが暴れている音と、何者かが抵抗している声が窓の外から聞こえてきたので、私は口角を上げながら、その客人が私の前までやってくるのを待った。
――私の従者に手首を抑えられ、苦悶の表情を浮かべながら一人の女が入ってきた。
その女は息を荒くしながら身じろいで拘束を解こうとしているが、私の従者はまるで動じずに無表情で彼女のことを抑えつけていた。
「……まず、あなたのお名前は?」
私はにっこりと微笑みを浮かべ、穏やかな口調でそう尋ねるが、女はふいっと顔を反らして何も話さない。
「……では、雇い主のお名前は?」
また尋ねてみても、女は何も言わない。
このまま質問を繰り返しても、意味はないだろう……私はさっさと核心をつくことにした。
「あなたは賢姫様の侍女ですね」
するとその女はバッと顔を上げ、驚愕・戸惑い・焦りの表情をしながらこちらを見つめている。
私はその分かりやすい反応がおかしくて、クスッと笑いながら口元を袖で隠した。
この程度の質問で反応を示すなんて、賢姫様の従者教育は随分ずさんな様ね。
「彼女の所持品は?」
私が従者にそう尋ねると、彼女を抑えつけている従者とは別の従者が静かに現れ、液体が入った小瓶と火のついたろうそくを持ってきた。
小瓶を受け取って蓋を開け、香水のように香りを確かめてみると油の臭いがした。
「なるほど。目的は私の宮への放火……ですか。これは賢姫様の指示ですか?」
私がまた尋ねてみるも、女は何も語らない。
なので私は手をさっと上げて、従者に指示を出す。
「ガハッ……ッ!」
すると彼女を抑えつけていた従者が、彼女の腹部を拳で殴る。
彼女は耐えきれずに声を漏らしながら膝から崩れ落ちそうになるが、従者がそれを許さずに無理やり体勢を起こさせる。
その女は何が起こったのか分からないという顔をしながら、ブルブルと身体を震わせ、不安と恐怖が入り交じる目でこちらを見つめてきた。
私は興奮が表情に出てしまいそうになるのをグッと抑え、袖で口元を隠しながら彼女に語りかける。
「……安心してください。夜は長いですから。あなたが話したくなるのを、私はゆっくり待ちますわ」
にっこりと微笑み、私がまた手を挙げると従者が彼女の腹を殴る。
私は彼女が本当のことを話してくれるようになるのを、従者に入れさせた新しいお茶を飲みながら待った。
――翌朝、私は陛下の御前にその女を連れて行った。
従者に投げ捨てられるようにされた女は、乾いた吐瀉物を服にこびりつかせ、衣服も髪も乱れたボロボロの状態でぐったりと倒れ込んでいる。
陛下はうっ……と後ろに反るようにしながら顔を背け、引き気味にその女を見ていた。
「昨夜、私の宮に現れた賢姫様の侍女です。陛下の関心を惹く私を邪魔に思われる賢姫様の指示で、私の宮を放火しようとしていたそうです」
私は彼女が話してくれたことを、淡々と陛下に伝える。
「つきましては、この場で賢姫様のお話を伺いたく存じます」
そう告げると、まだ引き気味ではあるものの陛下が分かったと言って使いの者を出し、すぐに賢姫が陛下の宮までやってきた。
やってきた賢姫は最初、使いの者が半ば無理やり連れてきたことに不満げな様子だったが、床に転がっている侍女、陛下の隣に立っている私を見て、すぐに顔を青くしてその場にへたり込んでいた。
「なぜ呼び出したかは、分かっているな」
陛下がそう尋ねても、賢姫は言葉にならないうめき声を漏らすだけで、否定も弁明もできずにいる様子。
その様子がおかしくて私は笑い出しそうになったが、口元を袖で隠してグッと堪える。
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私は笑いを堪えるのに必死だったが、陛下の方は呆れ返っているらしく、はぁ……とため息を漏らしていた。
「……そちは散り際も、余を楽しませぬのだな」
自分勝手な陛下のお言葉に私の方が呆れ果てていると、何かが切れたかのように賢姫が突然大きな声で笑いだした。
なぜ笑っていると陛下に尋ねられても、言葉など聞こえていないように、身体を脱力させながら全力で笑い続ける賢姫。
……あらあら、壊れてしまったようですわね。
「……もう良い。誰か、その者を生家まで送り返せ」
陛下の指示に返事をした従者は、脱力する賢姫を引きずるように宮から出し、そのまま牛車に押し込められていた。
私は賢姫の騒々しく醜い散り際を、陛下の隣でクスクスと笑いながら最後まで楽しんだ。
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