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第十章 遊姫の追放
第四十話
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生家での穏やかな日々、後宮に来てからの騒がしい日々、未来との充実した幸せな日々……私の人生、色々あったな。
私の騒がしい頭の中と相反するように、目の前には静まり返った後宮が広がる。
「プッ……アッハッハッハッハッ!」
広々とした場所に一人でいる私の状況にだろうか、目の前の光景と記憶の中の光景があまりにも違うためだろうか……唐突に全てが可笑しくて、笑いが溢れ出て止まらなくなってしまった。
口元を袖で隠して止めようとも思ったが、隠す必要性がないと気付いて辞め、腹を抱えて笑った。
「クックック……アッハッハッハッ……!」
後宮にはもう誰もいない。
上級妃も前皇帝も……邪魔者を排除して、私は安全で広々とした終の棲家を手に入れることができた!
私を侮り嫌がらせをしてくる上級妃も、いやらしい目つき・手付きで絡み付いてくる前皇帝もいない!
もう私の嫁ぎ先に悩む父の顔を見なくて済む、子供ができない身体を恨めしく思うこともない、大好きな弟を自分の居場所を奪う存在だと憎々しく思うこともない!
全ては計画通りにうまくいった!
こんなにも面白い人生は、望んだって送ることはできないだろう!
私はついに望んだ幸せを手に入れることができた。
「ハァ……こんなに声を出して笑ったのは初めてだわ!」
私はこれみよがしに大声を出し、自分の宮には入らずに駆け出して、宮の前で両手を広げてくるくると回ってみせた。
こんなことをしていても誰も見ていない聞いていないから、誰にも何も言われない。
何も思われない。
何を考えているのだろうと、私が心を砕く必要もない。
なんて自由……!
チラリと見ると、従者たちは特に何も言わず、変わらず無感情・無表情にそこに立っている。
これらは私の手足になるため、感情を持たないように作った私だけの従者……だから私が何をしようとも何とも思わないし、何も反応はしない。
反応するのは、私が命令を出したときだけ。
だから私が暴漢に襲われようとも、毒で倒れようとも……指示をしていなければ、慌てることも助けることもなく、その場に変わらずただ立っているだろう。
そういう風に、私がつくった。
だからこれらは人間と数えない……私は一人だ!
ずっと望んでいた。
誰もいないところで、何にも縛られずに暮らしたいと。
ずっと宰相の娘という立場に縛られ、周囲の視線や言動に気を配って生きてきた。
後宮に来てからも変わらない……ずっと上級妃や下級妃が何か仕掛けてこないか気を配って、前皇帝のご機嫌を窺って、誰にも知られないように仕事をこなしてきた。
ずっと口元を隠しながら、本心を隠して生きてきて……自由がなかった。
「でも今は一人! なんて幸せ!」
私はそう叫びながら、また大きな笑い声を上げながらくるくると舞い踊るように一人ではしゃぐ。
人生で初めての経験に、私は高揚していた。
けれど、フッと未来のことを思い出してしまって、緩やかに笑いと足が止まっていく。
……これは私の望んだ幸せ。
だけど、私は知ってしまった。
本当の幸せを。
思い出すのは未来との慌ただしく、忙しい日々。
初めて自分が望んでしたこと……密かに憧れながらも、自分には永遠に訪れないと思っていた幸せに囲まれた日々。
でも、もうそんな日々も終わった。
……彼女に全てを伝えられて良かった。
それだけで、私は生まれてきて良かったのだと……自分が産まれてきた意味が感じられたし、自分の人生にも価値があったのだと思えた。
あぁ……もっと望めるのであれば、彼女のこれからの人生を見守りたかった。
夫婦関係で悩むことはないだろうか、苦労することはないだろうか、泣くことはないだろうか……もし彼女の子供が産まれるのならば、お疲れ様と、よくやったねと声をかけて彼女を労いたい。
できれば、彼女の子供をこの腕に抱きたい。
「フッ……クックック……アッハッハッハ……!」
そこまで想像して、また笑いがこみ上げてきた。
そんなこと、できるはずがないのだから!
なぜなら私の計画は完璧に遂行されて、私に待っているのはこの誰もいない後宮での静かな人生の終わりだけだから!
未来も家族もいないこの後宮で、私は誰にも知られることなく、ひっそりと一生を終える。
これは私の望んだ幸せ。
未来と過ごした時間は予想外の幸せで……きっと上級妃を後宮から追い出し、前皇帝を殺した私に対する罰だったのだろう。
なんて自業自得!
そう思うと笑わずにはいられない。
私は泣くこともできず、ただひたすらに誰もいなくなった後宮で高らかに笑い声を響かせた。
私の騒がしい頭の中と相反するように、目の前には静まり返った後宮が広がる。
「プッ……アッハッハッハッハッ!」
広々とした場所に一人でいる私の状況にだろうか、目の前の光景と記憶の中の光景があまりにも違うためだろうか……唐突に全てが可笑しくて、笑いが溢れ出て止まらなくなってしまった。
口元を袖で隠して止めようとも思ったが、隠す必要性がないと気付いて辞め、腹を抱えて笑った。
「クックック……アッハッハッハッ……!」
後宮にはもう誰もいない。
上級妃も前皇帝も……邪魔者を排除して、私は安全で広々とした終の棲家を手に入れることができた!
私を侮り嫌がらせをしてくる上級妃も、いやらしい目つき・手付きで絡み付いてくる前皇帝もいない!
もう私の嫁ぎ先に悩む父の顔を見なくて済む、子供ができない身体を恨めしく思うこともない、大好きな弟を自分の居場所を奪う存在だと憎々しく思うこともない!
全ては計画通りにうまくいった!
こんなにも面白い人生は、望んだって送ることはできないだろう!
私はついに望んだ幸せを手に入れることができた。
「ハァ……こんなに声を出して笑ったのは初めてだわ!」
私はこれみよがしに大声を出し、自分の宮には入らずに駆け出して、宮の前で両手を広げてくるくると回ってみせた。
こんなことをしていても誰も見ていない聞いていないから、誰にも何も言われない。
何も思われない。
何を考えているのだろうと、私が心を砕く必要もない。
なんて自由……!
チラリと見ると、従者たちは特に何も言わず、変わらず無感情・無表情にそこに立っている。
これらは私の手足になるため、感情を持たないように作った私だけの従者……だから私が何をしようとも何とも思わないし、何も反応はしない。
反応するのは、私が命令を出したときだけ。
だから私が暴漢に襲われようとも、毒で倒れようとも……指示をしていなければ、慌てることも助けることもなく、その場に変わらずただ立っているだろう。
そういう風に、私がつくった。
だからこれらは人間と数えない……私は一人だ!
ずっと望んでいた。
誰もいないところで、何にも縛られずに暮らしたいと。
ずっと宰相の娘という立場に縛られ、周囲の視線や言動に気を配って生きてきた。
後宮に来てからも変わらない……ずっと上級妃や下級妃が何か仕掛けてこないか気を配って、前皇帝のご機嫌を窺って、誰にも知られないように仕事をこなしてきた。
ずっと口元を隠しながら、本心を隠して生きてきて……自由がなかった。
「でも今は一人! なんて幸せ!」
私はそう叫びながら、また大きな笑い声を上げながらくるくると舞い踊るように一人ではしゃぐ。
人生で初めての経験に、私は高揚していた。
けれど、フッと未来のことを思い出してしまって、緩やかに笑いと足が止まっていく。
……これは私の望んだ幸せ。
だけど、私は知ってしまった。
本当の幸せを。
思い出すのは未来との慌ただしく、忙しい日々。
初めて自分が望んでしたこと……密かに憧れながらも、自分には永遠に訪れないと思っていた幸せに囲まれた日々。
でも、もうそんな日々も終わった。
……彼女に全てを伝えられて良かった。
それだけで、私は生まれてきて良かったのだと……自分が産まれてきた意味が感じられたし、自分の人生にも価値があったのだと思えた。
あぁ……もっと望めるのであれば、彼女のこれからの人生を見守りたかった。
夫婦関係で悩むことはないだろうか、苦労することはないだろうか、泣くことはないだろうか……もし彼女の子供が産まれるのならば、お疲れ様と、よくやったねと声をかけて彼女を労いたい。
できれば、彼女の子供をこの腕に抱きたい。
「フッ……クックック……アッハッハッハ……!」
そこまで想像して、また笑いがこみ上げてきた。
そんなこと、できるはずがないのだから!
なぜなら私の計画は完璧に遂行されて、私に待っているのはこの誰もいない後宮での静かな人生の終わりだけだから!
未来も家族もいないこの後宮で、私は誰にも知られることなく、ひっそりと一生を終える。
これは私の望んだ幸せ。
未来と過ごした時間は予想外の幸せで……きっと上級妃を後宮から追い出し、前皇帝を殺した私に対する罰だったのだろう。
なんて自業自得!
そう思うと笑わずにはいられない。
私は泣くこともできず、ただひたすらに誰もいなくなった後宮で高らかに笑い声を響かせた。
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読み終えて真っ先に浮かんだ疑問が、前皇帝は、遊姫の身体の秘密を知っていたか否かです。皇帝が、上級妃追放の計画や種明かしを聞く為に遊姫の寝所を訪ね、好色家を楽しませる外観や術を持たない、遊姫曰く、「女性らしい胸の膨らみもありません」と自虐する妃に、夜伽を繰り返す行為に納得しかねます。
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後、未来との初見で、未来が、「・・・遊姫、タノしませる!」も、宴等交流の場に参加しない未来が、遊姫に言えるとは思いません。遊姫の従者を未来の元に事前に派遣させていたけれど、その従者達から未来が聞き及んでいたとも考えにくいです。
結局、遊姫の幸せって何?これからは生きた屍?女でない身体を持った見た目女の末路って?現実に存在する人に対する警鐘。とどのつまり、遊姫は、正常な女性への嫉妬心なのですか?
遊姫、こういう生き方しか出来なかったのかな?
きっと宰相も弟君も“遊姫と家族一緒に暮らしていたかった„んだと思う。🥺
結婚出来ない事を遊姫は苦にしていたけど、宰相だって遊姫以上に苦しんでいるよ😢
宰相も弟君も〈前皇帝があんな事言い出さなければ、今も遊姫と一緒に家族そろって幸せに暮らせたのに〉と恨んでいるんじゃないかな😞💨
宰相も弟君も後宮でたった1人、寂しく暮らしている遊姫の心配をしてるよ。
誰か“遊姫が家に帰ろう„と思う口実を作ってくれないかな~。
遊姫が家に戻ったら宰相も弟君も大喜びするよ🤗
…不知ぬ事の幸福、覚知ったことの不幸。 それでも、自らを嘲る様に笑うしかない…。 常世は苦界。