雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ

文字の大きさ
23 / 40
第六章 夜姫の追放

第二十三話

しおりを挟む
 夜姫イェチェンの宮から戻ってきてしばらくすると、すぐに宴の時間がやってきた。

 いつもだったら宴の時間がやってくると億劫だったけれど、今の私は心踊らせていた。

  今日がになるとは決まっていないけれど、私は心のどこかで今日がその日になるだろうと確信めいたものを感じていた。

 だから私は少しだけ宴への参加を遅らせ、従者の一人に夜姫の宮を監視しておくように指示を出してから、ゆっくり宴の会場へと向かった。

 会場に着くと、陛下が数人の下級妃を侍らせて楽しそうにしていた。

「おぉ! 遊姫ヨウチェン! やっと来たか」

 陛下は私を見かけるとそう声をかけてきたけど、お前も飲めといつも通りガハハッと笑うだけで、側に来いと言うことはなかった。

 陛下の周りを見てみるが、夜姫の姿はない。

 ……やっぱり。

 そう思ってクスッと笑ってしまったが、すぐに口元を袖で隠して、陛下から少しだけ離れた懐かしい席に腰をおろした。

 チラリと横を見てみると、陛下の周りではいつも以上に女のかしましい声が響き渡っている。

 下級妃にとっては上級妃が減り、残った二人も不在……陛下に上級妃として見初めてもらうまたとない好機だから、気合が入っているのだろう。

 私はそれへの興味をすぐになくし、目の前に置かれた料理を従者に毒味させてから、久しぶりの夕餉に舌鼓をうつ。

 私がいない間に下級妃の誰かが毒を盛る可能性も考えていたが、その心配も杞憂だったか。

 そんなことを考えながら食事をしていると、夜姫の宮を監視させていた従者がやってきて、私にこっそりと耳打ちしてくる。

 その内容を聞いた私はニヤリと笑ってしまう口元を袖で隠しながら、席を立って陛下の元へと向かう……私が陛下の前に跪くと、すっかり出来上がっている様子の陛下が、お? どうした? と嬉しそうに尋ねてきた。

 陛下の周りにいた下級妃は怪訝そうな顔をしてこちらを見てきたが、陛下と二人きりにしてくださる? と言うと、何も言えずに後ろのいつもの席へと下がっていった。

 そして私は、下級妃たちのいなくなった陛下の横にしなだれかかるように座りながら、こっそり陛下の耳元に口を寄せる。

「陛下、ぜひ御覧いただきたいものがございます。少しだけ、宴を抜け出しませんか?」

 顔を離してニッコリと微笑むと、陛下はニヤリと口角を上げて良かろうと答えた。

 向かう場所は、もちろん夜姫の宮。

「さて、そちは何を見せるのか……楽しみだ」

 陛下はそう言いながら夜姫の宮にズカズカと入っていくので、私はニッコリと微笑みながら寝所へと答え、その後に続いた。

 夜姫の宮に入ると、廊下で出会う彼女の侍女たちがヒュッと声を失って青ざめ立ちすくんでいたので、私は静かに微笑んでその横を通過する。

 夜姫の寝所に近づくと、だんだん彼女の甘い声が聞こえ始めてくる。

 陛下はこれから目の当たりにするものに気がついたのか、なるほど……と声を漏らしながらニヤリと笑っていた。

 寝所の前まで来るといよいよ恥ずかしげもなく夜姫のが響き渡っていたが、陛下は笑った顔を威厳のある顔に整えてから、スパーンッと寝所の扉を開けた。

 目の前には寝台に横たわりながら驚愕の表情でこちらを見ている裸の夜姫と、彼女に覆いかぶさるようにしながら顔だけ振り返り、事態を把握して青ざめている宦官が見えた。

 私はその時点で吹き出しそうになったが、口元を袖で隠して成り行きを見守る。

「……何をしておる、夜姫」

 陛下は冷めた目で夜姫を見下しながら、低い声でそう尋ねる。

「へ、陛下……こっ、これは……」

 夜姫の方は布団で懸命に肌を隠しながら言い訳の言葉を探しているようだが、宦官の方は寝台から飛び降りるように土下座し、観念したように震えている。

「ほ、ほんの遊びなんですの。ほんの出来心で……」

 夜姫が震える声で絞り出すように言った言葉は、何とも陳腐なものだった。

 陛下はなおも冷たい目で、ただ静かに夜姫を見下している。

 そんな陛下の顔を見た夜姫は身体をビクッと震わせたかと思うと、慌てて寝台を降りて陛下の元へと駆け寄り、陛下の身体に縋るようにしながら、実にいやらしい手付きで身体を撫でる。

「真に愛しているのは陛下だけなのです。信じてください……!」

 困惑・恐怖が入り乱れる笑顔を見せながら、そう懇願する夜姫。

 陛下はそんな夜姫の肩を掴んだかと思うと、グイッと押しのけ、夜姫は押しのけられた勢いで体勢を崩して床に無様に転がる。

「貞操なき女に価値はない」

 陛下は床に転がる夜姫を見下しながらただ一言そう告げて、もうその女に興味はないと言わんばかりに踵を返し、足早に出口へ向かった。

「あ……」

 夜姫は言葉をなくし、絶望の表情でへたり込んでいた。

 私はその表情を見て満足したので、口元を袖で隠しながら陛下の後を追って夜姫の宮を後にした。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜

矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。 王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。 『…本当にすまない、ジュンリヤ』 『謝らないで、覚悟はできています』 敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。 ――たった三年間の別れ…。 三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。 『王妃様、シャンナアンナと申します』 もう私の居場所はなくなっていた…。 ※設定はゆるいです。

婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。 だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。 もしかして、婚約破棄⁉

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

【完結】裏切られたあなたにもう二度と恋はしない

たろ
恋愛
優しい王子様。あなたに恋をした。 あなたに相応しくあろうと努力をした。 あなたの婚約者に選ばれてわたしは幸せでした。 なのにあなたは美しい聖女様に恋をした。 そして聖女様はわたしを嵌めた。 わたしは地下牢に入れられて殿下の命令で騎士達に犯されて死んでしまう。 大好きだったお父様にも見捨てられ、愛する殿下にも嫌われ酷い仕打ちを受けて身と心もボロボロになり死んでいった。 その時の記憶を忘れてわたしは生まれ変わった。 知らずにわたしはまた王子様に恋をする。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...