勇者面接官スター・ゲイザー~と、その秘書リリー・ユリー~

Gigi

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1.お母さんと、いっしょ

後編

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「経歴の最後、先月ですね。エビングハウスの竜退治成功、とありますが、この経緯や動機ならびに結果について教えてください」
 竜退治が真実であればかなりの高評価です。そしてこの項目だけに成功という明瞭な結果が書かれています。
「はい、子竜ですが、ええと……」
「経緯を詳しく教えてください」
「動機とも重なりますが、よろしいでしょうか」
 アロンさんの問いかけに私はうなずきます。まとめて聞けるのならそのぶん時間を省けますから。

「僕はエビングハウスの町に行きました。噂よりも寂れていて、それは採掘場を巣穴に選んだ竜が来てからです。当然ですが竜の棲み着く場所は危険で近寄れませんから。町は仕事を失い人が離れ、僕が着いたときに残っていた人口は数えるほどでした」
「少し、よろしいですか?」
 申し訳なく思ったのですが、アロンさんの話を遮ります。誤解や偏見を持っていないか確認しなければなりません。もしこれが勇者面接でなくても、たとえば魔法使い称号や僧侶称号の面接であっても同じことを確認するでしょう。この面接までの試験に合格しているので基礎知識はあると思うのですが。
「エビングハウスは鉱山の町ですね。カペル地方の中でも僻地といえる場所です。そこに竜が新しく巣穴を作ったのは、どのような理由があると思いますか?」 
「はい。竜は危険な場所を好んで巣に選ぶと聞いたことがあります。噴火前の火山であったり、水害前の川辺であったり。……エビングハウスの場合は、鉱山の崩落の可能性が高いと僕は考えました。もちろん竜自体も危険です」
「つい先日、エビングハウスでは大規模な落盤事故が起きました。それと関係があると思いますか?」
 私の言葉にアロンさんは目を丸くして驚いています。口元を押さえた手があごに滑り、膝の上に落ち、強く握っています。
 まだ知らなかったのでしょう。それほど大きくはない町というのもあり、一般に情報が出回ってくるのはもうしばらく経てでしょうから。
 勇者面接官の私は宮廷公務員なので一般よりも少し早く正確に知ることができます。おととい下の階の冒険者ギルドから聞こえてきた噂話を情報局で調べたところ、落盤事故は真実でした。
 それとアロンさんの話を聞いていて思い出しましたが、竜が棲み着いたという情報も先月に入ってきていました。どちらも秘匿事項ではないので誰に教えても問題はありません。そして面接に関係があることです。アロンさんの竜退治の実績を詳しく知るためにです。

「ねえ、アロンちゃん、なにを言っているの? 冗談よね、いつそんなところに行ったの? 危ないじゃない! なんで? ママは知らないわよ? なんでママの知らないことを言うの?」
「親戚の家に泊まりに行くって言っただろ……」
「おじさんの家に遊びに行ったんでしょ? 仲良しだものね、ねえ? 竜退治なんて、冗談よね? そんな危ないことするはずないわよね?」
 動揺していたアロンさんが背筋を正しました。今は母親のほうが動揺しています。面接に関係ないので構いませんが。
「……僕は町で、なにか自分にできることはないかと考えました。その……崩落したという採掘場は、それなんでしょう。その竜と関係があると思います。ですが僕には竜なんて倒せませんし、もしも倒したところで、竜が一度選んだ巣穴の危険がなくなるわけでもありません」
「アロンちゃん、おじさんは? おじさんといっしょに行ったのよね? ひとりで遠くまで行くはずないものね?」
「そのときに、麓のほら穴のほうにも竜がいると町の子供から聞きました。ひとりで遊んでいるときに見つけたそうです。町の鉱夫は採掘場のほうの竜に怯えていますし、出ていった人も戻ってきません。そんな最中で二匹も竜がいると噂が立てば、この町は終わりだと……そう思いました」
「アロンちゃん? ねえ、アロンちゃん?」
「具体的にどのような行動をなさったのですか?」
「教えてくれた子供には秘密にしているように言いました。秘密遊びをさせるような感じです。そして僕は、ほら穴にいた竜を見つけました。小さなひび割れ程度の巣穴ですし、眠っていたのも小さな……その子供ほどの大きさの子竜です。それでも情けないことに、僕は足がすくみきっていました。長く棒をつないで、離れて子竜を突っつくことしかできませんでした」
「そうよね、アロンちゃんはやさしい子だものね、やっつけるなんてできないわよね!」
「結果を教えてください」
「はい。子竜は僕に気づいて退屈そうに空へ飛んでいきました。相手をするまでもない、と呆れられたのでしょう。その直後に大雨が降り、ほら穴は浸水しました。おそらくは小さな子竜でしたので、災害もその程度なのだと思いました。……ですから、その、退治したというのは、嘘……です」
「嘘じゃないわ! アロンちゃんは正直なの! 謙虚だから自慢しない子なだけ! 怖ろしい竜なんて簡単に倒せたわよね? アロンちゃんは優しいから他のひとに手柄を譲ってあげたのよね?」
「報酬はありましたか? あった場合、対価としてどう感じましたか?」
「報酬は……」
 アロンさんは考えています。
 私の印象では、ひと月前のことを思い出しているようには見えませんし、金貨の数を数えているようにも見えません。つい昨日、ついさっきのように目の前の光景を見ています。私の心証なので客観性に乏しく、面接の評価対象にはなりませんが。
「その子供と……約束したんです。大きくなったら、いっしょに悪い竜をやっつけようって。僕が一人で竜退治に行って、置いてけぼりにされたって、怒られちゃって。退治なんてしてないのに、おかしいですよね。でも、真剣に言うんです。力を合わせたら、どんな敵でも倒せるんだって……いつか、鉱山の竜も倒すんだって……」
 アロンさんの目に、涙がこぼれました。
 私の後ろにいる秘書のリリーもアロンさんの話を聞いて泣いていますが、面接には関係のないことですので構いません。ティッシュは実費ですし。
「そしたらまた町に活気が戻るだろうって、また人が戻ってくるだろうって。それが……報酬です、希望を得られたことです。僕は約束を守るために強くなります。ならなければいけないんです、本当に竜を倒すために。だから、勇者になりたいんです、あの子との約束のために……」
「それは、志望動機ですか?」

 アロンさんは身近なところからと言っていたのに今度は竜退治をしたいと言っています。もちろん勇者面接は裁判所ではありませんし、応答に矛盾があっても構いません。そして同一人物が複数の異なる証言をした場合は最も信用性の高い内容から評価の対象として選択するので問題はありません。

「それでは、アロン・マザーコーンさん。お疲れさまでした、本日の面接は終了です」
「ちゃっと! ねえ、この子は勇者よね? 勇者になれたのよね? 面接は終わったの?」
「面接は終了しました。個人的な雑談という程度であればお伺いします。もちろん勇者面接官としての職務規定が優先されます」
 私は寛容で親しみ深い人間のつもりですから。
「ねえ、あなたが決めるんでしょ? アロンちゃんを勇者にしてくれるんでしょ? もう、勇者になったのよね? もう決まったのよね?」
「合否結果は後日郵送します」
「もう勇者になったのよね? 郵送が来てから勇者なの? じゃあいまから勇者でもいいじゃないの! アロンちゃんは! 勇者なの! もう決まってるの!」
 勇者を決めるのは私ですと言おうとしましたが、その前にハンドベルが鳴りました。
 このベルは面接終了の合図ではありません。ちなみに面接の終了時間は私の執務机のほうから見える魔法水晶の置き時計が刻んでいます。十分ごとにヒヨコが、六十分ごとにハトが出てきますが音は鳴りません。歯車をひとつ取り出しただけで静かになりました。だたし四時四十四分にヒヨコとハトが同時に出るようになってしまいました。午前も午後もです。
 ところで、いま鳴っているベルですが、心地の良い澄んだ音色です。鳴らしているのは秘書のリリーです。

 黒い服のひとたちが現れました。
 母親の両腕両肩をつかんで退室させます。
「待って! この子はなんにもできないの! ママがいないとなんにもできないの! そうよね? アロンちゃんはそういう子よね? 待って! 勇者にならないと、この子はなんにもできないの! 待って……!」
 アロンさんは深くお辞儀をしてから自分で歩いて退室しました。
 重く厚い扉が閉まります。

 リリーがローズヒップティを淹れてくれますが、ポットを持つ手が震えています。
「母親は、あれだけど、アロンさん、いいひとですね、子供、好きで、約束守るって、言ってましたね……!」
 震えるリリーが泣きだしました。
「ああいうひとこそ、勇者に、なるべき、ですよね、こころから、いいひとだから!」
 私は不採用のスタンプを押したところです。
 リリーはますます涙を流しました。
「夢とか、目標があったら、ひとは、強く、なれるんですよ!」
「夢や目標が叶うほど強くなってからでも遅くはないと思います。アロンさんは現時点の実力で勇者に相応しくありません」
 この勇面室は扉も窓も閉めると静かです。今はちがいますが。
 新しいローズヒップテイの香りが立ち昇っていきます。
 落盤事故で新しく金の採掘道が開けたことは、まだ一般には秘匿事項です。

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