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第四章 賢姫の追放
第十六話
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その夜、いつもどおりに開催された宴に参加した。
陛下の周りは今まで上級妃たちで溢れかえっていたが、今では美姫と夜姫がその両隣を独占している。
宴が変わらずに開催されていること、ガハハッと笑いながら酒を浴びるように飲んで楽しげにされていることを思うと、陛下は特に寂しさなどは感じられていないらしい。
むしろこころなしか、いつもより酒が進んでいるように見える。
美姫と夜姫も元から上級妃は二人であったかのように、当たり前のように陛下の両脇におさまって、いつもと変わらない様子。
上級妃が立て続けに三人もいなくなったというのに、後宮とは随分他人に無関心な場所だなと、その隣で微笑みながら思っていた。
宴が終わると、やはり陛下がやってきた。
けれどいつものように興奮した様子はなく、陛下は酔っ払って顔は真っ赤ではあるものの、その表情はどこか不満げだった。
「……いかがなさいましたか、陛下」
私がそう尋ねると、不満げな様子の陛下は答える。
「此度の花の散り際、余は満足しておらぬ」
酔っ払って少し呂律が回っていないし、少しだけ足元もおぼつかないが、目元にシワを寄せて威厳のある表情をしながらそう言う陛下。
「……と、申されますと?」
私が怪訝な表情を袖口で隠しながらそう尋ねると、陛下はさらに言葉を続ける。
「面白くなかったと言っているのだ! そちは余を楽しませる女、遊姫であろう! 余を楽しませろ!」
荒々しくそう言う陛下に、内心は呆れながらもスッと最敬礼の姿勢を取って、陛下の前で跪く。
「それは申し訳ございません。次こそは、陛下を楽しませてご覧に入れます」
そうすると陛下は満足そうにムフーと鼻息を荒くしながら、私の腕を掴んで寝台に押し倒した。
満足していようと不満であろうと、結局コレか……とうんざりしながらも、私はいつものように従者を下がらせて陛下との時間をじっと耐えた。
「あー……目の前が輝いておる」
――事が終わって満足げな陛下は、少しだけ酔いが冷めたのかいつもの陛下に戻っていた。
寝台の上で大の字になりながらぼんやりと天井を眺めている陛下に、私は寝台横の机に置いていた水差しから盃に水を注いで渡す。
少しだけ身体を起こして陛下がそれを受け取ると、ゴクゴクと一気に飲み干し、やっと一息ついたようだった。
あんなに酔っ払うほど賢姫の去り際が不服だったのかと思いながらも、どんなに酔っ払っても男として事に及べる陛下に、私はもはや呆れを通り越して感心していた。
「――して、賢姫には何をしたのだ?」
陛下がもういっぱいと盃をこちらに差し出しながら、いつものように何をしたのかと尋ねてくる。
「……何もしておりません」
私は陛下の盃に水を注ぎながら、淡々と答えた。
水を注ぎ終わって陛下の方を見てみると不思議そうな顔をしていたので、私はさらに説明を続けた。
「彼女は一人で私に向かってきて、一人で暴走して、一人で散っていきました。私は暴走した彼女を捕まえただけで、罠を張ったわけでも何かけしかけたわけでもございません」
私の説明を聞いた陛下は、ふむと静かに髭を撫でる。
「そうか……賢い女だと思っていたのだが……」
そう言って、残念そうに呟いていた。
彼女は賢くないです、あなたの人を見る目がないのですと喉まででかかったが、口元を袖で隠してグッと抑え込んだ。
そして……そんな阿呆な彼女が上級妃になるために、努力していたことは認めてほしいとも思ってしまったが、静かに口をつぐんで止めた。
陛下という立場の人間に側妃の努力など言ったところで何の意味もないし、意にも介さないだろう。
それに私が賢姫をかばう理由もない。
私は袖で口元を隠しながら、残念でしたねと微笑むことにした。
――結局、賢姫は牛車に押し込まれたまま生家に送り返されたらしく、彼女の宮にあった荷物や侍女たちはその後を追うように、慌ただしく生家へと送られた。
翌日、残されていたのはいつもの静かな後宮だけ。
賢姫のことを思い出すと、阿呆な女が権力を持つとろくな事がないという、良い例だったなと思う。
同情する部分もあるが、彼女自身のせいである部分も大きいから、そこまで憐れむ気持ちもない。
賢姫は私の琵琶を壊そうとしたり、私の住まいに火をつけようとしたりしたが……まぁ、あの壊れたまま笑う姿に免じて、許して差し上げましょう。
私は賢姫のことなどさっさと忘れて、次の計画に胸を躍らせていた。
――邪魔者三人目、排除完了――。
陛下の周りは今まで上級妃たちで溢れかえっていたが、今では美姫と夜姫がその両隣を独占している。
宴が変わらずに開催されていること、ガハハッと笑いながら酒を浴びるように飲んで楽しげにされていることを思うと、陛下は特に寂しさなどは感じられていないらしい。
むしろこころなしか、いつもより酒が進んでいるように見える。
美姫と夜姫も元から上級妃は二人であったかのように、当たり前のように陛下の両脇におさまって、いつもと変わらない様子。
上級妃が立て続けに三人もいなくなったというのに、後宮とは随分他人に無関心な場所だなと、その隣で微笑みながら思っていた。
宴が終わると、やはり陛下がやってきた。
けれどいつものように興奮した様子はなく、陛下は酔っ払って顔は真っ赤ではあるものの、その表情はどこか不満げだった。
「……いかがなさいましたか、陛下」
私がそう尋ねると、不満げな様子の陛下は答える。
「此度の花の散り際、余は満足しておらぬ」
酔っ払って少し呂律が回っていないし、少しだけ足元もおぼつかないが、目元にシワを寄せて威厳のある表情をしながらそう言う陛下。
「……と、申されますと?」
私が怪訝な表情を袖口で隠しながらそう尋ねると、陛下はさらに言葉を続ける。
「面白くなかったと言っているのだ! そちは余を楽しませる女、遊姫であろう! 余を楽しませろ!」
荒々しくそう言う陛下に、内心は呆れながらもスッと最敬礼の姿勢を取って、陛下の前で跪く。
「それは申し訳ございません。次こそは、陛下を楽しませてご覧に入れます」
そうすると陛下は満足そうにムフーと鼻息を荒くしながら、私の腕を掴んで寝台に押し倒した。
満足していようと不満であろうと、結局コレか……とうんざりしながらも、私はいつものように従者を下がらせて陛下との時間をじっと耐えた。
「あー……目の前が輝いておる」
――事が終わって満足げな陛下は、少しだけ酔いが冷めたのかいつもの陛下に戻っていた。
寝台の上で大の字になりながらぼんやりと天井を眺めている陛下に、私は寝台横の机に置いていた水差しから盃に水を注いで渡す。
少しだけ身体を起こして陛下がそれを受け取ると、ゴクゴクと一気に飲み干し、やっと一息ついたようだった。
あんなに酔っ払うほど賢姫の去り際が不服だったのかと思いながらも、どんなに酔っ払っても男として事に及べる陛下に、私はもはや呆れを通り越して感心していた。
「――して、賢姫には何をしたのだ?」
陛下がもういっぱいと盃をこちらに差し出しながら、いつものように何をしたのかと尋ねてくる。
「……何もしておりません」
私は陛下の盃に水を注ぎながら、淡々と答えた。
水を注ぎ終わって陛下の方を見てみると不思議そうな顔をしていたので、私はさらに説明を続けた。
「彼女は一人で私に向かってきて、一人で暴走して、一人で散っていきました。私は暴走した彼女を捕まえただけで、罠を張ったわけでも何かけしかけたわけでもございません」
私の説明を聞いた陛下は、ふむと静かに髭を撫でる。
「そうか……賢い女だと思っていたのだが……」
そう言って、残念そうに呟いていた。
彼女は賢くないです、あなたの人を見る目がないのですと喉まででかかったが、口元を袖で隠してグッと抑え込んだ。
そして……そんな阿呆な彼女が上級妃になるために、努力していたことは認めてほしいとも思ってしまったが、静かに口をつぐんで止めた。
陛下という立場の人間に側妃の努力など言ったところで何の意味もないし、意にも介さないだろう。
それに私が賢姫をかばう理由もない。
私は袖で口元を隠しながら、残念でしたねと微笑むことにした。
――結局、賢姫は牛車に押し込まれたまま生家に送り返されたらしく、彼女の宮にあった荷物や侍女たちはその後を追うように、慌ただしく生家へと送られた。
翌日、残されていたのはいつもの静かな後宮だけ。
賢姫のことを思い出すと、阿呆な女が権力を持つとろくな事がないという、良い例だったなと思う。
同情する部分もあるが、彼女自身のせいである部分も大きいから、そこまで憐れむ気持ちもない。
賢姫は私の琵琶を壊そうとしたり、私の住まいに火をつけようとしたりしたが……まぁ、あの壊れたまま笑う姿に免じて、許して差し上げましょう。
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