勇者面接官スター・ゲイザー~と、その秘書リリー・ユリー~

Gigi

文字の大きさ
4 / 28
2.話術師

後編

しおりを挟む

「それでは経歴についていくつか質問をします。最初の冒険はカロッサ海域で半魚人サハギンの撃退、とありますが、船上ですか? このときの経緯を教えてください」
「はい。出航中に魔物に遭遇し、船員や同乗の冒険者の方々の奮闘の中、私も補助になればと思い戦闘に参加しました。僕の本来の冒険の目的地は対岸の町でしたので偶然といえますが、ベテランの冒険者の活躍を間近に見ることができ、撃退に成功しつつ多くを学べました」
「意図せずに最初の実績となったわけですね。その対岸の町を冒険の拠点にしようと向かったのですか?」
「はい。タールマン地方は先人たちによる冒険開拓の歴史が長い土地ですから、当時の僕のような初心者でも攻略しやすいダンジョンが多くあります。そこで力をつけて、自分の冒険を開拓していこうと考えました」

 ボルドウィンさんの語り口にはなにかの癖があります。質疑応答として関係があると見るべきでしょうか。
 そして経歴は本日の面接者のなかでは多いほうです。項目をたどっていくと敗北や撤退といった結果も含めていることがそうさせています。
 大抵の面接者は成功経験のみを選んで記述しますので、正直に失敗まで書いていることは珍しいといえるでしょう。
「ではその開拓について、エーベル洞窟での経歴から最初の拠点とは離れた冒険になっていますが、このときの経緯と成果について教えてください」
「はい。自身の能力を確かめる機会を探していたところ、ギルドの依頼でエーベル洞窟の調査を見つけました。ほかの冒険者の話や下調べをした情報から、同依頼で集まったメンバーであれば最深部まで到達し帰還できる可能性が高いと確信しました。結果は……確信以上でしたので、私は安全確認程度の役割でしたが」
 ボルドウィンさんは話し始めと結びににっこりと笑みを浮かべます。応答における合図の意思表示と捉えることができます。こちらとしても会話が成立しやすく限られた面接時間で多くの質疑応答ができそうです。面接者にとっては大きなメリットでしょう。

 経歴から察するところボルドウィンさんのパーティー内での役割は、おおむねほかのメンバーのサポートです。
 同行パーティーだけではなく合同チームの実績も複数あります。逆に単独の冒険経歴は記されていません。意図して書かなかったのか本当に皆無なのかは実績が示唆しています。予想では前者です。
 ボルドウィンさんの主な職業は魔法使いで、同英雄称号を得ていますので実力に疑いはありません。自称と国家称号受得では雲泥の差ですから。
 実力がありながらあえて称号を得ようとしない方もいますが、おおかた高額の受験料や思想宗教上の理由です。
 ちなみに国家称号を与えられると冒険者ギルドの定めるランクは無条件でAダイヤ以上になり、一度の依頼報酬は受験料よりも高額なので、借金をしてでも受験に臨む方もいらっしゃいます。
 この面接を含めた勇者試験もそうですが、受験の手続きや会計は英雄称号本課受付係の業務ですので勇面室には関係はありません。あるとすれば書面の記載漏れや取り違えがあるので面接者と経歴書の確認が必須であることくらいです。ミスはこちらよりも英雄称号本課受付係のほうが多いのですが、こちらは送った書類の中にリリーの描いた似顔絵が紛れていることが多いです。

 ボルドウィンさんへの質疑に戻ります。
「魔法使いを主な職業としているようですが、この職業を選んだ理由をお聞かせください」
「はい。僕はご覧の通り幼い頃から体格に恵まれたほうではありませんので、パーティーの前衛に立つのは無謀であるという自覚は早くから持っていました。つまり僕自身の実力は低いと評価しています。……なので冒険をするには仲間の力が必須です。パーティーにおいては体を張ること以外、特に魔法使いであれば知見を深めることで能力を最大限発揮できると思いました。私にできることとできたこと、両方が魔法使いである理由であり今の自信にもつながっています」
 ボルドウィンさんの話しぶりには、やはり癖があります。これも応答における合図でしょうか。少し試してみます。
「そのために努力をしてきたということですね。魔法使いとして、ほかの冒険者よりも特に心がけるべき点はどういったことだと考えていますか? 経験上で感じたことを教えてください」
「ええと……。僕の経験上では、冒険前の作戦の発案……ルート確認や各役割の確認、それとモンスターの事前情報を共有するために書述調査もしています。現場では後衛ということを活かして仲間への指示や状況に合わせた補助魔法を絶やさないように心がけています」
「補助魔法ということですが、標的への妨害魔法やダメージを与える攻撃魔法もよく行いますか?」
「はい。ひと通りの魔法は習得しておりますので、状況に合わせて。……ですがパーティーのみなさんが活躍してしまいますので、私の目立てる出番はそれほどなくて」
 ボルドウィンさんは表情を苦くほころばせながら言いました。状況や相手に合わせる能力はかなり高いものと思われます。

 魔法使いはパーティー内で後衛を務めることが多く、単独の冒険であれば不向きとされています。
 それでも決して補助役という役割に留まるわけではありませんし、ボルドウィンさんのように称号持ちであれば単独冒険も可能でしょう。そして旅慣れた冒険者ほど、攻撃起点や戦略の要として魔法使いをパーティーの中心に据える傾向があります。
 そしてボルドウィンさんはその認識があり、これまでパーティーを主導する側だったことがわかりました。

「では直近の冒険で、ファルベルク洞窟で死霊騎士ネクロナイト討伐成功とあります。構成メンバーと各々の冒険者ランクをお伺いしてもよろしいですか?」
「戦士、盗賊、僧侶、そして魔法使いとして僕の四人です。みなの冒険者ランクは……申し訳無ありません、私の不注意で確認を忘れてしまい……。Cシルバー以上の募集でしたのでギルドの選定を信用しました。それと、期限間近で急いでいたこともあります。私の要望としては、もう少し期限というものは融通を利かせるべきだと思っているのですけどね。ええと、同じくギルドの定める戦闘レベルは覚えているのですが……」
 私はうなずいて促します。おかしな話です。
「戦士が四十四、盗賊が三十八、僧侶は四十五、僕は二十五です」

 ボルドウィンさんとのレベルの差が気になります。
 ボルドウィンさんは称号魔法使いなのでAダイヤランクですが、ほかのメンバーはどうでしょう。ボルドウィンさんのように冒険者ランクと戦闘レベルとは比例しない場合がありますから。
 ネクロナイトの攻略推奨レベルが高いぶん、ボルドウィンさんのレベルは低く感じます。このレベルで国家称号受験に合格したことも実際に優秀なのですが。
 そして討伐にも成功しています。討伐結果はギルドで確認できますし、こちらのほうの嘘はわざわざつかないでしょう。
 仲間の情報を確認してないのを減点評価と考え、それ以上に自身が高レベルパーティーを率先した印象評価のほうが勝ると踏んだのでしょうか。それならば二つの賭けをしていますので度胸はあるといえます。
 すると、あえて低ランクに留まる高レベルのメンバーを集めネクロナイト討伐を行い、勇者面接に向けての実績作りとしたと考えていいかもしれません。逆よりも討伐の成功率は高いでしょうから。
 ただし経歴にどのような意図があっても、実績以上に評価に影響することはありませんので問題はありません。あるとすればこの場合、私は食堂の割引券の有効期限にうるう年が含まれていないことを不服と思っただけだということです。
 そして私はしっかりと、ヒヨコが出てきてから五秒を数えました。私は時間や期日にルーズではありません。面接に関してボルドウィンさんの唯一の失敗です。評価には影響のないことですが。

「それでは、ボルドウィン・メンターリさん。お疲れさまでした、本日の面接は終了です。合否結果は後日郵送します。質問がありましたら面接外ということであればお伺いします」
「ありがとうございます、スター・ゲイザーさん。本当に、こういった場でなければこの花束をお贈りしたいのですが、行き先がなく困っています。良い空き花瓶があれば教えていただけませんか?」
「良いかどうかはわかりかねますが、空き花瓶なら廊下に出てすぐ横にあります」
「貴女の選んだものであれば、きっと良いものでしょう。……それでは失礼します」

 甘酸っぱい香水の香りが閉められました。
 私はローズヒップではなく、ローズヒップテイが好きなのです。ちょうどリリーの描いていた似顔絵も完成したようですが興味はないので、ローズヒップテイを淹れてくれるのを待ちます。
「なんかいけ好かないんですよね、ああいうの。キザっていうか裏がありそうっていうか」
 ふんわりとしたお茶の香りにとがったリリーの声が混じっています。
「絶対、ハーブティーを自分でブレンドしておしゃれなベランダですすりながら小鳥にエサやって悦に浸ってるタイプですよ。勇者としてどうなんですかね、勇者がそんなちゃらちゃらしたことするもんですかね!」
 私はモップを片付けもせず面接中に似顔絵を描くことに没頭し今来た客の根拠のない冷評をするのを秘書としてどうかと思います。

「話術や情報収集も能力のうちです。ボルドウィンさんは、おそらく自分の能力を過小評価しています。相手の情報を得て戦略を練ることは立派な実力だと思います」
 ローズヒップティの香りがデスクから昇っていきます。
 私は経歴書に『審議要請』のスタンプを押しました。合否保留の中でも合格に近い位置づけです。同時にリリーからは不満の声が上がりましたが覆りません。もう押したので。
 つまりこのスタンプでのミスは一切許されず、それが勇者試験における最終判定となります。
 ボルドウィンさんは勇者として体力面が気になるところですのでその旨を追記しました。情報局が追跡調査をして問題がなければ称号授与になります。
 おそらくですがボルドウィンさんは、ギルドの定めている戦闘レベルや冒険者ランクは勇者評価に直接の影響はないと考えたのでしょう。
 そこで不合格であっても、次回の機会で補える箇所を明確にされています。勇者への志望動機を尋ねても、私はどうこうと答えてはぐらかされたかもしれませんし。すると冒険を始めた当初から勇者を目指していたのかもしれません。
 こちらとしては、いわば面接の弱点を突かれたわけです。この勇者試験への合否を問わず、結果が出ればボルドウィンさんを縛り付けるものもなくなるわけですから。
 今後の活躍は期待できるものです。英雄称号というのも人事ですから、期待感先行は早いに越したことはありません。
「それとリリー、ストーカーの件も保留です。少なくても一人は減ったでしょうから」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...