8 / 28
4.呪われた戦士
後編
しおりを挟む「その宝箱についてですが、怪しく思ったのは、開ける前と後のどちらですか? パーティーに盗賊などの感知技能を持った方はいらっしゃいましたか?」
「ええ、感知魔法を使える者がいたんですが……廃宮殿と同じパーティーです。そこに比べるとホルスト洞窟の難度はもの足りなく、強敵といえるモンスターもすでに倒されていましたので、それでちょっとした遊び気分で、宝箱を調べずに開けたら独り占めできるという……いま思えばバカげた遊びです。解呪の治癒魔法を使えるやつもいないのに……。ああ、開ける前に怪しいとは思ったんですけど、怪しいからこそ財宝が入ってると思っちゃったんですよ……白金のぶんを取り戻したいとも思いましたし……」
デールさんは床に貼り付いていて顔は見えませんが、頬だけが動いてしゃっべっているのは視認できます。かつてこのような姿勢で面接に臨まれた方はいらっしゃいません。質疑応答が可能であれば構いませんが。
指定冒険地域においては、地理局の国土調査チームが常時調査を行って地形実態や出現モンスター等の危険度により、立ち入り許可のランク制限を設けています。
この調査書と過去の冒険者実績を参照して冒険者ギルドが攻略推奨レベルを定めています。標本とする冒険者の帰還率が七割以上であれば冒険立ち入り可、冒険目的の達成率が五割以上であれば推奨、といった具合です。野生の肉食動物における狩りの成功率が一割弱から五割と考えると妥当な結果なのでしょう。ただし野生動物における狩猟行動は冒険者の収入以上に生存に直結しますので比較が適切かはわかりません。冒険者は事前準備ができますし未達成帰還の判断も可能です。そもそも冒険自体が任意ですから。冒険者は狩られる側として見ることもできます。
そしてこの攻略難易度は、全体的には年々下がっていく傾向にあります。これは冒険者たちによる集合的経験により攻略方法が確立されていくからで、先駆者により危険が取り除かれる影響は微々たるものです。
強敵モンスターがいなくなれば、より強いモンスターが代わって現れるだけです。危険は絶えず棲み着くものですし地図が常に完璧とはいえません。だからこそ冒険指定地域として定められているわけです。
デールさんの行かれたホルスト洞窟もそのひとつです。難易度の低さ、つまり帰還率の高さは生存の保証ではありませんし、冒険であるからには誰しもが最初の犠牲者になる可能性があります。勇者のみならず冒険者として必要な認識です。
「危険である認識と、その対策がなかったということですか?」
「ああ、いえ、危険は承知です。いつも体を張ってるわけですし。でもですよ、宝箱の罠や呪いって、宝箱全体からすると確率は低いですよね。だから対策はなくても大丈夫だと考えました。自分の運の悪さを考えていなかったのが原因です……」
ちがいます。
「なぜ危険性の疑われる宝箱を開けたのですか?」
「なぜって言われても……。宝箱があったら、開けたくなるじゃないですか」
「わかる!」
私の後ろからリリーが声を上げました。
すぐに着席したようですので、面接への影響はないものと判断します。
質問を続けます。
「先ほどの質問に戻りますが、そのホルスト洞窟での成果を教えてください」
「ええっと、金額でいうと結局、俺の取り分は金貨二枚でした。攻略度からすると平均的だと思います。でも、呪いの治療には金貨三枚がいるんですよね……ああっ!」
デールさんが突然、立ち上がりました。
体をのけ反らせ、ふたたび大剣を振り回しながら走り出します。
ランプシェードが破壊されました。
ランプ本体も割れていますので椅子のぶんも合わせると、ちょうどデールさんの取り分である金貨二枚ぶんの損害でしょうか。デールさんの大柄の体格とこの大剣の間合いでは天井にも届くでしょうから、高額なガラス照明まで壊されたら金貨二枚どころではありません。
いま、三枚を超えました。
壁掛けの絵画が真横に破られたからです。ランプシェードとともに英雄称号課各来客室用風紀項目の経費内で購入したものです。リリーに選定を任せたところ奇妙なウサギが剣を掲げている絵画になりましたが、ようやく交換できる機会が訪れたようです。カメの形のランプシェードもリリーの選定です。
室内風紀はともかく、状態異常時の責任阻却期間は罹患後丸一日間ですので、二日を経ているデールさんには責任を持って全額弁償してもらいます。しかし今は面接中ですので職務を優先します。請求書はその後でリリーに用意してもらいます。購入の選定は私が行いますが。
デールさんは大剣を両手で持ち、コマのように体を回転させています。
「すみません! 本当にすみません!」
「デールさんが勇者になられたとして、具体的にどのような工夫で冒険をなさいますか?」
「そっちに行ってしまったら避けてくださいね! えっとですね、俺は自分で言うのもなんですが、けっこう調べ物とか得意なんですよ。過去の資料や経験から確率を分析するんです。さっき言った宝箱もそうです、罠の確率は低いから、それこそ勇気を持った挑戦です。勇者は冷静な判断が必要になりますから、より成功につながる判断を心がけたいと思います!」
デールさんはその場で回りながら言うのですが、顔の位置は変わらないので聞き取りやすくはあります。
どうやらデールさんは確率というものについて履き違えた解釈をしているようです。
確率は重要性と関係がありません。危険性において頻繁に起きない事態は、たいてい最悪の事態だからです。宝くじの話ではありませんが一生を左右するほどの可能性であれば期待値は無視できます。この宝箱の場合では、低確率で起こる危険への備えを重視すべきでした。現時点のデールさんの呪いの損害賠償はその冒険の報酬を超えていますから。
損害はまだ増えそうな勢いです。
デールさんの回転が加速し、大剣はこちらへ向かってきます。
リリーがハンドベルを手に取りました。
「室長、黒服さんを呼びましょうか?」
「いいえリリー。ベルを置いてください」
仮にですが、デールさんの状態異常に責任阻却が適用されたとしても、宮廷公務員への暴行行為については責任能力による免責事項はありません。しかし管理局の規定では、局課室担当長は職務上であれば違法行為よりも職務権限を優先することができます。
いかなる事態であれ面接は終了時間まで続行します。途中で退室させることは評価基準の示唆につながりますから。
とはいえ、魔法水晶の置き時計は時間を告げています。
私の目の前でデールさんが大剣を振り回しているので見えづらくはありますが、間違いなく面接終了時刻は近づいています。
「ああ! そっちに行きます! よけてください!」
「最後になりますが、勇者称号について質問はありますか?」
「やっぱりダメですかね、俺! 面接で暴れたら落ちちゃいますかね!」
「合否結果は後日郵送します」
「呪われたままで勇者になれるんですかね! そんなひといませんよね! どうやったら止められますかねこれ! 本当はこんなことしたくないんですよ! いろいろ壊してしまいました、ごめんなさい! 呪われてるんです! 勝手に動くんです!」
調べたらわかることなので答えます。調べ物が得意なら知っているかもしれませんが。
「呪いを含む状態異常の罹患中に勇者称号を授与式された前例はありません。仮の話という前提ですが、呪われた状態のまま勇者称号を授与されると想定するならば、勇者称号授与時には勲章や証明書に添えて勇者エンブレムも与えられますので、それを装備すればほとんどの状態異常耐性が得られ、その瞬間に呪いは解けると思われます」
デールさんの回転する向こうで、魔法水晶の置き時計が面接終了の時刻を指しました。もしこの時計が、この中にある魔法水晶への損傷を与えた場合ですが、弁償額はAダイヤランクの冒険者が一生をかけても払えないでしょう。面接の終了次第、早い内に退室させたほうがいいかもしれません。
「では、以上で面接を終了させていただきます。個人的には貯金を崩すなり旧知の仲間の方々に代金を借用するなりなさって、教会に行かれるか解呪魔法を使える僧侶の方に治療魔法を施してもらえばよろしいかと思います」
私は困っている人を放っておけない性格のつもりなので教えてあげました。
現状のところ呪いの状態異常を解く方法は、時間経過のほかではこの二つくらいでしょう。呪いは万能薬でも効きませんから。
「ああ! もらえるなら今すぐもらいたいです、勇者エンブレム!」
「合否結果は後日郵送します」
今度こそハンドベルが鳴りました。よく澄んだガラスの音色です。
黒い服のひとたちが現れました。
デールさんの全身をを押さえこんで退室させていきます。
勇者称号授与式は宮殿の玉座の間、通称プリンセスコートと呼ばれる場で行われます。国内外問わず各界著名人も集まり、そのあと祝賀会などもあります。
最悪の事態のひとつとして、そこで大剣を振り回されてはたまりません。勇者称号授与は、国王陛下の下で行われますから。
「さすがに呪われたままじゃ勇者になれませんよね……」
私が『不採用』のスタンプを押すのに合わせてリリーがつぶやきました。
仮に合格であっても称号授与は一年ないし二年ほど後になるので、さすがに現状の呪いが続いているとは思えませんが、デールさんが病理的慢性状態異常でないことをお大事に願います。
ちなみにこの一年ほどの期間は内定後追加調査期間ですので、面接における採用および勇者全試験合格の通知はしますが本決定ではありません。この期間で不採用になられた方もいくらかいらっしゃいます。
それとプリンセスコートの式典準備ならびに関連する行事日程の調整期間でもあります。新たな勇者の誕生は国家レベルの重要事項ですから、王国初代勇者誕生の日とされる勇者記念日に授与式が行われます。ちなみに祝日ですが宮廷公務員は休めません。
「デールさんは身体能力こそ優秀なのですが、自己管理に加えてリスク管理に重大な欠点があると判断します」
「それより室長、どうしますこれ……」
リリーはぐるりと勇面室を見渡しました。
「リリー、請求書の見積もりは私がやりますので、次の面接時間開始までに片付けをお願いします」
「ええ? ぜんぶですかあ……?」
力なくリリーは事務机に突っ伏しました。
ゾンビのような目が新聞にとまって蘇ります。
「あつ、値段が高騰してますよ! なんかものすごい安くなってたのでわたし買ってたんですよね白金!」
0
あなたにおすすめの小説
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる