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第5章 守るべきもの
俺の未来
しおりを挟む次の月曜日…学校では全校集会が、二階の大ホールで行われた。体育館は全面改装中で、立ち入ることができないのだ。
ぞろぞろと廊下を並んでホールへ向かうクラスがあちこちに伺える。
蓮は、遼平よりも身長が少し低く、蓮のすぐ後ろに遼平が並んでいる。
蓮は力の秘密のことばかりを考えていた。
この先自分は、この力を使わないとしたら、目の前で死にゆく人を見殺しにしなければならないということ。
『正義感の強いお前に、死にゆく人間を見殺しにできるとは思わないけど?』
蓮はふと、遼平の言葉を思い出した。
確かにそうだ。俺にはそんなことは出来ないさ…
陰と陽……俺の力は陰の力…光と影…
蓮はなんとなく、昨日のキーワードを頭の中でぐるぐると回した。
全体が整列し終わった時、身体が浮くような感覚がした。
また来た……ほとんど接点のない奴の未来なら良いが…
遼平や高崎さんなら……
俺が助ける、と蓮は心に決めた。
そこに映っていたのは、1階の昇降口のあたり…
すぐ横には下駄箱がある……
何か、速いリズムの足音が聞こえて来た。
その正体は……私服の男…?
なんだかテレビで見覚えのある、赤いプラスチックの箱を手に持っていてそこから、透明な液体が勢いよく溢れている…。
まさかコイツ…!?
ガソリンだ…こいつが撒いてるのはガソリンだ…
しかもここは1階…今は2階に全校生徒と全ての教員が密集している。
1階が燃えたら、第2校舎に向かう渡り廊下も燃えて閉じ込められる……
この男は誰なんだ……?
蓮は男の顔を凝視した。
…!?
男はサングラスをしていたが、蓮は彼に見覚えがあった。
素行の悪さが問題になり、先月退学になったクラスメイトだ。確か名前は……黒田 真だ!
蓮は慌てて時計を見る。8時50分……
さっき全校生徒で並んだばかりだから、現実世界は8時35分ほど…… 間に合う!!
そこまで考えた時…蓮は躊躇った。
もしも…全校生徒が助かれば…何百人もの未来を変えたことになる…そうなれば自分は………
陽菜と遼平だけなら……いや、全校集会の場でそんな真似は出来るはずがない…出来たとしても、後々、なぜ火災があることがわかった?などと問い詰められ、俺が犯人にされかねない…。
ここまで考えたら…もうどんな結末になっても後悔はねえな!!
蓮は自分に言い聞かせるように思った。
身体に重みが戻る。
蓮はそっと立ち上がって、先生の方へ向かった。
遼平が自分を見ているのが分かったので、小さく囁いた。
「体調悪りぃ…」
遼平は、「保健室行ってこいよ」と頷いた。
『どうした…?神崎』
「ちょっと……体調悪いので保健室に行っても良いですか?頭が痛くて……」
先生は心配そうに蓮を見る。
『ちょっと顔色悪いみたいだな…1人で行けるか?』
蓮は頷き、時計をちらっと見る。8時40分…行ける…!
廊下の角を曲がり、みんなの視界から消えたのを確認すると、蓮は全力で階段を駆け下りた。
先ほど、黒田が来た方向を見ると、まだ来ていない。
間に合った。
8時49分……
蓮は、視界に黒田の姿を捉えた。
「黒田!やめろ!そんな真似をしても、誰も得をしないぞ!」
黒田は、蓮が来たことに驚いている様子だったが、すぐに蓮だと認識し昇降口のドアから逃げ出した。
蓮は彼を追った。
蓮は、あらかじめポケットに入れておいたスマホを開き、彼の姿を写真に撮った。
そして、警察に連絡し学校に不法侵入者がいる、と連絡をした。
蓮は黒田が校門の外へ逃げ出して行くのを見届けて、足を止めた。
これで……これで俺の存在は…消えた…
最後の最後に、遼平と高崎さんを守れて良かった。
後悔はない。
蓮は空を仰ぐ。
「よく晴れてんなぁ」
蓮は大きく伸び上がってあくびをした。
一点の曇りもない、文句なしの晴天だった。
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